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白日アリアは死んだのか?  作者: 黄色之鳥
第2章 白い日々
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10話

 加古井は東京の夜空を見上げていた。店に入る前よりも辺りは暗くなっていたが、星が見えるほどではなかった。午後10時を過ぎていたが、周囲のオフィスビルの明かりは点々としており、夜景の彩の一部となっていた。


「それでは、私はここで」レストランの入っていたビルから出た瞬間に望月が言った。


「あれ、電車じゃないんですか?」加古井が聞き返す。


「会社に戻ります。もう少しだけ作業があるので」


「なんと……すみません、お忙しい時に」加古井はおじぎをした。


「いえ、私もよい気分転換になりましたので。また誘ってください」


「え、ぜひ、また誘います! 絶対!」加古井は右手を上げてアピールした。


「今日、望月さんとお話できて良かったです」初上が微笑む。


「はい」望月は頷いた「では、また」


 最初はどうなることかと思ったが、望月と仲良くなることが出来たのが思わぬ収穫だった。どうやら彼女は見た目とは裏腹にかなりの人情派で、初上の活動を心配していたために、今日の約束を承諾してくれたようだった。それが加古井には、たまらなく嬉しく感じた。


「望月さん」加古井はなんとなく名前を呼びたくなって、それが声に出てしまっていた。


「はい」望月が振り返る。


 加古井は少し考えたのち、先ほど言いそびれていたことを伝えることにした。


「エクリプスは望月さんの中にいるんだと思います。演じていたとか、育ててきたとか、そういうのじゃないと、私は思うんです」


「そうですか」


「えっと、だから……望月さんはずっとエクリプス・メロディなんですよ!」


「もう、わかりましたから」


 望月の口角がわずかに上がったのを加古井は見逃さなかった。それに合わせて大笑いしたくなったが、なんとか抑えることに成功する。少し酔っぱらっているかもしれないな、と加古井は自己分析した。


「復帰したい時は、いつでも声をかけてください。大和田事務所がエクリプスをスカウトさせていただきますので」


 望月は加古井の言葉に小さく頷いて応えたのち、踵を返して歩きだした。加古井と初上がその背中を見送るべく立ち止まっていると、望月がまた振り返って言った。


「私からも、もう一つだけ」


「はい、なんでも言ってください」加古井は両手を広げた。


「アリアのことは、私に任せてください」望月は右手を胸に当てた。「守秘義務があるので、私の口から詳しいことは言えませんが、里沙さんが残したアリアは、私が守ります。守り抜いてみませますので」


「ええ、よろしくお願いします」初上が頷く。


 加古井は、狐につままれたような顔になっていた。


 望月の言葉を、頭の中で反芻させる。


 アリアを守る、とはどういうことなのか。


「あの……」加古井の口から声が出た時にはもう、望月は既に背中を向けて歩き始めていた。仕方がないので、初上に問い掛ける。


「アリアを守るって、どういう意味です?」


「言葉通りの意味だと思いますよ」


「……もしかして、望月さんが犯人?」加古井は思いつきで言った。


「はんにん」初上は笑いながら繰り返した。「いえ、きっと、黒ちゃんが望月さんに依頼していたんだと思います」


「え、アリアの配信をですか?」


「ええ、私も望月さんの話を聞いて、確信が持てました。おそらく、『自分にもしものことがあったら、白日アリアをお願いします』みたいな依頼をしていたんじゃないかと」


「えぇ~……? なんで私とか、鷹野さんじゃなく、望月さん?」


「それは……なんででしょうね?」


「まあでも、望月さんなら、使命を全うしてくれそうな感じだし、いいか」


「しめい」初上はまた笑う。「多分、黒ちゃんもそう考えたんじゃないですか?」


「あぁ……望月さん、エクリプスのこと後悔してるって言ってましたもんね」


「そうですね、バーチャルストリーマーとしての自分と、リアルを生きる自分との乖離と融合を理解している人に託したかったのかもしれません」


「かいりとゆうごう……」加古井が口を小さく開けた。


「つまり、アリアをしっかり管理してくれそうな人に頼んだ、と、そういうことですね」


「う~む、納得です。今日話して、望月さんのハートの熱さを感じたところなので、悔しいですがぐうの音も出ませんね!」


「麻衣さん、酔ってますね」初上が笑いながら言った。


「や、酔ってないですよ! ただ、『アリアちゃんは任せてください』っていう言葉を聞いて、少し安心しただけです」


「それは同感です」


 気分が良くなった加古井は、また空を見上げた。


「う~ん……この辺じゃあ全然、星、見えないですね」


「そうね、もう少し暗いところじゃないと見えないと思います」初上も空を見上げる。


「じゃあ、黒江さんからも、こっち、見えないんですかねぇ」


「見えていると思いますよ。黒ちゃんは最強だから」初上が笑いながら言った。「麻衣さんって、かなりのロマンチストですよね」


「うぅ、否定できないです」加古井は顔を赤くしながら言った。今のでまた、酔いが回った気がする。「そっか、最強だから、見えてるのかぁ……」


「なんて言ってるんでしょうね?」


「う~ん……」加古井は頬に手を当てて考えた。「最強の白日アリア、再誕! とか?」


 初上が声を上げて笑いだした。


「麻衣さんが一緒にいてくれて、本当によかったです」初上が、無邪気な少女のような笑顔で言った。「アリアの未来のために、というのが黒ちゃんの選択だったのなら、私は受け入れる努力をするわ」


「ですねぇ……時間は必要ですけど」


 初上が駅の方向へと歩き出したので、加古井も並んで歩きながら言った。


「望月さん、ちょっと黒江さんと似てましたね」


「あら、どういうところがですか?」


「えーっと……ほら、エクリプスと自分を、完全に別の人格として扱ってたじゃないですか。黒江さんもそういうきらいがあったと思うんです」


「確かに、そこは同じだったかもしれないですね」


「ちなみ、初上さんはどうですか?」


「私?」初上が目を丸くした。「私はいつでも甘姫だし、いつでも初上三無姫ですよ」


「わあ」


「なんですか、わあ、って」初上が笑う。


「期待通りの答えが返ってきたなっていう、わあ、です」


 初上はおどけたような表情を作って、肩を竦めた。

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