就職試験勉強
教室の窓からは涼しい風が入ってきた。高台に建設された4階建ての高校だから風も強く感じる。
時はバブル全盛期。土地が余ってるからだったのか立地条件が良かったからなのか解らないけど、街並みを見下ろせる丘の上に建てられたこの桜坂高校が私 寺田鏡子の母校。
『新築で丘の上って素敵ネェ〜』なんて言われそうだが
自分は窓から見える風景を見る度に思う。
(何故ここに建てた⁈ ここまで歩いて登ってくるだけで汗だくなんだけど!!学校に到着して更に4階まで階段登るのもマジ罰ゲームだぞ!!)
と文句を抱えながら、毎日坂道登ってんだよ〜。
冬場は滑って転ぶし。友達と会話なんてしてたら息切れして酸欠になるし。
とんでもねぇ坂道だ。
丘を登る『生徒の通学路』と言う名の〝恐怖の極狭坂道〟はほぼ垂直だ。
(と思っている 分度器で測ったら絶対そうだ)
その中央に手綱のぶら下がる支柱が登り口から頂上まで設置されてる風景自体が信じられないよな…。急勾配を意味してるだろ。登山かよ。
『恐怖の極狭通学路』への不満は思い出したらキリが無いけど
こんな学校に通い続けている自分を褒めてあげたい。
身体に感じる風の体感温度でもう季節は夏の終わりなんだなと、そしてもうすぐ卒業なんだな〜と少し寂しい感じがしながらも勉強に勤しんでいた私。
マジメを絵に描いた様な学生生活では無かったけどそんな私でも今だけは勉強していたのだ
『就職試験』と言う名の勉強を。
今は高校の中間テスト前。クラス内でテスト勉強している生徒は皆無である。皆ヤル気なんて湧かないのだろう。いつもの事だけど…
まぁその中に私も入っているのだが。
でも私は勉強していた。『就職試験対策』と言う本屋で見つけた参考書を片手に。
自分の通っているこの高校は進学校とは程遠く、卒業後は就職組が多い。偏差値は40程度で高学歴とは無縁の高校だ。
だから私の進路は就職の道のみ。
進学するなんて夢のまた夢。
そんな自分がまさか将来看護師を目指す事になるなんて、この時は夢にも思っていなかった。
中間テストの数日後には就職試験が待っている。
国語社会数学一般常識の4教科の試験がある。出願者も多いらしい。でも受けるからには絶対に受かりたい。だから私は中間テストなんてどうでも良いと思って、就職試験勉強を必死にこなす毎日を過ごしていた。
就職出願した会社は、県内では有名な菓子メーカーである。CMのフレーズも特徴的で知らない人は居ないと思う。菓子以外にもレストランや喫茶店ケーキやパン屋等も手掛けてる知名度のある有名会社。
そんな会社に就職希望したのは、単に自宅に近かったから。なんて口が裂けても言えないよな…言わないけど。
◇◇◇◇◇
就職試験当日。会社の中に入ると、広い会議室みたいな部屋にビッチリ人が座っていた。制服を見ただけで色んな高校から試験を受けに来ているのが解る。長テーブルに3人が座って試験を受ける様だ。
(狭いな)
そう思いながら自分も席に座る。
こうしてみると普段は広いであろう会議室が手狭に見え窮屈に感じる。
(めっちゃ倍率高いじゃん!)
と焦る気持ちを抑えながら
(絶対回りもそう思ってるよね?) と会議室の全体を見渡した。
自分は国語と歴史が好きな方だったので国語と社会のこの2教科で点数を稼ぐ作戦だった。
(この2教科に掛ける!)
数学は捨てた。昔から算数数学は苦手だったからだ。でも何とかなるだろう 多分。と自分に言い聞かせて。
何とも言えない雰囲気の中、試験問題が配られた。
受験した会社の総務課には実は彼氏の兄が勤めていた。彼氏が『電話で兄貴に結果を聞こう』と提案してくれて試験結果を早く知りたかった私は頷いた。
(聞きたい聞きたい!!)
彼氏が、試験翌日兄に電話をかけ『鏡子の結果はどうだった⁈』と何度も聞いた。
何故何度もかけたかと言うと、その兄も『鏡子ちゃんはいい所まで行った感じなんだけど…』と、どっちやねん⁈と言う様な返答しかしないのだ。
(こいつ楽しんでるな)
そう思ってしまう程曖昧な返事だったから、余計にイラついてしまった。そもそも会社関係者に電話して合否を尋ねる事自体が間違いなのだが。
若さ故の暴走(なのか?)は止まらず白なのか黒なのかハッキリとした返事が欲しかった二人はしつこく電話をかけた。
(学校側からの返答まで待ってられるか)と。
その食らいつきの根性は違う所で是非発揮して欲しいものだ と我ながら思う。
結局そのしつこさに根負けしたのか、曖昧な態度の彼氏兄が最後にようやく答えた。
『鏡子ちゃん、2番目の成績で合格したよ』
彼氏と私は抱き合って喜んだ。
就職試験も終わり退屈な高校生活が戻ってきた。(ひまだなぁ〜)と思っていた私に、友達からバイトの誘いがあった。『水商売なんだけどさ鏡子なら出来るかなって思ってさ どう?やらない?』
つづく