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白日アリアは死んだのか?  作者: 黄色之鳥
第1章 黒い日々
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9話

 加古井が事務所のソファで目を覚ますと、午前4時を回ったところだった。鷹野は起きていて、虚ろな目でPCを眺めていた。


「おはあようございますうぅ」加古井が目をこすりながら言った。


 鷹野は加古井の方を見て、左手を軽く上げた。


「鷹野さんも寝た方がいいんじゃないですか?」加古井は自分のデスクに座って言った。


「昼に寝るので大丈夫です」


「でも、今日は収録があるんですよね?」


「収録? 何のですか?」


「え、アリアちゃんの、何か録るんじゃないんですか?」


「予定はありませんよ」


「あれ、さっきアリアちゃん、明日は収録だ~、って言ってたのに」


 鷹野が眉間に皺を寄せた。


「……何と勘違いしてるんだ? まあ、連絡を入れておきます」


 加古井もノートパソコンを開いて、自分の作業へと戻ることにした。外注のイラストレーターや動画編集担当からのメールをチェックする。思った通り、返信が来ていた。クリエイターと呼ばれるタイプの仕事をしている人は、なぜか夜型が多い。これも、加古井が夜中に仕事をする理由だった。


「そうだ、休止前ライブなのですが、運営会社が決まりました」鷹野が言った。


「あ、そうなんですか。私も何社か見積りを取ったんですけど、じゃあもう必要ないですかね」


「はい、もう大丈夫です。ありがとうございました」


「なんていう会社ですか?」


「株式会社アルゴリズム・アーツっていうところ。黒江さんの紹介です」


「へ~……どれどれ」


 加古井は企業名を検索窓にいれてエンターを押す。一番上に該当のサイトが出てきたのでクリックすると、どこにでもありそうなIT企業のトップページが表示された。


「ここ……普通のIT企業っぽいですけど。なんか、ロボティクスとか書いてあるし。イベント運営とかできるんですか?」


「VRやARの技術と実績があって、配信用のスクリプトとかの事業を展開しているようです。今回は、プロジェクションマッピングの技術を使ったライブなので、まずは技術屋っぽいところにお願いすることになりました。設営とか、イベント運営自体は向こうが提携している別会社さんがあるらしいので、そっちに」


「お~……いいですね。プロジェクトマッピング! アリアちゃんと甘姫ちゃんが実際にステージに立ってるように見えるあれですよね?」


「プロジェクションマッピングです。現実世界に、アリアと甘姫を召喚する技術ですからね。名称はちゃんと覚えてください」


「召喚……」鷹野の言葉を繰り返した加古井が噴き出す。「鷹野さん、たまに面白いですよね」


「いつもはつまらない、と?」


「え……」加古井は言葉に詰まった。まさか、鷹野は自分のことを面白い人間だと思っているのだろうか。「あのう……」


「いや、いいです。自分がユーモアに富んだ人間でないことぐらいは分かっています」


「あ、良かったぁ」


 鷹野が加古井を睨みつけた。加古井は両手を上げて降参する。鷹野は立ち上がって、事務所の窓の方へと移動した。加古井はしばらく、外を眺める鷹野の背中を見つめていた。


「加古井さんはなぜ、この仕事をしようと思ったんですか?」鷹野は外を眺めながら言った。


「はい?」加古井は眉間に皺を寄せた。「なんですか、急に」


「面接を始めます」鷹野が振り返る。


「……面接?」


「バーチャルストリーマーのマネージャーを志望した理由を答えよ」


「え、えーっと……バーチャルストリーマーが好きだったからです! キラキラしてて、楽しそうで、自分もこの世界に関わりたいなあ、って思いながら、配信を観てました! 私の夢だったんですよ。この仕事」


「じゃあ、夢が叶いましたね。この小さな事務所で」鷹野が無表情で言った。


「なんですかあ? その言い方」加古井がむくれる。「私も最初は不安でしたけど、今は大和田事務所に入ってよかったな、って思ってますよ」


「そうですか、それは良かった」


 鷹野がまた、外を見始めた。


「え? 終わりですか?」


「はい、面接終了」


「意味わかんないですよ、鷹野さん」


「萌さんに聞かれたんですよ。同じことを」


「おお、なるほど。で、なんて答えたんですか?」


「答えられませんでした」


「へ? うわ、ずるい! なんて答えたんです? いいから教えてくださいよ」


「本当に、答えられなかったんです」


「ありゃ……忘れちゃったんですか?」


「忘れた……確かに、そうかもしれません」


「つまんないですね~」加古井がため息をついた。「そういえば鷹野さん、アリアちゃんと甘姫ちゃんのマネージャーになる前は何をしてたんですか?」


 鷹野が加古井を横目で捉える。加古井には、その鷹野の横顔が恐ろしく思えた。感情を持たない、アンドロイドのように冷たい表情に思えたからだ。


「あ……いや、いいですいいです、言わなくて。鷹野さんが昔話を嫌うのは、知ってますから」加古井は両手を前に出して振りながら言った。


「才賀友理」鷹野が加古井に向き直る。


「さいがゆうり……」


「YURIのマネージャーでした」


「え? ゆ、YURIって、あの自殺しちゃったアイドルの?」


 鷹野の返答は無かった。加古井はこの後に何を言うべきか迷ったが、結局は沈黙を選択した。掘り下げて聞くな、という意思を鷹野から感じたからだった。鷹野は椅子に座って、また作業をし始めた。加古井もそれに倣って、キーボードを叩く。彼女はおもむろに缶コーヒーを持ち上げて、口へ運んでみたが、一滴も残ってはいなかった。



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