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80. ネリーの馬鹿勝負

ネリーは、僕が魔術師クランのベンチに座っていると、突然現れて、僕の横に座った。


「あの後、『冒険の唄』の旦那さんにすごく怒られたわ。当然よね」

ネリーは言いにくそうに話し出した。


まあ、『冒険の唄』の旦那さんとしは、白昼堂々レイラさんに踏み込まれるし、踏んだり蹴ったりと言う気分だろう。

彼は怒るだろうし、ネリーには怒られる理由がある、……と思う。


「そうだろうね」

僕は答える。


ネリーは沈黙した。

このままだと会話が終わってしまいそうだ。

一応聞いておくか。


「何故ネリーは、あんなに感情的になったんだ?」

これは僕の中では疑問だった。

僕の中では、ネリーはもっと理性的なイメージがあったからだ。



「よくわからないわ。

でも、クリフあなただし、正直に言う。

メリアンは私にとって、すごく勘にさわる存在なのよ。

今思えば、あの金髪娘が『冒険の唄』に現れた時から、やだなって思ってた。

私はああいう派手な金髪が嫌いなんだと思うわ」


ネリーは理屈にならないことを言っている。

スパンと結論を言えよ、ネリー。

らしくないぞ。


「何か、金髪に嫌な思い出でもあるとか?」

僕は一応聞いてみる。


「姉がああいう金髪だった」

ネリーは答えた。


「ネリーは、お姉さんとメリアンの区別がつかないくらい目が悪いわけ?」


「なわけないでしょ」


「じゃあ、金髪は決定的な理由じゃない」

僕は結論を出した。これで、合ってるよね?



「そうね、治癒属性の魔術師も嫌いだわ。

たいしてことない術者のでも、皆態度が大きくて。

これは、メリアンもそうよね?」

ネリーが新しい理屈を持ち出した。


「それは、まあ、なんとなく分かるよ」


これは、僕が中途半端な攻撃魔術師が嫌いなのと同じだろう。

大したことない魔術で大きな顔をされると、すごく腹が立つ。

術式にこだわりがあるからこそだ。


「うれしいわ。クリフなら分かってくれるかもって思ってた」

ネリーは実際うれしそうに言った。



「でもさ、『輝ける闇』の前の治癒術師とはどう付き合ってたの?」

そうなると、こう言う疑問が出てくるんだよね。


「彼女とは、まあまあ仲良かったと思うわよ。今でも手紙のやり取りをしてるし」

ネリーはしれっと答える。おい!


「彼女は、ネリーを納得させるぐらいの術者だったわけ?」


「術者としては私から見れば普通。メリアンよりは少し上かな。

でも、努力家だった。

それからとても頭の良くて気が付く人で、冒険者生活の中で、頼りになったわ」


「ネリー、さっきと言ってることに矛盾があるよ。らしくないぞ。

この場合、治癒術師が嫌いじゃなくて、メリアンが頼りにならないから嫌いだったとか、言うところじゃないのか?」


「短期で組んだ冒険者やパーティーの中には、メリアンよりも役に立たない冒険者もいたわよ。

『役立たず』も理由にならないのよね」



おし。なら、言うぞ。


「メリアンが、シオドアさんにベタベタするのが嫌だったんじゃないの?」

安直だけど、やっぱりこれが理由でじゃないだろうか?


「なぜ?

メリアンが来てから、シオドアがこっちにベタベタしてこなくてむしろ助かったぐらいなのに」

ネリーの声からは嘘は感じ取れない。


「そうなの?」

僕は聞く。


「そうよ」

ネリーは答える。


意外である。

しかし、シオドアも僕が思っていた程には、モテてないのか。



「そうだわ。

メリアンが、なぜ冒険者をやってるのかわからないのが嫌って言うのはどう?

ちなみに私は、今でもメリアンには、冒険者ギルドの職員の方が向いていると思うわ。

別にずっと続けなくていいじゃない。あれだけの容姿に中級治癒術もあるんだもの。

仕事で失敗する前に条件の良い男を見つけて、結婚すればいいのよ」


「……」

僕は沈黙した。


メリアンに良家の奥様がつとまるだろうか?

いざという時は、攻撃魔術をぶっ放せば良いと言ってるメリアンに。



「王国で相手を探す手もあるわ。

王国にいる私の大伯母は、縁談をまとめるのが大好きなのよね。

メリアンに大伯母を紹介してもいい。

大伯母は、メリアンを見たら、ニッコニコで近寄ってくるわよ」


ネリーの実家は王国の魔術師の名門で、貴族だと聞いたことがある。

ネリーがロイメの魔術師クランに来た時、その事もあってけっこうな騒ぎだった。


ネリーの大伯母もたぶん貴族だろう。

メリアンに王国の貴族や良家の奥様がつとまるだろうか?以下同文。



「ネリー、メリアンは馬鹿なんだよ」

僕はレイラさんの依頼でメリアンに関わって、これは分かった。

1本筋が通って馬鹿なのだ。


「馬鹿だから馬鹿な選択をする。

そして、誰にでも馬鹿な選択をする権利はあるんだ」

これは大事なことだと思う。



「メリアンが馬鹿って言うけど、私もロイメに行くと言った時、両親や大伯母や姉から、馬鹿な選択をするなって散々言われたんだから。

私も自分が馬鹿かもしれないと思った。

でも、やりたいようにやったのよ」

ネリーは馬鹿勝負に、妙な対抗心を燃やしているようだ。


「僕的には、メリアンは、ネリーと同じくらい馬鹿に見えるよ」

僕はかなり控えめに言った。


「…………。

……納得したわ。なぜ私がメリアンにあんなに腹が立ったのか。

馬鹿勝負で負けたからだったのね」

少し沈黙した後、ネリーは答えた。声は真剣だ。

そしてちょっと悔しそうだった。



「……やっぱりネリーから見ても、メリアンの方が馬鹿なんだ?」

いや、僕もネリーよりメリアンの方が馬鹿なんじゃないかと思っていたけど。


「そりゃそうよ。

私がロイメに来て冒険者になっろうと思ったのは、こんな赤毛の死霊属性ネクロマンシーの女には、良い縁談がなかなか来ないのも理由よ。

もちろん、それだけじゃないけど。

メリアンは、金髪の治癒術師。良い縁談もあるでしょうし、寄ってくる男もいるでしょうに。

それで、女冒険者をやってるんだもの。

馬鹿も大馬鹿だわ」

ネリーは言った。そして続ける。


「……私が悪かったわ。

心の底からそう思う。あんなに感情的になって情けない。

メリアンに伝えてちょうだい。

私が、ネリーが間違ってたって」

ネリーははっきりと言った。


えーと。


「……いやあのさ、メリアンなんだけどさ。

魔術師クランに来るかもしれないんだよ」

これ、今、言っておいた方がいいよね。


はあ(・・)?」


「術者として技術を上げるためには、勉強は必要だろ。

だから、本人が来たら、本人に言うといいよ」

僕は言った。なんとか言った。


「……あの女が魔術師クランに来るわけ?最悪じゃない!」

ネリーはそう言うと、立ち上がった。


そして、研究室の方へ去って行ってしまった。



以上が、僕とネリーの会話の顛末である。



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