2.
「あ、その顔は信じてないな」
金髪の女の子改めて、サマーギャルはプウッと頬を膨らました。
「信じるも何も、君って日本人にしか見えないよ。それに」
僕は最もなことを聞く。
「君、幾つなの?」
「まだ言うか! レディに年齢を聞くのは失礼なのさ!」
よく表情がくるくる変わる子だな。
僕はある意味感心していた。
「……まあ、いいさ。今回はアタイが見えていることに関して許したげる」
サマーギャルは「きししし」と奇妙な笑い声をあげて僕を許してくれたようだ。
「あんたの涙も止まった様だし、行きますか」
「え、何処に?」
ざあっと風が吹く。
サマーギャルの指は空を指した。
「天の川」
ざあっと風が吹き渡る、天の川の岸辺。
僕は、完全に異次元な場に居ることが確実だった。
きらきら輝く水面。
蛍の様な光が、その上を飛んでいる。
サマーギャルに言わせると、あれは星の赤ちゃんらしい。
河原に座る、サマーギャルと僕以外に人は人っ子一人も居ない。
隣で、サマーギャルは気持ちよさそうに『星めぐりの唄』を口ずさんでいる。
その小さな歌声が、天の川の流れと共に、天に流れていく……。
僕はそれを聞きながら、先程の事を思い出していた。
「さ、アタイの手に掴まって!」
「え? え?」
差し出された手を、訳が分からずに握る。
僕は完全にパニックになっていた。
「本当に、何処へ行くつもりなの?」
「何処って」
きょとん、とサマーギャルは真顔になる。
「天の川って言ったっしょ?」
と空を指差す。
「天の川⁉」
僕は思わず空を見上げた。
今日も、田舎のこの地方では星が綺麗に見える。もちろん、天の川も。
が、常識から僕は言おう。
普通の人間が、天の川へ行けるのか?
「行けるよ」
ざああっと風が手を握り合った二人の間を通る。
サマーギャルはまだ真顔だ。
どうやら、本当の様だ。
僕も、真顔になる。
「お願い、します……」
「了解っしょ!」
笑顔のサマーギャルは、綺麗だった。
グイッ!
「うわあ!」
いきなり手を引っ張られると、足が、なんと!
「う、浮いてる……!」
「さあ、行っきまーす☆」
一体どうやって飛んでいるのか宙に浮いているのか、僕はサマーギャルと手を繋いで空へと登っていた。
「下を見てみるのさ!」
「え?」
「目を瞑ってないで、見てみるっしょ!」
いつの間にか、僕はある高さになってくると目を瞑っていた。
が、サマーギャルに言われて気付くと、思い切って目を開いてみた。
「わーお!」
僕は思わず声を上げた。
眼下には、田舎の闇の中にぽつぽつと灯りが見えて、まるで地上の星空の様だった。
それからどんどん高度が上がって行って、気付くと。
「ここが、天の川っしょ」
「ほー……」
余りの綺麗さに言葉を失うとはこのことだと思った。
僕は、本当に、天の川に来ていた。
「~♪」
サマーギャルの『星めぐりの唄』が歌い終わった。
「君の歌声は、優しいね。そしてありがとう。こんな、素敵な場所に連れて来てくれて」
僕が感慨を込めてお礼を言うと、サマーギャルの顔が真っ赤になった。
「……ありがとう」
「顔、真っ赤だよ?」
「今日は暑いからっしょ!」
えいっとサマーギャルが立ち上がる。
天の川に、涼しい風が、吹き渡っていた。
「……帰るっしょ」
「え。もう」
僕は、帰りたくなかった。
いつまでもこの景色を、この娘と見ていたかった。
「……本当は、ここは人間を連れて来ては、いけないの」
「え!」
「静かに!」
サマーギャルは、僕に向かって鋭く言う。
慌てて僕は手で口を覆う。
「前に、夏の姉妹が、連れてきたっしょ。人間の大人の男性を。その人、天の川の石を記念にって拾って帰って、売ったのさ。オークションで」
「そんな」
驚いた僕の顔を見て、サマーギャルは顔を歪めた。
泣きそうだった。
「慕っていたのさ、アタイは。お姉ちゃんを。そんなお姉ちゃんは、天の神様から罰を受けて、夏の妖精の座をはく奪されて、海のヒトデになっちゃった……」
くるりと後ろを向いて、サマーギャルは言の葉を続ける。
「まあ、そんな人間は人間で、永遠に嘘つき呼ばわりされて暮らしたらしいけれど。アタイから見たら"ざまーみろ"だったっしょ」
「サマーギャル……。じゃあ、何で僕は……?」
「お姉ちゃんは、泣いてる人をほっておけなかったから。アタイも、ほっておけなかったのさ」
ああ、と僕は思った。
サマーギャルは、泣いている僕を見て、わざわざ姿を現してくれたんだ……。
でも、そしたら、君は……。
「罰を受けるんじゃ……?」
「いいっしょ」
震える声で、強気に、サマーギャルは言う。
僕は、何か言おうと立ち上がった。
が、
「あ、れ……」
急な眠気が僕を襲う。
「バイバイ……」
僕が、最後に見たのは、サマーギャルの、泣き笑いの顔と、手を振る姿だった。