君の誕生日を祝うのは今年で最後にする
※リラッキュン
熊をモチーフにしたマスコットキャラクター。
女性達からの人気が高く、つぶらな瞳がチャーミングと話題。
「誕生日、おめでとう」
『………………』
「これでお互い26歳だな。……時の流れって奴は、本当に早いものだ」
『………………』
「君への今年の誕生日プレゼントは、リラッキュンのぬいぐるみにしたよ。昔から可愛いぬいぐるみ、好きだったろ?」
『………………』
「学生の頃は『わ、悪かったわね! 私の趣味がぬいぐるみ集めでっ! どうせ私みたいな気の強い女には、ぬいぐるみなんて似合わないって思ってるんでしょっ!』なぁーんてさ、言っていたっけ……」
『………………』
「………………」
『………………』
「……実は、さ。君に紹介したい人が出来たんだ。会ってくれるか?」
『………………』
「俺と、俺が君に紹介する人――彼女のことを、君は祝福してくれるかな?」
『………………』
「自分の弱みを、彼氏の俺にすら見せようとしなかった君のことだ。どうせ強がって『あんたの人生はあんたが決めればいいのよ!』って言いそうだな……」
『………………』
「その彼女もさ、君に会いたがっているみたいなんだ……。なんでも『貴方の大切な……大切だった人に、私は挨拶をするべきですから』と言っていたよ……」
『………………』
「……時の流れで生きている俺は、いい意味でも悪い意味でも、変わらずにはいられない……。君と同じ想いを、君と一緒に育んでいけなかったこと……今でも悲しいよ」
『………………』
「……この話しは、来年連れてくる彼女には内緒にしててくれな? でないと『私は貴方にとっての2番目でも平気ですよ? 私にだって、初恋の人くらいはいましたからね……』みたいな感じで、また強がりながら言うに決まっているだろうからさ」
『………………』
「隙を見せようとしない部分なんかは、君と彼女はよく似ていると思う……」
『………………』
「………………」
『………………』
「……俺、そろそろ行くわ。来年は君に紹介したい彼女と一緒に――君の命日にくるよ」
そう言って俺は、君の名前『女渕 弥佳』が彫られている墓石を……後にした。
本日3月4日。
君が26年前に生まれた日であり、俺が10年前に君に告白して、君との交際を始めた日であり、君が8年前に――交通事故で亡くなった日。
俺はこの日を一生忘れないだろうけれど……ごめんな、弥佳。
君の誕生日を祝うのは、今年で最後にする。
それが俺なりの、君との一種の決別であり、君を失って人生のどん底にいた俺を支えてくれた彼女への――誠意だと思うから。
今年で最後の君の誕生日。
君が亡くなって以降、毎年のように涙を流す日であったけれど、今日の俺の瞳から――涙が流れることはなかった。
来年からは弥佳にプレゼントじゃなくて……線香をあげないとな。