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白日アリアは死んだのか?  作者: 黄色之鳥
第3章 蒼い日々
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1話

 初上は大学の構内にあるベンチに腰をかけて、快晴の空を見上げていた。


 望月と話をした日から、もう1か月になる。白日アリアは毎日のようにゲーム配信を行っていた。時間ある時に配信を覗いていたが、チャット欄の誰も、アリアの存在を疑っていない様子だった。復帰当時は黒江里沙の名前がちらほら目についていたが、いまではもう、ほとんど流れてこない。アリアの休止と電撃復帰、黒江里沙という人物の自殺は、すでに乖離した話題になっていて、一部の好事家が都市伝説のような語り口で、アリアと黒江を結びつけては喜んでいるだけとなっていた。


 ネットの片隅でトレンドになるようなニュースは、毎日のように更新される。芸能人の不倫、センセーショナルな犯罪、どこぞの地域で発生したいじめ問題、どれもが人々の語り草になり、飽きられては枯れていく。


「黒江里沙は生きてたのか?」男の声がした。


「もう、話すことはないわ」初上は空を見上げたまま答える。


「鷹野に会いたいんだ」


「会ってどうするの?」


「色々と、伝えなければならないことがある」


「ねえ」初上はそこで初めて、会話の相手を確認した。「近藤君は、鷹野さんの名前をどこで知ったの? 調べたけど、YURIのマネージャーだったなんて情報、どこにもなかったわ」


「今はある」


「え?」


「あんたらが情報を横流ししたんじゃないのか?」近藤が訝しげな表情を浮かべた。


「何? どういうこと?」


「……あんた、SNSを使わないのか?」


「実はほとんど見ないの」初上は両眉を上げた。「何があったか、説明してくれない?」


「鷹野蒼司はYURIのマネージャーで婚約者だった。それが今になって流出したんだ。数年前に自殺した人気アイドルの事件を掘り起こすような記事が投稿されて、SNSで話題になっていたのが、一昨日の話だ」近藤が流暢な口調で言った。


「何それ……なんで今なの?」


「俺はそれを聞きに来たんだ。あんたら何か、動き始めたんだと思ったんだが、違うみたいだな」


「そんなことをする理由はないわ」


「鷹野に恨みがあるんじゃないのか?」


「私が? どうして?」


「相棒が、死んでるんだろ?」


「それについてはノーコメント」初上が片手を上げる。「別に、鷹野さんを恨む理由なんかない、ということだけ言っておくわ」


「そうなのか」近藤は初上の隣に座った。「どうも世間様はあいつを恨み始めたみたいだぞ」


「また始まった」初上が鼻で笑う。「みんな好きね、誰かを叩くの。仮面をつけて、浅はかな偽善と矮小な正義を振りかざすのが、そんなに気持ちいいのかしら」


「それで何人も殺してきているのに、未だに学ばないみたいだな」


「おや、鷹野さん側につくの? あいつは叩かれて当然だ、とか言うのかと思ったけど」


「今のインターネットは誹謗中傷に溢れている。クソの掃き溜めみたいな世界だ」近藤はそう言って、舌打ちをした。「俺は鷹野を憎んでいる。だがそれは、あいつが誹謗中傷の対象になってもいい理由にはならない」


「へえ」初上は右の口角を上げる。「今ので少し、あなたと話をしたくなったわ」


「どうも」近藤は吐き捨てるように言った。「じゃあ、話してくれ」


「何を話せばいいの? 私はシエラザードじゃないわ」


「鷹野の居場所を教えてくれ」


「無理ね。私も聞きたいぐらいなの」


「急に消えたのか?」


「ええ、これでも結構、探し回ったのよ」


「マネージャーの仕事も放りだして、とんずらか。流石だな、YURIを見殺ししただけある」


「そうだ、さっきの質問に戻るけど。あなたは鷹野さんの名前をどこで知ったの?」


 近藤が鼻から大きく息を吐いた。わずかな沈黙のあと、彼は話だした。


「才賀友理は、俺の従姉妹なんだ」


「あぁ……なるほどね。納得」初上は片手を上げる。


「幸せそうに見えていたんだ。俺は、ゆうちゃんの異変に気付けなかった」近藤は視線を落としながら言った。「だが、鷹野は知っていたはずなのに、見殺しにした」


「もうわかったわ。話してくれてありがとう」


「あんたも、俺と同じだろう。鷹野に大切な人を殺されて、どうして憎まない?」


「私は、あなたと同じじゃないから」


「ああ、やっぱり黒江里沙は死んでないのか」


「いえ、亡くなったわ」初上は空を見上げた。「私はずっと黒ちゃんのそばにいた。でも、助けられなかった。私も誰かに、恨まれているのかもしれないわね」


「……すまん」近藤が立ち上がって、頭を下げた。「軽率だった」


「今更?」初上は噴き出した。「ここで謝れる倫理観があるなら、もう少しマシな出会い方をしたかったものだけど」


「悪かった」


「いいわ、許してあげる」初上は短く息を吐いた。「あなたも鷹野さんを許してあげたらどう? 本当は分かっているんでしょう? 鷹野さんもあなたと同じ、大切な人をインターネットに殺されてしまった被害者なのよ」


「被害者? 笑わせるな」


「まさか、YURIの自殺の原因は鷹野さんだったって、本気で考えているの?」


「いいや違う、全て間違っている。何もかもだ。俺が鷹野を憎んでいる理由も、そんなんじゃない」


「じゃあ、なに?」


「ゆうちゃんが死んだあの日、鷹野は何も言わずに姿を消した」近藤は地面の一点を見つめながら続けた。「それが今になって見つかったと思ったら、人気バーチャルストリーマーのマネージャーとして再出発していたんだ。連絡のひとつもせず、葬式にも来なかったあいつが、何もかもを忘れたような顔でな」


「そうだったの……」初上は鷹野のいた日々を思い出した「鷹野さん、何も話してくれなかったわ」


「なあ、聞きたいんだが」近藤がスマホを取り出して、一枚の画像を見せてくれた。黒江と鷹野が映っている、かなり前にアリアの中の人として流出した動画の切り取りだった。


「こいつらは付き合っていたのか?」


「いいえ、そういう関係ではなかったと思うけど」


「そうか……少し安心した」近藤はため息をついた。「婚約者を弔いもせず、何食わぬ顔で新しい女を作っていたとしたら、俺はあいつを殺していたかもしれない」


「すごいこと言うのね」初上は横目で近藤を見た。目が座っていて感情が読み取れない表情をしていた。「でもまあ、私があなたの立場だったら、同じことを言ったかも」


「だろうな」


 話が途切れる。


 軽くあしらってやろうと思っていた近藤と、ここまで実のある会話ができたことは収穫だった。近藤には色々と正体を明かしてしまったが、これなら、放っておいても問題ないだろう。前に言っていた『活動の邪魔をしたいわけじゃない』というのは、どうやら本当だったようだ。


「最近復帰した白日アリア、あれはなんなんだ? 良く似た別人が引き継いでやっているのか?」近藤が話し始めた。


「それは明かせない」初上は首を横に振る。


「AIか」


「明かせない、と言ったわ」


「俺にとっては白日アリアの正体がロボットだろうがなんだろうがどうでもいい。ただ、音声を模倣できる技術があるなら、試してみたい作戦がある」


「作戦?」初上は近藤を見た。


「隠れている鷹野を、あぶり出せるかもしれない」近藤は真剣な表情だった。


「やめて」初上が首を振った。「それ、最低だから」


「俺がやることだ、放っておけ」


「あなただけじゃできないでしょう。無理よ、協力できない」


 近藤はため息をついて、空を見上げた。

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