01.プロローグ
少女はその花を水車のある広場に植えた。
水車はワイン醸造を生業とする村のシンボルで、広場は村の中心だ。
ぶどうの収穫を祝うお祭りもここで催される。
色とりどりの花が咲き乱れる花畑もあり、格好の遊び場だ。
いつも家の手伝いや幼い弟の世話に明け暮れる少女にとって、時々与えられる自由時間に花冠をつくるのが一番の楽しみだった。
その花は鮮やかな黄色で、他の花と比べても一際目立った。
最近知り合いになった薬売りからもらった珍しい花。
はるか遠くにある異国の花だろうか。
五角形の花びらとギザギザの葉っぱが特徴的だ。
その花はみるみる増えていった。
一日一日と目に見えて黄色の絨毯が広がっていく。
あっという間に花畑を埋め尽くした。
村でも話題になり始め、大人たちも珍しがって見物にやって来た。
花を見ながら宴会をする者たちもいた。
みんな幸せそうだった。
しかし、少女の目には黄色い花が他の花を食べてしまったように見えた。
見慣れた花たちが駆逐され、大好きな花畑が異物によって壊されたように感じた。
気味が悪いと思った。
植えたことを後悔した。
いつしか黄色い花は村全体を包み込むように広がっていった。
そして、一週間後、その村は滅びた──