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白日アリアは死んだのか?  作者: 黄色之鳥
第3章 蒼い日々
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2話

 加古井は事務所で、ごろごろと音を立てているケトルを眺めていた。


「社長、コーヒーでいいですか?」


「いや、俺は大丈夫。ありがとう」


 お湯が沸き、ケトルの電源が自動で切れたので、カップにお湯を注ぐ。抹茶スティックラテの緑の感じさせる香りに癒されながら、席へと戻った。


「変な話なんだけどさ、これを見る度に、なんか安心しちゃう自分がいるんだよね」大和田はスマホに目を落としながらつぶやいた。先ほどからアリアの声がしていたので、配信でも見ているのだろう。


「安心……」加古井が繰り返す。「まあ、ちょっと分かります」


「里沙ちゃんがふらっと戻ってきて、どこかで楽しくゲームをやってるようにしか見えないからさ……違うのは分かってるけどね」大和田が頭をかいた。「今だって、スタジオに行ったら、里沙ちゃんいるんじゃないかって思うもん」


「言いたいことは分かりますし、私も同じような感覚になる時があるんですけど……」加古井が抹茶ラテに口をつけてから、続けた。「なんか、それってちょっと、悲しいなとも思うんですよね」


「寂しいじゃなくて?」


「いや……私たちって、黒江さんのことをアリアを通して見ていたんじゃないかって考える時があります。アリアっていう存在ありきで、黒江さんを認識していたというか……伝わりますかね?」


「ああ……うん、伝わる」大和田が悲しげな表情を浮かべた。「でも、違うと思うよ」


「そうですか?」


「アリアは里沙ちゃんが残した大切な作品で、なまじそれが喋るもんだから、勘違いしたくなっているだけだよ」


「勘違いしたくなってる?」


「そう。里沙ちゃんがいなくなったことを受け入れるために、無意識に白日アリアを使ってるんじゃないかな。そうやって拠り所に縋らないと、悲しみに耐えられなくなるから」


「いつになく難しい話をしますね、社長」加古井が顔をしかめた。


「そうだねえ……例えば、僕らはお墓参りをする時にさ、故人に『会いに行く』って言ったりするでしょ?」大和田は苦笑しながら続けた。「あれはね『もう会えない』って事実に対する人間の防衛本能みたいなもんだと思うんだ。心っていうのはどうも、人の死を真正面から受け止める構造になってないみたいだからね……」


「あぁ……『もう会えない』って辛すぎますもんね」


「うん……まあだから、里沙ちゃんのことをアリアを通して見ていた、とか思わなくて大丈夫。まだ日が浅くて、ナイーブになってるだけだから。ここにいたのは白日アリアじゃなくて、里沙ちゃんだからね」


 大和田の口調は優しかった。なんとなく思ったことを言っただけだったのだが、心配をかけてしまったかもしれないな、と加古井は反省した。


「ですね……!」加古井は赤べこのように何度も首を振る。「流石社長、決めるときは決めますね」


「な~んか、褒められてる感じしないなぁ」大和田が笑いながら言った。


 抹茶ラテは適度に甘くて、美味しかった。気分が上がった加古井は、溜まっていたレインの連絡まわりの作業をかなりの速度で片づけることができた。


 加古井は毎日のようにコーヒーを飲むが、味が好きなわけではない。ただ、コーヒーを飲む、という行動をすることで気合が入る気がするからだった。パブロフの犬、加古井のコーヒーということである。しかしどうやら、抹茶ラテでも、同様の効果を得られるようだ、と今日は気付くことができた。それなら今度からは抹茶ラテを飲むことしようと考えたが、インスタントコーヒーに比べて値段が高いことに気付いたので、悩み所だった。


「そうだ、アリアちゃんのマネジメントのことなんですけど……」


「うん、望月さんと話したよ」


「え⁉ いつですか?」


「1週間ぐらい前かな。まだ全然まとまってないから、ちょっと待っててね」


「あのう……収益の面とか、大丈夫かなって思ったんですけど」


「大丈夫、今のアリアが稼いでる収益は全部こっちに入ってきてるよ」


「え? 望月さんの所には?」


「ゼロでいいみたい。望月さん、里沙ちゃんとの契約があるらしくて、詳しく話してくれないんだよね」


「あ、ですよねえ」加古井は顎に手を当てた。「いや、信用できる人なのは間違いないと思うんですけど……。例えばそうですね、白日アリアの所有権とか、そのあたりの問題はどうなるんだろうなとか、ちょっと心配になりました」


「今のところ悪用されているわけじゃないし、望月さんの話を聞いていると、里沙ちゃんの意思が絡んでるっぽいからさ。それは尊重したいじゃない?」


「もちろん、それは同意見です」加古井が頷く。「いえ、ちょっと気になっただけで、話し合いがされてるなら全然いいんです」


「うん、大丈夫。あの人も多分、白日アリアを守りたいんだと思うんだよね」大和田が微笑んだ。「今後どういう運用をしていくのかは、もう少し詰めなきゃいけないけどね」


「了解です」加古井が敬礼のポーズを取った。「エクリプスが一緒なら、アリアちゃんもきっと心強いでしょう」


「エクリプス?」大和田が首を傾げた。


「あ……、知らないならいいですぅ」

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