彼の事をみんなが好きだった
とても素敵な人がいる。
私がいるクラスに。
その人は、顔が整っていて美形。
そして頭が良くて、テストの点数もいい。
運動神経も抜群で、足が速い。
優れたその人のことは、みんなが好きだった。
まだ好きじゃない人も、次々に好きになる。
彼が何かをするたびに、皆が好きになる。
もはやクラスにいる女子たち全員がライバルだった。
みんながみんな、互いに彼の事を好きだと知っていたから。
私達は、この恋という異常を楽しんでいた。
けれど、彼の身を不幸が次々と襲った。
彼の心の在り方は変わらなかったけれど、彼は顔に傷を負って、テストの点を下げ、何らかの障害を負った結果運動もぎこちなくなった。
そこで私達の恋は幕引きをした。
彼の事をみんなが好きだったけれど、それは恋愛的な意味を含まなくなった。
私達は皆、彼に恋をしていたつもりだったけれど。
もしかしたらただ、恋という異常を楽しんでいたかっただけなのかもしれない。