ヘドロソウジ!
三週間後——。
準備は整った。ゼンイチは配管清掃の実地試験を、マンションの下の階から順番に開始することにした。
まずは2階の共用排水管。居住者に掲示したスケジュール通り、使用制限の時間内に作業を始める。
「じゃあ、ばらしていくねー」
簡素な工具と、冒険者ギルドで仕入れたアルミラージの角から切り出したパッキンを手に、ゼンイチは作業に取りかかった。古びた金属製の継ぎ目を慎重に外し、詰まりやすい部分に新しいパッキンを挟み込む。
「ティア、こっち準備オーケー。例の魔石、お願いできます?」
「はい、これです!」
ティアが手渡してきたのは、掌に乗るほどの透明な魔石だった。ほんのわずかに内側が光を帯びているように見える。魔力の伝達媒体として、非常に純度が高いものだという。
「この魔石に魔法を通すことで、その記録が残ります。発動条件もそのまま記録されるので、失敗しないように気をつけてくださいね!」
「了解、俺の初めてのオリジナル魔法『ヘドロソウジ』の記念になるね。」
「ヘドロソウジ………」
心なしかティアの表情がいつもと違う気がするが…
ゼンイチは魔石を手に取り、イメージを集中させる。そして、心の中で念じた。
「——ヘドロソウジ!」
魔石がふわりと淡く光り、同時に排水管の中から「ゴボッ」と鈍い音が響いた。詰まりかけていた排水物が、一気に押し流されていく。直後に、管内を水がスムーズに流れる心地よい音が続いた。
「おおっ、やった!」
「ちゃんと記録されました!この魔石、後で工房で小さく加工してもらいましょう。杖の先端に取り付ければ、魔力を流すだけでこの魔法が再発動できるようになります」
手に持った魔石を見ると、色が黄色く変わっており、中に小さなキラキラした者が散乱している。ちなみに、この技術は魔法技術の中では古くからあるらしく、「記録型魔石」と呼ばれているらしい。魔石に魔法を記録し、誰でも一定の魔力さえ供給できれば、同じ魔法を再現できるというものだ。
「魔法ギルドに登録すれば、特許料も入りますよ!この魔法、清掃業者とか建築関連の人にとっては大助かりかもしれません」
「おぉ……思いつきで始めたけど、意外とすごいことになるかもな」
作業は順調に進んでいった。2階が終われば、次は3階、そして4階。毎回、魔石を通して「ヘドロソウジ!」を発動させ、水を流しながら効果を確認していく。
時折、「ゴボゴボッ」と詰まりが流れていく独特の音が廊下に響き、それを聞いた住民たちが戸を開けて覗いてくる。
「水を流せって言うから協力したけど……なんか、うちの排水、すごい流れるようになったわ」
「新しく入居した異世界人のゼンイチさんがやってくれてるんだって」
「へぇ……異世界人も、なかなかやるわね」
そんな声を耳にするたびに、ゼンイチは思わずニヤけそうになるのを必死で抑えた。
「よし、このまま最上階まで一気にいくぞ!」
異世界での挑戦は、まだまだ始まったばかりだった。
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