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卒業 そして 就職

 季節は流れ3月を迎えた。 由美が

『明日は卒業式だね〜』と言うが鏡子はこの数ヶ月バイト中心だったから全く実感が湧かなかった。

『もう卒業かぁ〜…』

卒業したら社会人になる。由美はバスガイドの就職が決まっていた。

 もう、矢部の事で泣いていた、あの時の由美は居ない。それで良いのだ。嫌な思い出は忘れた方が良い。


 翌日、滞り無く卒業式が終わり、鏡子や由美、その他の友達は、生徒玄関前で担任や他の先生と写真を撮っていた。その時、赤色の車が校舎に向かってくる。

『まさか!』鏡子に緊張が走った。

窓ガラスを下げた運転手を見ると

『吉川さん⁈』鏡子は慌てて駆け出して行った。

 


 吉川は以前〝咲羅〟に来た観光客である。

『真美ちゃんて幼い顔してるね〜』と言われ

『実は高校生でバイトしてるんです』と鏡子は答えてしまった。

『どうりで。もうすぐ卒業なのかい?』

『はい、3月1日に』

『俺、迎えに行くから卒業記念ドライブしようよ』

と言われ断る事も出来ずに

『良いんですか?ありがとうございます』と言ってしまった。

(まさか本当に来るなんて…どうしよう 彼氏にバレるのは勘弁)

 鏡子は吉川の車まで行き

『吉川さん、本当に来てくれたんですね。遠い所からすみません。実はこの後友達とで集まりがあるんです。ですのでドライブには行けなくなりました…せっかく来て頂いたのに本当にすみません』と頭を下げた。

 吉川は無表情で『わかった』と一言ひとことだけ言い、車を飛ばし去って行った。

(怒ったよな〜そりゃそうだよな〜わざわざ遠方から迎えに来てくれたのに)

鏡子は申し訳なさでいっぱいになり、その場から動けずに居た。そして〝自分が高校生だ〟と言ってしまった事を悔やんでいた。



 生徒玄関から自分を呼ぶ声がする。しばらく立ち尽くしていたようだ。急いで声のする方へ向かう。

『鏡子今の人誰?』と由美に聞かれ

『バイトで知り合ったんだけど、卒業式にドライブ誘われてね  まさか本当に来るとは思わなくて…』

『高校生って言っちゃったんだ』

『うん…凄く反省してる…』

『気にしても仕方ないよ 鏡子は正直だもん』

『でもせっかく来てくれたのに断ったんだよね…彼氏にもバレたくないし…本当申し訳ない事をしちゃった…』


 丁度そこへ男子学生達が生徒玄関にやって来た。彼氏を見つけた鏡子は軽く手を振る。だが鏡子の中では複雑な思いと(こんな事が卒業式の思い出になるとは)と気落ちしていた。


〝咲羅〟のバイトは3月20日で卒業した。時折コンパニオンの仕事に駆り出されたりもしたが、緊張もせず、無事に仕事を終える事が出来た。

静華や、美華には卒業を惜しまれたが

『また忙しい時は頼むわね』と円満退職?が出来た事で、鏡子は達成感に浸り、静華や美華に感謝し、打ち上げも丁重にお断りして〝咲羅〟をあとにした。




◇◇◇◇◇




 4月1日から就職だ。購入したスーツを着て入社式に臨んだ。新入社員は40名の男女。入社から10日間は〝研修期間〟で、挨拶や言葉使い、電話の応対等を学び、研修最後には県内の各店舗を回って見学もした。その10日間で出身高校なんて関係なく友人も出来た。

 鏡子は自宅近くの店舗配属になった。配属先の先輩達は皆良い人で、親切に新人に教えてくれる。

人間関係が良いのは働く意欲も湧く。

 その店舗はお菓子やケーキを販売しており、レストランも併設していた。

鏡子は〝菓子部〟と言うお菓子やケーキ売り場担当で、菓子やケーキの名前や値段、材料や味を暗記しなければならなかった。時にはお客様への説明の為に、新作のケーキをいくつも試食する事もあり

(また太るぅ〜…)

と思いつつ、これも仕事!と割り切る様にした。

 こうして社会人スタートした鏡子だが、勤務4日目に思いがけない知らせが届いた。

 本店に配属になった同期2人が辞めたと言うのだ。

『えー⁈何で⁈』

思わず鏡子は声に出していた。

 申し訳にくそうに先輩が『本店からね、急遽2人も辞めたと言う事で、明日から寺田さんに来て欲しいと言うの。』

(えー‼︎何でアタシが?ここの店舗が本店に一番近いからか?)

 しかし、2人も一気に辞める職場ってどうなの⁈

本店だから、規模も大きくて大変なのは解るけど…

鏡子は怒りと不安でいっぱいだった。


 先輩が気を遣って

『今日がここの店舗最後になるから、お昼はレストランで食事して行ってね。勿論サービスだから。』

『ありがとうございます。』

とは言ったものの、鏡子の心の中は、

(家から近い職場だったのにな〜)

と怒りや悲しみ悔しさで溢れていた。

 レストランで出された和風ハンバーグは、とても美味しそうで鏡子は

『最後の晩餐か…食欲なんて湧かないよ〜…』

気付いたら完食していた。



◇◇◇



 翌日から鏡子は車を運転して本店に向かっていた。車通勤の方がバスより時短で到着出来る。

何の因果か本店は温泉街にある。

『また通うんだなぁ〜』

 とは言え水商売には無縁の業種だ。切り替えて働こうと考えながら運転していた。

 事前に教わっていた駐車場に車を停め、職員出入り口から入ると、先に来ていた先輩に

『もしかして寺田さん?』と声をかけられ

『寺田鏡子です。今日から本店勤務になりました。宜しくお願いします』とお辞儀をした。

『私は佐藤沙織。菓子部のリーダーしてます。宜しくね。更衣室案内するから一緒に行こう。』

と佐藤さんの後を追いかけ更衣室に向かった。

 更衣室は8畳分の広さがあり、ロッカーがズラッと並んでた。畳の部屋でここで休憩も取るらしい。

『ここが寺田さんのロッカーね』

私のロッカーは右端から2番目だった。前職場から持参した仕事着に着替えてると、佐藤さんから

『ここでは後輩に〝さん〟付けしないで呼ぶから』

と言われた。上下関係厳しそう…鏡子はただでさえ不安な気持ちが、より増大したのを感じた。


 菓子部に向かい、自己紹介をして佐藤さんに店内を案内してもらった。

やはり本店は広い。菓子部に並ぶお菓子やケーキの量が多いのもあるが、レストランや喫茶店、オリジナルグッズ販売もしている。焼きたてパンも販売しており、パンの名前と値段も覚えなきゃ…佐藤さんの許可を得て、パンの名前と値段をメモっていた。すると

『いつまでやってるの寺田 朝礼が始まるよ』と声をかけられた。

その女は真っ赤な口紅を塗り、タラコ唇が余計に強調されている、そんな女だった。アタシの2つ3つ年上か?

(なんかムカつくな)


朝礼は店長が仕切り、伝達事項が終わると

『いらっしゃいませぇ〜』『ありがとうございました〜』と店長の後に職員が3回復唱するのがルーティンの様だ。

本店は気合い入ってるなと鏡子は思った。


 引き続き鏡子はパンの名前と値段をメモしていると

『ちょっと寺田!他にやる事あるんだから回り見て動いて!』

またあの女に言われた。そう〝タラコ唇女〟その女の名前は平本。


これ2人が辞めたのは絶対平本が原因でしょ‼︎

どこにでも居るのよね〜威張りたがる奴って。

自分はこの先どうなるのかなぁ〜…





                    つづく



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