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第8話 朝日奈楓

「ナギ、私窓側がいい」


「俺もそっちがいいんだけど」


別にどっちに座ったところで関係ないけども。乗り物酔いが激しいわけでもなければ楓以外の会話相手もいないが何となく窓側がいい。多分、人の目に晒されるのすら苦手なんだと思う。


「連絡したのだ〜れだ!」


「……楓」


「じゃ、私こっちね」


「いや待て楓……ちょっと待って。少し考える」


「ふふんっ♪まぁ待っててあげるから頑張りたまえよ若造」


「どんなキャラだお前」


まぁなんだかんだ関わりも長いし俺が楓を助けた例も多いはず。料理は……俺も楓も作るな。朝起こすのもどっちもやるし……勉強もお互いに教え合ってるしな。


「……………………」


「お?どうした?なーんも思い浮かばない?じゃ、窓側は私が……」


「いや待て。待ってください。もう少しだけ時間を……」


「まぁまぁ、帰りは譲ってあげるからさ」


「帰りは各自帰宅だボケ」


「もう絶対譲らない!」


そのまま窓側に座ってイヤホンを装着する楓。怒ってる様子はないが、絶対に譲らないという固い意志を感じたので仕方なく通路側に座る。どうせイヤホンからも何も流れていないはずだ。

朝日奈楓がいかにワガママなのかを思い知った。いや、まぁ人のことは言えないのだが。ワガママと言っても、それは俺だって聞いてもらってる。幼馴染、腐れ縁。色々あるが、そういった仲だとよくあることである。

……でも絶対こっち嫌だったんだよな。なんなら楓は通路側を所望すると思ってたが……こいつ座席表ロクに見てなかったんじゃないか?


「ふふっ、おふたりは仲が良いんですね」


「……あぁ、まぁ、そうだな」


なんという巡り合わせか。通路を挟んだ隣に座るのが宵宮憐なのだから、これ以上に奇妙な巡り合わせも無いだろう。


まぁ……そうは言っても話すこともないし積読本を消化するべくスマホを開く。最近は本当に便利な時代になった。

紙媒体にも良さはあるが持ち運びをする必要も無ければ、しおり機能があるのは本当に便利だなと思う。


バスが動き出して目的地へと向かう。車内は段々騒がしくなっていき、後ろの席の方では何かしらのゲームが始まっているらしい。楽しそうだなとは思うが……まぁ、そこに混ざれるかと言われれば無理な話だろう。


「本、お好きなんですか?」


と、急にそんな声をかけられる。楓ではない。左側を向くと興味津々といった表情でこちらを見る宵宮の姿。……まぁ、これくらいは大丈夫だろうか。


「好きだよ。宵宮は?」


「ふふっ、私も好きです」


その場がシンと静まり返る。……んー?あれ?なーんか変なこと言ったみたいな雰囲気になってませんかねこれ。

俺と宵宮は本の話をしているわけだが……当然、その前を聞いてなけりゃ印象はまた変わるわけで……


「……公開告白?」


「違うが!?」


「めっちゃ大声で否定するじゃん……」


「……ただの趣味の話ですよ」


さすがの宵宮もやってしまった……と言ったような表情になる。こんな表情なんて普段は絶対見れないだろう。生徒会室や公園くらいでしか、吸血鬼でいる時しか見れない表情だ。


「……すみません。神代君」


「あ、あぁ……いや、こちらこそ」


そのまま何となく会話を終える。多分、このまま続けるのは良くないと思ってるのだろう。俺以上に宵宮が。まぁ、それならそれでいいが。


『今日の夜は少し早く公園に来てください』


突如送られてきたそのメッセージの送り主に視線を送る。その視線に気付いたのか、口を開いて鋭い牙を見せつけてくる宵宮に……いや、小悪魔に……吸血鬼に、乾いた笑いが出そうになった。


♦♦♦♦♦♦


オーケストラと言っても具体的に何が凄いのかは分からない。楽器にも音楽にも詳しくなければ尚更。こんなこと言うのは悪いが舞台とかなら楽しめたかもしれないと思ってしまう。いや、そもそも芸術鑑賞会自体が面倒なことこの上ないのだが。


演奏が終わって静かだった客席からは拍手と歓声が起こる。中には眠っている生徒や会話を楽しむ生徒もいるが……まぁ時間の過ごし方は人それぞれだし、内心帰りたいとしか思ってない俺は偉そうなことは言えない。


「……そういや、楓も昔はこういうのやってたよな」


「あったね。懐かしいなぁ……あまりにも才能無くて辞めちゃったけど」


「確かにいつの間にか辞めてた記憶あるな」


「私には向いてなかったんだよ。『才能』って一括りにするのも違うけどさ……ま、その才能が私には無かったんだよ。もちろん、こういう舞台に立てる人はめちゃくちゃ努力してるんだろうけどさ」


「楓……」


「ま、実際は休日を練習に費やすのが嫌になっただけなんだけどね!」


「心配して損した」


珍しく暗い楓だと思った瞬間にこれだ。まぁ確かに休日に遊ぼうとしても遊べなかった時期があったな。それがいつの間にか終わってて誘わなかったことにキレられたことがある。いや言えよ。


「だからほんと、こうやって続けられるのってすごいなーって思うよ。嫌にならないのかなって」


「多分、何度もなってると思うぞ。……それでいて、やめた姿も想像できないんだろうな」


「私とは大違いだね」


「少しは見習え」


「そこはもう少し優しい言葉が欲しいんだけど」


まあいいやと肩を叩かれる。気の利いた言葉が出てこないのはいつものことだろう。何も今になって始まったことじゃない。関わり始めた頃から変わらない。


休憩が終わり演奏が再開される。さっきは気付かなかったが楓は割と楽しんでいるらしい。演奏に合わせて揺れる姿を眺めて楽しむことにしよう。


♦♦♦♦♦♦


長いように感じても思ってたより時間は過ぎていなく、そろそろ帰りたいなという思考に切り替わっていく。いっそここからホールに戻らなければ……とは思ったが、それは出席点を逃すことに繋がるだけだ。ついでに言うなら荷物も置きっぱなし。


「……あれは」


始まってから入ると気まずいので、そろそろ戻るかと思ったところで椅子に座って遠くを見つめている少女が視界に入った。何か考えているような雰囲気でもなく本当に遠くを見つめてるだけだ。いや壁だろ見つめてるの。


「戻らなくていいのか?」


「……神代君」


声をかけると普通に反応を示す。まぁ、多分俺が声をかけなくてもいずれ戻るんだろうが……とはいえこれくらいは不自然でも何でもないだろう。


「……あの」


「ん?」


「血を吸わせてくれませんか?」


その言葉を聞いて即座に周りを見る。ただ周りに誰かがいるわけでもなく、この会話を誰かが聞いている、なんてことは無いだろう。

バスの中では牙を見せつけたりだとかの多少のイタズラはしていたが……それは宵宮視点で俺にしか見られないから、だろう。ただここは違う。

……というかそもそも今日の夜に血を吸わせる予定でありこの場で吸う必要は無いはずだ。宵宮だってそれを理解してないはずがないだろう。……が、それでも今この場で要求するという意味がわからないほど俺は馬鹿じゃない。


「……どのくらいだ」


「少しだけ……本当に少しで大丈夫です。夜まで活動出来る分が欲しいです」


「……前回、少なかったか?」


「いえ!その……た、足りるはずだったんです。でも、その……そういう『契約』なので」


「ん?え、まぁ……それはそうだが」


なんか急に脅されてない?「契約は契約だからつべこべ言わず寄越せ」って言われてたりするか?これ。


「……じゃあ、とりあえずここ離れるか」


「……そうですね。見つかるわけにもいきませんから」

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