煙草よりも夫
『煙草よりも夫』
27才になり、私と夫は楽しく食事をしている。23才の時に出会い、一年先輩だった夫。社内で寿を手に入れた。
私は女アルバイト。煙草を吸いながら、新聞配達をしている。早起きは得意なので、少しだけ運動と煙草を吸うだけの稼ぎが欲しい。
バイクで新聞配達をして、終わったら、家に帰り、夫を起こしてやる。それから、朝のご飯を作る。私は結構悪い気がしない。もう恋は終わったけど、大事な家族になったんだなって気がした。
顔立ちは、夫はいい。私は普通だ。何で私を選んでくれたのだろう。もっと綺麗な人と付き合えて結婚も出来ただろう。煙草を吸うだけしか能がない女に。
それでも、結婚した。教会でピアノを弾いてくれた信者さん。そして、大学時代の友人だけ呼んで誓いのキスをした。きっと半永久なら。ずっと、嬉しいな。過去の恋愛を糧に、ずっと温めた愛情が、二人を夫婦にさせて行く事になり、きっと関係が続けばいいのに。そう思っていた。
結婚指輪は要らなかった。超高級ライターを強請った。私は煙を吐きながら、ずっとこのままでいいのかなって思っている。
夫は他に付き合っていた相手がいた。私はとても綺麗な人で女から見ても、魅力的な女だった。大切にして欲しいと思った。一番愛した女で、今も心のどっかで生きている人だろうから。
写真にも鞄の中にあるのを知っている。私は打算だったのだろうか。それが生涯いようとする決断を鈍らせる。もし、その彼女が寄りを戻すつもりがあるなら、私は別れを選ぶだろう。出来れば、打算じゃないと思いたい。私の事を本気で愛していると。
煙草を吸う。21才で今までは吸った事はないけど、格好つけたくて煙草を吸いたくなった。私なりの気分転換になった。私は煙草を吸いながら、これが自分のあるべき姿なのかもしれないな。煙草を吸うきっかけは、駅前で煙草を吸う女優に惹かれた。
私は結構、友人を大切にする。女の傍で卑猥なネタから、真面目な話、流行話、等女特有の話をする。3人でいつも共にしていた。
たまにその事を思い出す。あれから、大分たったな。途切れて消えそうになる私の友人たち。私は、ただ煙草を加えながら新聞配達をする。
消えない想い出は私にはない。最初の彼氏とのデートも忘れてしまった。でも、きっと感触として残っている。恋の吸殻が、積み重なりあい私を作ってきた。
冷たい人だと思われているけど、でも色んな表情をする。心の中で。ずっとクールを気取るのも疲れる。でも、格好をつけたい。私の本能のような気がしたから。
例え打算であっても、私は本気だ。別れて泣く事はないだろう。死ぬ伏す時に走馬灯のような記憶の流れで、泣いてしまうかもしれないが。
私はきっと、ずっと一緒にいられる。夫はもうあの人の写真を捨てた。本気で私を愛してくれるんだ。嬉しかったが、物悲しい気がした。
それから、私たちは本物の家庭を作ろうと思った。愛情が通った純粋な夫婦として。
私はいつも料理を作って待っている。必ず帰ってくるって信じている夫と食事を共にするために。
そして、何時までもこの生活が続く事を祈っている。心からそう思っている。煙草を止めてまで、ずっとこの夫と一緒にいたいと思った。それぐらい、空気ような淡い愛情からまた濃密な愛情へと変わっていた。ずっと、この状態でいたい。
二人でいた記憶を忘れないから。今なら、きっと、夫が死んだ時、素直で泣ける。そう思えた。外見が変わっても、心は変わらない。それでいいと思う。そう思うようになってきた。一番初めに恋したときより苦い。それは、純粋な愛情だからだと思う。