4.
びくりと枯れ枝のような体を跳ね上げて、老人は絶命した。
穏やかな顔だった。
あまつさえ、最期に「これで終われる。ありがとうよ」なんて言っていたような気がするくらいに。
ブツン。
何かが切れるような音がした。
老人につながっていた、大きな機械が、ムーー--ンと大きく震えたかと思うと、その活動を停止させた。
その機械からは、もう何の反応もない。
僕は、何をしたかったのだろうか。
少なくとも、これで彼女は無事なのだろうか。
きっと、そうだ。
これで、彼女の父親も廃棄されなくて済むだろうし、そうなれば彼女もきっと、大丈夫。大丈夫なのだろう。
一度焼き切れてしまった脳内回路は、怒りが冷めた今となっても、やはりまともな思考ははじき出せず、僕は喪失感と虚無感を抱えたまま、大広間を後にした。
途中、行きがけに挨拶をしてきたロボットたちとすれ違った。しかし彼らは、うなだれて、挨拶の一つもしてこない。まるで眠ってしまったように動かない。
まだ、勤めの時間だというのに。
……いや、王様がいなくなったのだから、もう動く必要はないのか。
僕は、宮殿から外へ出た。
電動二輪を探すために視線を周囲に巡らし、そして僕は信じられない物を見た。
ぽつぽつと。
電気が、消えていく。
明かりが消えていく。
宮殿を中心として、徐々に徐々に。遠くの方へ。
眠らない都市が、眠りにつく瞬間だった。
何でなんて、僕にはわからない。ただ、きっと、王様がいなくなったからだろう。
電動二輪の電源を入れようとしたが、反応はなかった。
ぽつりぽつりと、明かりが消えていく。
僕は無性に寂しくなり、視線を上へ向けた。
声にならない、声が出た。
夜空とは、こんなものだったろうか。
一つ、都市から明かりが消える。
一つ、夜空に明かりが輝く。
また一つ、都市から明かりが消える。
また一つ、夜空に明かりが輝く。
まるで、都市にあった光が、そのまま夜空へと浮かんでいくようだと、思った。
気が付けば、都市の半分の明かりは消え、そして空には宵闇を塗りつぶさんばかりの、光、光、光──。
まるで、光の海のようだと思って、僕は海なんて見たことはなかったなと笑った。
彼女も、この夜空を見ているだろうか。
きっと、見ているだろう。
そうだといいと思った。
きっと、最後になるだろうから。
ぽつぽつと、明かりが消える。
ぽつぽつと、光が瞬く。
そうして、未来都市は眠りについた。
もう誰も、起こす者のない眠りに。
そうして。
そうして人類は永遠の眠りについた。
読了いただきありがとうございました。