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白日アリアは死んだのか?  作者: 黄色之鳥
第2章 白い日々
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2話

 黒江の葬儀から1週間後。加古井は事務所でレインとオンライン会議をしていた。


「すみません、葬儀にも参列できず……」レインが言った。


「いえ……それは、急でしたから」


「その、あまり自殺をするようなタイプには見えなかったので、驚きました」


「あれ、レインさん、黒江さんと会ったことありましたっけ」


「昔、一度だけ。事務所で挨拶を交わした程度ですが……どれくらいかな、2年前とかだったと思います」


「あぁ……そうなんですね。レインさんも、たまには事務所に遊びに来てくださいよ」


「いやあ……用事があればですかねえ。かなり遠いので、遊びに行くという感じではないんですよね」


「ですよねえ……」加古井がため息をつく。「事務所、寂しくなっちゃいました」


 レインが黙ってしまったので、加古井は慌てて謝った。悲しい話題を共有したかったわけではない。


「そうだ、一つ聞いても?」加古井が話題を変える前に、レインが切り出した。


「はい、なんでも聞いてください」


「黒江さんって、ライブ会場にいなかったんですか?」


「そうです。アリアちゃんには、あらかじめ録音録画してあったデータを流し込んでたんですよ」


「ああ~……なるほど、そういうことか」


「何か気になってたんですか?」


「白日アリアの中身について、SNSで話題になっていたのを見たので」


「ああ……黒江さんの自殺、ネットニュースになってましたもんね……ああいうの、どこから漏れるんだろう……芸能人でもないのに」


「いえ、黒江さんが、というより、白日アリアの本当の中身についてです。ほら、黒江さんって、顔バレしてたじゃないですか。で、ライブ中にはもう既に、亡くなられていたんですよね? となると、アリアの中身が、実は黒江里沙じゃなかったと考える方が自然です。まさか、死んだ人間が目の前で歌って踊っているとは思わないでしょう」


「ああ、確かに……」加古井は「そうか、お客さんからすれば、リアルタイムで歌ってるようにしか見えないですもんね」


「僕は初め、ライブ中に自殺をしたんだと思いました」


「そんな、ドラマじゃあるまいし」


「そう、ドラマの演出みたいな、メッセージ性のある自殺をしたんだと思ったんです」


「メッセージ性のある自殺……」


「すみません。余計なことを言いました」


「いえ、もうなんか、なんでもいいから人と話していたい気分なので、いくらでも話してください。どんな話題でも聞きますよ」


「相当、疲れてますね」レインが苦笑交じりに言った。「少し休んだ方がいいのでは?」


「う~ん……一人で家にいると、病んじゃう気がして……もう無理やり事務所に出てきてます。昼過ぎになれば社長も来るので、少しは気が晴れるかなと」


「じゃあ、社長が来る前にもうワントーク」


「どんとこい」


「初上さん、大丈夫ですか?」


「え?」


「相方を亡くして、辛い時期でしょうから」


「そうですね……葬儀の日から、私も会ってないんですよねえ……」


「連絡は取ってます?」


「連絡自体は、ええ、取れてますよ。ただ、大学には行けてないみたいです」


「ケアが必要な時期だと思いますので、寄り添ってあげてください」


「レインさん、マネージャーみたいですね」加古井が笑いながら言った。


「失礼しました。出過ぎたことを言いましたね」


「いや、ありがとうございます。うん、確かに、今日帰りに初上さんの家に行ってみようかな。顔、見ておきたいですし」


「それがいいと思います」


 駐車場に、社長の車が入ってくるのが、見えたので、レインとの通話を切ることにした。ここ数日はずっと非日常に浸っていた感覚だったので、レインとの打ち合わせで少し日常に戻ってきた感覚があった。


「麻衣ちゃん、こんな時ぐらい休んでもいいんだよ」大和田の第一声だった。


「いえ、一人でいたくなかったので」


「そうかそうか」大和田が頷く。「うん、俺も同じだよ」


「鷹野さん、どうでした?」


「いや、いなかった。ポストに詰まってるチラシの量が多くなってたから、自宅には戻ってないかも」大和田が首を振る。


「そうですか……」加古井が肩を落とす。「ちょっと……いや、かなり心配ですね」


「麻衣ちゃん、鷹野君が行きそうな場所とか、知らないよね?」


「全く、見当もつかないです。付き合いの長い社長が分からないなら、もう誰も分からないんじゃないですかね」


「まいったな……」大和田が椅子に座りながら言った。「思いつめてなければいいんだけど」


「鷹野さん、2回目ですよね?」


「2回目?」


「YURIと、その、黒江さん」


「あぁ……そうだね、2人目だ」大和田を加古井から顔をそむけた。「あの時も、時間がかかったな」


「復帰できるだけ、すごいと思います。私だったら、多分、もうやれないかも」


「……婚約者だったんだ」


「え?」


「鷹野君とYURIは、結婚する予定だった」大和田が椅子を回して、加古井に背中を向けた。「式まで、数か月だったのに」


「えっと、アイドルとそのマネージャーが婚約してたってことですか」


「うん。それが、週刊誌にすっぱ抜かれた。そこから、YURIへの誹謗中傷が酷くなったんだ。鷹野君の写真は流出しなかったのが、救いだったけどね」


「なるほど……それで、耐えかねたYURIが、自宅で首をくくった、と」


「……鷹野君もね、後を追うんじゃないか、って当時は心配だった」大和田が立ち上がり、窓を眺め始める。「友理ちゃんが亡くなって、鷹野君は行方不明になった。半月ぐらいかな、探し回ったんだけどね、ある日突然戻ってきたんだよ。何食わぬ顔で」


「やっぱり、心配をかけることばっかりするのは、昔から変わってないんですね」加古井がむくれた。


「いや、もうね、その時は鷹野君にまた会えたのがうれしくてさ、怒る気にもならなかったね」大和田が続ける。「戻ってきた鷹野君が一言目に言ったのが『人材を見つけました』だった」


「人材を見つけた?」


「里沙ちゃんと、三無姫ちゃんだよ。で、鷹野君に説得されてね、僕らは当時いた会社を辞めて、この大和田芸能事務所を設立した。バーチャルストリーマーって言葉が出始めていた頃だったんだけど、鷹野君のことをよっぽど買っていたんだろうね、俺は」


「それ、何年前の話ですか?」


「5年前かな。目の前の20半ばの部下がさ、婚約者に死なれて絶望に叩き落されて、それでも立ち上がろうとしているんだ。俺が支えてあげなきゃ、みたいな親心? いや、上司心か? そういう気持ちもあったと思う」


「私、一応3年目なんですけど、初めて聞きましたよ」


「そりゃあね、わざわざ言う話でもないから」


「じゃあ、なんで今日は話してくれたんですか」


「鷹野君、あの日みたいにひょっこり帰ってこないかな、って、そう思っただけ」


 そう言って窓から駐車場を眺め続ける大和田の横顔は、不安げに見えた。

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