90. 冒険者ランクと冒険者番付について
「『青き階段』所属『デイジーちゃんと仲間達』、Bランク・ネイサン、Bランク・チェイス、Bランク・トム、そしてBランク・かわいいかわいいデイジー!」
今日のダンジョン・ゲートの受付は無愛想な中年のオバサンだった。
しかし、鉄面皮なオバサンもデイジーの時は満面の笑顔になった。
そう。
デイジーは冒険者の資格を持っているのだ。この前、冒険者タグも見せてもらった。
「デイジーはBランク冒険者だったのかよ。俺らより上じゃねーか」
ダグが言った。
「『青き階段』でBランクになるのは、なかなか大変なんスよね。すごいッス」
ギャビンが言う。
さっき受付を通る時に判明したが、『雷の尾』のメンバーは全員Cランクに昇格していた。
問題は、その上に昇格する目処がたっていないことだ。
これは『三槍の誓い』も同様だ。
『青き階段』は、Cランクまでは簡単に昇格できるが、Bランクから上は実に厳しい。
「まったくいつBランクに昇格できるんだよ!」
ダグは不満そうに言った。
僕達は、ゲートをくぐり噴水広場に向かう途中である。
受付の直後であり、冒険者達は、しばしばこの辺りで冒険者ランクを話題にする。
向こうには、今回大物を狩ればAランクだとか言ってる6人組の冒険者グループがいる。
……そこまで強そうには見えないんだけどな。
クランによって、冒険者ランクの基準はかなり違うのだ。
「Bランク魔物は、主に第四層や第五層にいる魔物らしいです」
僕は以前ユーフェミアさんに聞いた話をした。
「マジかよ」
ダグは嘆息した。
「あと、第二層や第三層の奥の方にでるボス魔物もBランク昇格の要件になるそうです」
僕は付け加える。
「あーチクショウ、今度の亡霊のダンジョンにはBランク魔物はいないのかよ」
ダグはボス魔物に会いたいらしい。
「高位亡霊はBランク魔物になる。
今の所、亡霊のダンジョンで出たと言う情報はない。
だが、もし出たら撤退する」
ハロルドさんが言った。
「お化けなんぞに怖じ気付いてたまるかよ」
ダグはハロルドさんに食ってかかる。
怖いものなしの男だ。
「亡霊が先に襲うのは聖属性を持たない者だぞ。
私は逃げ切れると思うが、ダグが逃げ切れるかは神のみぞ知るだな」
イリークさんが残酷な事実を告げる。
これは本当だ。
弱い獲物から狩るのは狩りの鉄則だ。
そして、アンテッド、特に亡霊のような実体のない輩は、魔力の弱い者から狩る。
「ったく、Aランクになれるのはいつになるんだ?
言っておくけど、前いた町では、もうじきAランクって言われてたんだぜ」
ダグはぼやく。
ダグは、とりあえず高位亡霊に会うのは諦めたのだろうか?
「お前らはどう思うよ、ナガヤの三つ子」
ダグはナガヤ三兄弟に声をかける。
「『青き階段』のAランク冒険者とは、ソズン師範のことだ」
コイチロウさんが答える。
一行の中に沈黙がおりる。ダグも黙った。
「……長い道のりになるな。鍛練あるのみよ」
コジロウさんが言った。
「……まずはBランクからか」
ダグも言った。
さて、一層の噴水広場と言えば、ダンジョン弁当である。
僕達は広場の一角に腰を下ろし、買った弁当を食べていた。
僕達はかなりの大所帯だし、強そうなメンバーも多いし、絡んでくるやつはいない。
『暁の狼』時代は、時々メリアンに目を付けてくる奴がいて、ヒヤヒヤしたものだが。
「『青き階段』で冒険者ランキングを上げるより、『冒険者通信』の番付に乗る方が簡単かもしれないよ」
弁当を食べながららネイサンさんは言った。
「なむンだよ、冒険者番付って?」
ダグが食べながら聞いた。
「ダグ、知らないんスか?『冒険者通信』が3月に1度出してるんスよ」
ギャビンが答える。さすが【地獄耳】。
「知らねーよ『冒険者通信』なんて読まねーし。お前、知ってるか?」
ダグはコサブロウさんに話を振る。
「もちろん知っておるぞ!」
コサブロウさんは胸を張った。
「ちゃんと読まないからダグはいつまでたっても馬鹿なんスよ。ハロルドさんにも勉強しろって言われてるっしょ?」
「うるさい。弱っちい癖にグダグダ言うんじゃねー」
『冒険者通信』が勉強になるかは置いておくとして。
「BランクやAランクになるのはそんなに大変なんですか?」
僕はネイサンさんに聞いてみた。
「まあね。Cランクまではユーフェミアさんが書類を書いて、副クランマスターがサインすれば通る。
Bランクからはギルマスの意向が大きい。
そして、うちのギルマスは昔気質でランク上げには厳しい」
ネイサンさんは肩をすくめた。
「お主らは、『冒険者番付』に載ったことがあるのか?」
コサブロウさんがネイサンさんに質問する。
そう言えば、コサブロウさんは以前から、冒険者番付に興味津々だった。
「10位に入ったことは何度か。9位に入ったことが1度あるかな?」
ネイサンさんが答える。
「あのゴドフリーは適当なパーティーがないと俺達を入れるんだよ」
トムさんが言った。
「番付がどの程度正確かは別として。
下の方に入ることは難しくないよ」
ネイサンさんは言う。
ここは騙されてはいけない。あくまでネイサンさんの基準で「難しくない」と言ってるのだ。
「では難しいのは?」
コサブロウさん。
「5位以内に入ることだね。
ここはいくつかの大型パーティーが独占している。
『羽根の王冠』は入ったことがあるけど」
「1位はどうだ?」
ここで再びダグが話に入ってきた。
「無理ですよ。『緑の仲間』は特別です」
僕は答える。
『緑の仲間』は、冒険者番付の不動の1位である。
「どう特別なのだ?」
「たくさんのメンバーが所属する超大型パーティーなんです。
活動の中心はダンジョンではなく北の森や、北の草原で、仕事は薬草採集です。
ロイメのエリクサーの供給は『緑の仲間』が支えているんです」
ロイメ周辺はマナが豊富な土壌で薬草も多い。
その薬草からエリクサーなどの魔法薬が取れる。
『緑の仲間』は、普通の冒険者パーティーとは稼ぎ方が違い、稼ぐ額も違うのだ。
僕から見ると、『緑の仲間』は殿堂入りにした方が良いような気がするんだけど。ここは、大人の事情もあるのかもと思っている。
だらだらとそんな話をしているうちに、ダンジョン弁当は僕達のお腹に入っていった。