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未来都市X  作者: 館凪 悠
1/4

1.

 また、王様の怒りを買って都市から廃棄された者が出たんだってよ。


 今度は、N区画三丁目の××さんだって。怖いわね。


 僕はそんな物騒な会話を聞きながら、電動二輪車の電子画面を操作して行く先を設定して地面を蹴る。

 二輪車の速度はぐんぐんと上がる。

 時刻は、夕方の六時三〇分。

 目的は、行きつけのお店。

 僕は独り暮らしだから、家で夕食を摂っても寂しいし、つまらない。だから、外へ繰り出して外食をするのが、もうだいぶ前からの日課だった。


 ひと月ほど前だろうか。

 

 あるお店で知り合った女性──といっても、店員さんだが、彼女と機械芸術学と一般芸術学総論についての話をすると、彼女もその方面への造詣があったらしく、有体に言ってしまえば意気投合してしまったのだ。

 それから、僕は時間に余裕のある時はあの店に通っていた。最近は、彼女がお店を休む時は、彼女から別の店に誘われたりもする。

 彼女のことをガールフレンドだなんて呼ぶつもりはまだない。コウノトリが子供を運んでくるなんて戯言を信じるような年齢ではないが、それでも、まだ知り合ってから日が浅い。だけれど、彼女との会話は心地よかった。


 電動二輪のモーターが回転数を上げ、坂道を登っていく。


 視線を上に向ければ、高くそびえたつ、ビル、ビル、ビル。

 摩天楼の森は、それぞれが青に、黄色に光り輝き、電動二輪はその隙間を縫うように加速していく。

 ハイ・ウェイに入っても、車の影はまばらだった。

 飲食店以外の勤めの終了時刻は五時丁度。

 それから一時間半も経っているのだから、帰宅ラッシュなんてもうとっくの昔に終わっている。皆今頃、家で寂しく夕食を摂るか、近場で摂るか。週末でもない夜にこうやって出歩く者は珍しいのだ。

 ハイ・ウェイを高速で駆けながら、左に視線を向け、摩天楼の隙間から遠くを見遣る。

 どこも勤めは終了しているはずなのに、電気の消えている建物はない。それはそうだろう。僕たちが勤めを終了した後は、自律起動したロボットたちが業務を引き継ぎ、様々な都市機能を停めることなく動かしているのだ。眠らない都市とは、よく言ったものである。


 今度は右に視線を向けると、ひと際高いところに、意匠の変わった大きな建物──宮殿が見えた。

 摩天楼が角の少なく柱のように真っ直ぐ立っているのに対して、その建物は、なんというか、角が多い。白い高い壁の四隅に、円錐の下部を少し丸めたとでも言えばいいのだろうか、水滴のような突起がかたどられている。その中心はとにかく角ばっており、曲線と言うものが見受けられない。一本だけ高く伸びた四角柱も、やはりその頂上は円錐になっていた。


 あそこには、この世界の王様がいる。


 ここ、眠らない都市は、王様の暮らす王都でもあるのだった。

 電動二輪が速度を落とし、左へと曲がり始める。

 僕は少し慌てて、振り落とされないように電動二輪に掴まり直した。


 僕の暮らす区画から、二つ隣りのO区画に、その店はあった。

 そのLという店の前で速度を落とした自動二輪をマニュアルモードに切り替え、隣の駐輪スペースへと停車させる。

 時刻はまだ、七時になっていない。飲食店の勤めが終わるのが九時だから、二時間はゆっくりできる算段だ。


 自動ドアをくぐると、店主が「やあ」と声をかけてきた。

 僕はそれに応えてから、店内に視線を巡らす。

 いつものように、こじんまりとした店内に、まばらな客、客。

 店主以外の店員は、もう一人──。


「すまないね、彼女、今日は休みなんだ」


 休みって、なんで? 

 僕には、彼女がお店を休む理由が思い浮かばなかった。体調を崩すなんてこともないだろう。

 僕の問いに、店主は少しだけ考えてから、「君になら言ってもいいか」と答えてくれた。


「今日、久々に都市から棄てられた者の話は聞いているかい?」


 そういえば、ここに来る前にそんな話を聞いた気がする。僕は頷いた。


「そのN区画の××さん、彼女の伯父に当たる人みたいでね……。さすがに無理に勤めさせるわけにはいかないから、今日は帰ってもらったんだよ」


 ほかの客に聞こえないように、小声で店主は言った。

 僕は、面食らって聞き返すこともできなかった。


「だから君、ちょうどよかった──と言うのもアレだけれども、良かったら彼女を慰めにいってはくれないか。仲がいいだろう、君たち」


 僕は返事もそこそこに、Lという店を飛び出した。

 急いで電動二輪車の電子画面を叩き起こし、教えてもらったけれど一度も行ったことのない、彼女の住所を打ち込む。

 反応良く、電動二輪が走り出す。オートモードだから、幾ら急ごうとしたところで、それは空回るだけだった。一度くらい、彼女の家へ行っておくべきだったろうか。ふと、そう思った。


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