表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

高校生ホステス

『え?水商売のバイト?』

突然の友人からの誘いに、しかも水商売と聞いた鏡子は目を見開いた。

(おいおい高校生で水商売かよ まぁ酒は飲めるけどさ〜)

 いきなり水商売のバイトを誘ってきたその友人は 松井由美。外見は鏡子より身長が10cm位高く、スタイルが良い。鏡子はポッチャリ体型だが、1日5食も食べてた頃よりは、早弁と学校帰りの買い食いをやめた事で、少しずつ痩せてきた事に満足していた。

あとは由美位の身長があれば…と叶わぬ望みを抱く。

 そんなアンバランスな体型の由美と鏡子の共通点と言えば髪型である。ロングの髪にパーマをかけ、オキシドールと言う消毒液で髪の色を抜き茶髪にしていた。

 当時はその〝うねうねしたパーマ〟を〝ソバージュ〟と呼び、髪の毛はオキシドールかビールをかけて染めるのが、一部の学生の中では多かった。カラー染めが無かった訳では無いが、余りにも色が派手になってしまう。出来映え的にオキシドールの色が自分には合ってると鏡子は気に入っていた。


 

 由美は隣町の南洋高校(南高)の学生と交流があり、どうやらそこからバイト話がきたらしい。

 南洋高校は最寄り駅から遠く離れた住宅街の〝平地〟に建てられた

〝恐怖の極狭坂道〟の無い高校だ。

そこは羨ましく思う。

『鏡子さ、南高の石野聖子知ってるよね?』

『石野聖子は中学が同じだったよ そんなに親しくなかったけど。』

 鏡子は中学時代、友達が多い方ではなかった。むしろ少なかったと自覚している。

中学に通うのが苦痛で仕方なかった過去。

小学3年の時に、親の仕事の都合で転入してきたばかりでも、鏡子は学級委員に立候補したりして積極的な面もあった。

 しかし、幼稚園から小→中学校と1クラスしかない、同じ面子メンツの田舎の学校生活で〝家族の様なクラス〟を目指していた担任の願いも虚しく、独特なカースト制度が出来上がっているこのクラスの闇に気付いてからは、嫌悪感が芽生え 積極的な鏡子は消えた。

『自分らしさを大事にしよう』と考える様になり

 その頃から両サイドの髪をカールアイロンで巻き、ブラシで流して学校に行くようになった。パーマをかけてる様な仕上がりにテンションが上がる。


 しかし、休み時間になると教室の後ドアから先輩達が鏡子を覗いて見ている。

(見せ物じゃ無いんだけど)

と鏡子は睨む。

 結局先輩達から呼び出され、髪型への注意を受ける。

『はい、はい、はい』と答えておけば喧嘩に発展せず先輩達は引き下がる。やめる気は無いもんね〜と鏡子はいつも心の中で舌を出していた。

(あの時はウザかったなぁ)と中学時代をボ〜っと思い出してた時 由美から

『その石野聖子がバイトしててさ、あ、丸川あずさっても一緒にやってるんだけど、女の娘が足りないから誰かいない?って連絡きたのさ』

『ちょっと待って!丸川あずさって言った?!』

鏡子は由美に聞く。

(丸川あずさ…もしかして汐見中しおみちゅうの娘か?)

『うん、そう丸川あずさ。鏡子知ってんの?』由美は少し驚いた表情をしている。

『少しだけ知ってるよ。 汐見中でテニス部やってなかった?試合した事あるんだよね。』

 鏡子は中学でテニス部に2年の後半まで入部しており、中体連等の試合で汐見中とは対戦もしていた。その中で一際目立つ女子がいた。目がくりっとして鼻筋の通った容姿。女からみても〝美人〟だと思う。それが丸川あずさだった。


『テニスやってたかは知らないかな〜 でも汐見中だったかも。聖子とあずさは仲良しなのよ。』

由美は意外と顔広いんだな〜と他人事ひとごとの様に鏡子は思いながら由美に質問を続けた。

『へぇ〜 じゃ、その聖子とあずさがバイト出来る娘探してるって事なんだ?』

『そゆこと〜』

『てか、由美はやるの?』

誘ってきた由美がどうするのか気になる。

『アタシ? 鏡子がやるならやるよ』

(アタシ次第かよ)

鏡子は軽いため息が出たが、就職先も決まったし、ヒマだし、何より水商売に興味を抱いた。未成年だし、高校も水商売のバイトは認めてないけど、

(当たり前だ)

大人の階段を登る感じがして、未知の世界に飛び込むのも良いかも!と思ったのだ…が、大事な事を思い出した

『由美!アタシ服無いんだけど!

ボディコンスーツとか持ってないよ!』

『大丈夫だよ それなりの服なら何でもOKだって』

それなりの服ってなんだよ〜そーゆーのが一番困るんだけど!

『マジどうしよう』

と鏡子は上半身を机の上に伏せた。

『とりあえず詳しい話はさ、一度聖子と会って聞こうよ。』

『そうだね その方が話早いよね』


後日鏡子と由美は、聖子とあずさに会う事になった。              


◇◇◇◇◇


 

 場所は鏡子が通う桜坂高校の隣町の温泉街。温泉が出るだけあり、観光客も多く、ホテルが所狭しと並んでいた。メインストリートには土産物屋が並ぶ。その一本裏の通りは、いわゆる〝飲み屋街〟になっており居酒屋やスナック、BARが立ち並び、奥にはストリップ劇場もあった。


 待ち合わせ場所は〝kazuko〟という名の店。飲み屋街は光の灯っている看板がズラっと並ぶ。鏡子と由美は、その通りをキョロキョロしながら探していた。

15分程経っただろうか 由美が

『あった!!』と叫ぶ。鏡子も見る。そこは モルタル壁の三階建てソーシャルビルで、中央にある入り口にドアは無く、大きな廊下が広がっており 一番奥にはエレベーターが見える。

廊下の左右にはスナックが3軒ずつ入っており、〝kazuko〟の看板は右側の手前から二軒目にあった。

『和子さんて人がこの店のママなのかもね』ようやく見つけた店の前で鏡子は言った。


 『こんばんは〜』 

と扉を開けるとカウンター席に聖子とあずさが先に来て座っていた。

『聖子〜あずさ〜元気?待った?』

と由美が声をかけると聖子は

『元気だよ〜うちらも今さっき来たとこなんだ〜 あ 鏡子久しぶり!』と声をかけてきた。

『久しぶりだね 何だか聖子変わったね』

『そう?鏡子だって変わったんじゃない?色っぽくなったじゃん』

『お世辞でも嬉しいよ』

と言いながら聖子の隣の娘を見つめた。

『あ、こちら あずさ 宜しくね〜』

と言う聖子の隣から顔を出したあずさ。

『あずさです 宜しくね』

(やっぱり汐見中のあの あずさだ)

『鏡子です。あの、あずさちゃんは汐見中でテニスやってなかった?』

『え?何で知ってるの〜?』

あずさは少し驚いている。

『アタシも少しテニスやってて、何度か対戦した事あるんだよね』

自分は物凄く下手だったけど…と思いながら鏡子は答えた。

あずさは嬉しそうに

『そんな縁てあるんだね〜 何かごめんね あんまり覚えてなくて…』と最後に申し訳無さそうな顔をした。

(顔だけじゃなくて性格もいいなこの娘)どうやら悪い人では無さそうだと鏡子は安心した。

『ここのスナックね、あずさの叔母さんの店なんだよ』と聖子の話に続いてあずさが

『厨房に入ってチャーム作りとか、洗い物の手伝いしてたの…でも…』

『ここでホステスを始めたと…』と由美が言うと

『訳があるのよ 訳が』とあずさをチラチラ見ながら 焦った様に聖子が話す。

『人って生きてると色々あるもんね』

と鏡子が聖子を落ち着かせる様に言うと


『彼氏が…天国に行っちゃって…』

あずさは涙ぐんで答える。


『え!?』

鏡子と由美が同時に声を上げて あずさを見た。

(何?この展開…でも可哀想過ぎる…)

鏡子も由美も何て声を掛けたら良いのか 頭の中フル回転で言葉を探していた。


『ごめんね びっくりさせて。あんまり話す事じゃないよね』あずさの目から一筋の涙がこぼれた。

鏡子も由美も自然と顔がうつむく。自分の彼氏が死んだらどうなるんだろう…死を受け止めて乗り越えられるのかな? ダメだ全然想像出来ない…

経験しないと解らない心の痛みだ…


 と考えていたその時、店のドアが開いた。客が2人来たようだ。

『いらっしゃいませ〜』と、ママ、聖子と、涙を急いで拭ったあずさが笑顔で客を迎える。

(聖子もここでバイトしてたんだ)

と今知った。

 客は男二人。一人は40代前半に見え、薄くなった髪の毛を無理矢理オールバックにして、鼻の下にちょび髭、金のネックレス、金の時計、突き出たお腹、上下白のスーツの特徴的なオヤジ。 

(身長は由美と同じか⁉︎)

カウンター席に座った男に対し、ママが

『矢部ちゃん、いつものかしら?』とウィスキーを用意している。

 矢部の後から入ってきたのは20代の長身の男。髪をワックスでオールバックに固め、黒の革ジャンを羽織り、切れ長の眼から放たれる眼差しは冷たいモノを感じた。 この二人〝アッチ〟系のお方かもしれないな 何となく鏡子はそう思った。


 若い方の男は矢部の隣に座り、ママとあずさが接客している。

聖子は鏡子と由美をボックス席へ

『さっきの続き話そう』と小声で案内した。


 ボックス席から鏡子はあずさを見ていた。

客の好みの量で焼酎割りを作り、時折出る笑い声。

『いただきま〜す』と烏龍茶を飲む様子。

(慣れてるなぁ〜)と感心していた。

『あずさちゃんて接客うまいね』と鏡子が聖子に言うと

『もう半年だからね〜 それに〝楽しみたい〟って気持ちが強いみたい。  さっき彼氏が死んだって話あったでしょ? 事故なんだよね。 峠のカーブで大型トラックと正面衝突してさ…ひどかったんだよ 車はトラックの下に入り込んで 彼氏さんの頭部はトラックのバンパーにめり込んでたって…大きな事故だからテレビでもやってたよ 本当悲惨だよね…』

 衝撃が強すぎて鏡子は自分が固まってるのがわかった。聞いてるのも辛いのに聖子は話を続ける

『それであずさ荒れちゃってさ…水商売のバイト始めたのも寂しさを紛らわす為なんだよ 今は楽しみながらバイトしてるよ 二人にもバイトは楽しんで欲しいな』


苦笑いで返すのが精一杯だった鏡子と由美。

先程自分の口から出た言葉を思い出す。

〝人って生きてると色々あるもんね〟


 鏡子と由美の様子を見て、重たい空気を感じた聖子は話題を変えてきた。

『今来ている若い方のお客さん、あずさにゾッコンなんだよ!あずさの出勤日には必ず来店するの』

カウンター席を見ると、確かにその客は嬉しそうにあずさと会話をしている。

(さっきの鋭さはどこ行った?)

しかもあからさまに『恋』とか『愛』を謳ったカラオケを歌ってあずさにアピールしている。みんなにバレバレだ。

 鏡子はそんな男を

(キモッ)と思っていた時

『痛い‼︎』とその客は両手で頭を押さえていた。最初はあずさの気を引く為の演技かと思っていたが

『また頭痛いの?野宮さん 大丈夫?』とあずさが心配している。今回が初めてじゃないらしい。



(彼氏の呪いじゃね?)と鏡子は思った。


                                          つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ