4話
「これが、今の鷹野なのか?」近藤がスマホの画面を見ながら言った。
「そうみたいね」初上がさらりと言った。
「探してたんじゃないのか?」
「そのまま返すわ」初上がベンチから立ち上がった。「もっと、何かないの?」
「いや……そうだな……俺が知ってる鷹野とは少し違っていたからかもしれない」
「ついてきなさい」初上が歩き出す。
「なに? どこに行くんだ?」近藤も早足になって初上についていく。
「鷹野さんに会いにいかないと」
「場所が分かるのか」
「知らない。探してもらうわ」
「誰に」
「いいから、鷹野さんを助けに行くわよ」
初上はそう言って、おもむろに電話をかけ始めた。
「何を焦っているんだ」
「鷹野さん、多分、死ぬつもりだわ」
「何だと?」
「あんな無意味なヘイトスピーチ、そうとしか思えない」
「場所を知ってる」
「え?」
「鷹野がいる場所を知ってる。あそこは、ゆうちゃんのお気に入りの場所なんだ」
「教えて」
「地元の小学校の近くの廃ビルだ。秘密基地だと言って、ゆうちゃんと忍び込んで遊んでいた場所だ。鷹野も知ってたんだな」
「急ぐわよ。案内できる?」
「ああ。ここから、そう遠くはない」
***
鷹野は配信終了のボタンをクリックした後、ノートパソコンを閉じた。
目を瞑って考える。
ひどく、落ち着いていた。
最後の演説には悪くないスピーチだったのではないだろうか。
まさか自分が、配信者になる日が来るとは思わなかった。存外、気分は悪くない。
醜悪な言葉の渦に飲まれるのも、たまにならいい勉強になるかもしれない。
そう、たまにならばだ。
この世界で人気になると、ああいった悪意とも戦っていかなければならない。よく有名税という言葉が使われるが、それで片づけるのは、あまりに不健全だ。いじめらる方が悪い、という理屈と同じように思える。そんなわけがないのだ、いじめる方が悪いに決まっている。
彼女が死んでから、ずっと、足掻き続けてきた。
何をすべきなのか、考えた。
自らの力で、変えられる分は変えてやろうと、思っていた。
結果は失敗だった。
彼女たちは強かで聡明だったが、自分は愚かで浅はかだった。
愚か者なりに、次にやるべきことはなにか、思いを巡らせた。
彼女たちと同じように、何かを成し遂げてみたかった。走り切ってみたかったのだ。
誰もいない、階段を昇っていく。
息が切れるのが、心地よく感じた。
後の世界のことはどうでもいい、ただ、全うするだけいい。
この階段を昇り終えても、彼女たちの元へはいけないだろう。
それは少し寂しいが、仕方がない。
ドアを開けた瞬間、風圧に負けて転びそうになった。
一歩踏み出すと、美しい夜景が目に飛び込んできた。
下を見れば灯りが、見上げれば星が、まだ薄汚い世界を隠してくれていた。
「綺麗だ……」鷹野は思わずつぶやいた。
未来に期待するだけの価値はある。考えていたよりも、世界は最悪ではないのだ。
「死ぬつもりなのね」初上の声だった。
驚きはなかった。なんとなく、初上はここに来るだろうと想像していたからだった。最後に話しを聞いてもらうなら、初上がいいと考えていたぐらいなので、嬉しかった。
友理も黒江も、初上も、この世界に生きるに相応しい強さを持っている。それが時に、誰かを苦しめていることも知っている。
「はい」鷹野は振り返って答えた。
「じゃあ、その前に少し話をしましょう」初上がにこやかな笑顔で言った。




