93. 情報交換
『三槍の誓い』に貸された洞窟は、前回よりいい場所だ。
禿げ山の低い所にある。その分登り降りが楽だ。
ここではトイレは下にしかない。登り降りはそれなりの手間なのだ。
客としてランクアップしたということか?
「こんな風になってるんだ」
メリアンは、洞窟に興味津々だ。
「キンバリー、どこのベッドにする?」
借りる洞窟は部屋は前回と同じAランクだ。
奥の細長い洞窟の壁には人が寝れるぐらいの大きさの窪みがある。ベッドと言うか個人スペースになっているのだ。
「じゃあこんな感じで」
僕はコイチロウさんと話し合って、全員の分をさっさと決めてしまった。
前回と同じく、入り口はコイチロウさんとキンバリー。
そして、ナガヤ三兄弟が互い違いになるようにする。
この洞窟の中は安全だと言うが、それでもダンジョンの中だ。
メリアンの意見は無視。
メリアンに主導権を握らせない。
僕の主観だがこれが大事。
「ちょっと、私の話を聞きなさいよ!」
メリアンがいつも通りむくれた。
「これが安全だよ。
あと、メリアン、ここでは絶対に1人で出歩かないこと」
僕は言った。
「わかってるわよ」
メリアンは答える。
「キンバリーと2人もダメだ。男の誰かと一緒だ」
僕は注意事項を追加する。
「えェェー」
メリアンは口を尖らせる。
「ここには酔っぱらいもいる。
メリアンに攻撃魔術をぶっ放される奴だって気の毒だろ」
僕はさらに追加した。
「夜中にトイレに行きたくなったら、遠慮なく、我らを叩き起こせ」
コサブロウさんが言う。
メリアンはジロっとコサブロウさんを睨み付ける。
「メリアン。単独行動したら、レイラさんに言い付けるぞ」
僕は言った。奥の手だ。
「……分かったわよ!」
メリアンは口を尖らせながら答えた。
大丈夫かなあ?
「メリアン、私もここでは1人では出歩かない」
キンバリーが言った。
「起こせ。必ず起きるから」
コイチロウさんが言う。
「遠慮は無用ぞ。我らは同じパーティーの仲間なのだ」
コジロウさんは言った。
「……分かった」
メリアンは言った。
まあ大丈夫だろう。
本日のバーベキューの献立は、角ウサギの串焼き。お値段は1200ゴールド。
相変わらずのぼったくり値だ。ついでに今回は自腹である。
ガイドに奢ってもらうわけにはいかない。
とは言え、食べ放題は相変わらずで、コジロウさんやコサブロウさんやダグら前衛陣はガツガツ食べている。
「明日は早めに出発だ」
ハロルドさんは言った。
会場の石のテーブルには、ハロルドさんとウィルさん、僕とコイチロウさん、そしてネイサンさんが座っていた。
各パーティーのリーダー、サブリーダーが集まった。
今後の予定の確認のためだ。
「明日中に大峡谷を降りるつもりかい?」
ネイサンさんが聞く。
「疲れている時に慣れない崖降りは避けたい。
1日目のキャンプは上がいいと思っている。
適当な場所はあるだろうか?」
ハロルドさんの言葉だ。
「場所はなんとかなるよ。
人数も多いし、そう簡単に魔物は襲ってこないだろう」
ネイサンさんは言った。
「よお。お前ら今時、亡霊のダンジョンに行くつもりか」
そんな言葉と共に現れたのは、禿げ山の一党の禿のお頭だ。
「そのつもりだ。用意もしてきた。
お頭は、亡霊のダンジョンの今の状況をご存知か?」
ハロルドさんはそう言うと、席を勧める。
お頭は僕らのテーブルに座った。
「亡霊のダンジョンは、一時期は魔石ラッシュだった。
だが、ここしばらく、行くヤツはめっきり減ったな」
お頭は言う。
「何故だ?危ないからか?」
ハロルドさんは聞く。
「そうだ。亡霊にやられた場合、エリクサーはほとんど効かない。
自然回復を待つしかない。
ウチのメンバーにも療養中の奴がいる」
お頭は答える。
「怪我が治せないとしたら、どうやってここまで戻ってきたんですか」
僕は頭に浮かんだ疑問を口に出した。
「何度も荷車を出して、怪我人を運んだぞ。もちろん代金は貰った。
でも、ウチとしても、良い儲け方だとは思ってないぞ」
お頭は答える。
「それは……、大変でしたね」
馬や牛のような草食獣は、ダンジョンに入るのを嫌がる。無理矢理入れても、ろくに食事を取らなくなる。
犬のような肉食獣だと、入れる個体もいるが、これも珍しい。(デイジーのお母さん犬も特別なのだ)
話がそれた。
つまりダンジョンの中では、荷車は人間が引くしかないのである。
「そうだ。
そんなわけでネイサン、お前らが亡霊のダンジョンに行くのはお勧めしない。
普通に狩りをした方がいい」
お頭は言った。
どうやらネイサンさん達が心配だったようだ。
「安心してくれ。元々僕達はガイドだよ。
ただ、君の忠告は聞く。
もし、チェイスが入りたがっても必ず止める」
ネイサンさんは答えた。
「さて、残りのお前らは、俺が止めても入るんだろう?
聖水は持ったか?聖属性の魔術師は何人いる?」
「聖水はこれぐらい……」
ハロルドさんは量を言った。
お頭はちょっと残念そうな顔になった。
多分、在庫がタブついた聖水を僕達に売り付けたかったんだろう。
「聖属性の魔術師は4人いる。
私と、こちらのクリフも聖属性の使い手だ」
ハロルドさんは続ける。
お頭は僕を値踏みするように見た。
僕は背筋を伸ばす。ここでなめられるわけにはいかない。
「4人か。まあいいだろう。
亡霊は、魔力の弱い者にとってこそ恐ろしい相手だ。盾は効かない。
前衛の防御には頼れない。それを忘れるな」
お頭は言った。
教科書に書いてある基本事項だけどね。
「承知した」
ハロルドさんは答える。
「そうだ。亡霊のダンジョンの地図がある。買うか?」
お頭は、商売人だった。
「買おう」
ハロルドさんは答えた。
これはまあ、買っておくべきだろう。