78. チンピラとモテ男
「兄ちゃん、美人2人連れは納得できないなあ。
男の敵だよ。天誅だ。
なあ、みんなもそう思うだろう」
男の1人が周りの群衆に向けて言った。
男1人と女2人で出歩いていたからと言って、男の敵とは限らない。
即・けしからんと思うのは、余程女性に免疫がない男だ。
……ついこの間まで、僕もそうだった。
だから彼らの気持ちは分かる。分かるんだよ!
「そう言う関係じゃないんですが」
僕は彼らに説明しようとした。
「そう言う関係って、どういう関係かなあ?」
体格の良い冒険者達は、前後に回り、通せんぼ状態を作った。
アルコール臭がする。
周囲に人垣ができつつある。ただ僕達と言うか、僕の味方をしてくれそうな感じがない。
もしかして、本当に男の敵だと思ってる?
ちなみに、2人組は、体格が良いだけでなく、剣で武装している。
さすがに、ナガヤ三兄弟よりは小さいが。
「ちょっと触らないで。酒臭い男は嫌いなのよ!」
メリアンが言った。
「そんな浮気性より、俺らと遊びに行こうぜ。2対2だ。ちょうどいい」
男の1人が言った。
「2人で徒党を組まないと女も口説けないわけ?」
メリアンは辛辣だ。
さて、どうするか。
メリアンの攻撃魔術を軸にして、3人で迎え撃つか?
しかし、都市内で攻撃魔は、なるべく使わないのがロイメの法である。
キンバリーの武装は短剣だ。いざとなれば彼女は戦うだろうが、前衛との肉弾戦は避けたい。
となれば。
「キンバリー、メリアンを連れて『青き階段』まで走れ。奴らは僕がここで引き止める」
「クリフ・リーダー?」
「街中で攻撃魔術をぶっぱなすのは避けたい。この前、コジロウさんがトラブったばかりだし」
僕はメリアンに絡んでいる男の背中に軽く触れると、対電・帯電コンボを使った。
ビリビリッ。
男が膝をつく。
僕の掛け声と共に、キンバリーとメリアンの2人は走り出す。
元気な方は、2人を追いかけようとしたが、膝をついた相棒を見て、戻って来る。
「てメェ、何しやがった!」
「まず、話し合いましょう。僕はあなた方が思うような男の敵ではありません」
これは、説得すると言うより、半分煙に巻くのが目的だ。
第三層で、トロール族相手にも僕は口で立ち向かったのだ。
人間の酔っぱらいぐらいたいしたことはない!
「いいですか?あなた方は僕に幻想を見ている。
だいたい多くの男性にとって、同時に2人の女性を相手にすることは、リスクが大きくメリットが少ない。
一夫一婦制を推奨するヴァーナー女神が多くの信仰を集めているのには、理由があるのです。
僕とキンバリーは、パーティーメンバーとしての付き合いです。
メリアンは、昔一緒のパーティーにいただけです。
だいたい彼女達2人の方が仲が良く、僕はオマケです。
天誅を加えるなら、真のリア充、真のモテ男、リスクに挑戦する奴、そう言う輩にやるべきでしょう。
あなた達は、自分達の真の敵が何か見定める目を持たなくては……」
「何わけのわからんこと抜かしてやがる!」
酔っぱらい冒険者は明らかに怒っている。
残念ながら、僕の屁理屈は通じなかった。魔術師クラン辺りだと、けっこう食いついてくれるんだけど。
まあ、酔っぱらいだしな。
とはいえ、元々舌戦はオトリだ。
メリアンとキンバリーは既に逃げたし、僕も「脚力強化」で逃げるとするか。
その時。
「ちょっとしびれたぜ。ついでに酔いも覚めたぜ」
僕が対電・帯電コンボで倒れていた男が起き上がってきた。
思ったより早い!?
「俺はちょっとだけ雷魔術の適性があるんだよ。だから電撃には強い」
そう言うことは早く言え!
「やってくれたモンだぜ。覚悟しな」
2人は僕の前後についた。剣は抜いていないがやる気満々だ。
「脚力強化」を使ったとして、この間合いで逃げきれるだろうか?
立ち上がった男は、かなり酔いは覚めてるようだ。ジワジワと間合いを狭めてくる。
やられたら、やり返す。
冒険者社会の不文律ではある。
どうしよう?
2人とも剣は抜いてないし、殺す気はないと思うけど。
大声で助けを呼ぶ?
いっそ土下座するとか?
「君達、その程度にしておいた方が良いよ」
人垣の中から1人の男が現れた。
甘い顔、黒髪で青灰色のタレ目の華やかなイケメン。
ハーレムパーティーのリーダー、スーパーリア充、モテ男のシオドアじゃないか!
「なんだと」
男の1人が言うが、さっきまでと比べると迫力がない。なんて言うか、シオドアに圧倒されている。
お前、情けないぞ!そいつがお前の真の敵だよ!
「そこのクリフは1級魔術師だよ。君らが敵う相手じゃない」
シオドアは言った。
「でも、こいつ杖も棒も持ってないぞ」
男の1人は言う。
魔術師の多くは、杖か棒を魔術の発動体として持つ。
「杖がいらないぐらいの腕なんだよ」
シオドアは言った。
これは、自慢じゃないが、その通りである。
僕は、術を発動させるのに杖はいらないと思っている。空中に直接術式を展開すれば良いのだ。
さらに練度を上げられれば、呪文もいらない。
「僕は君らに親切心から言っている。
ただ、彼が術を使うと周りの被害も出そうだから。代わりに僕が戦うことになるかな?」
「い、いや。美人もいないし、今日は帰るわ。おい、飲み直そうぜ」
「ああ、そうだな」
2人はすごすごと去って行った。
「ありがとうございました。おかげで怪我をせずに済みました」
僕は言った。
「なかなか面白い理屈を聞かせてもらったよ」
シオドアが答える。
「屁理屈です。お恥ずかしい限りです」
僕は言う。
僕はシオドアに心の底から感謝している。なんと言っても、助けてもらったし。
しかし、奴こそリア充だ。
妄想だけど、僕とあの2人で力を合わせれば、シオドアに軽くギャフンと言わせるぐらいはできるんじゃないだろうか?
しかし、そう言うことは起きない。
モテの世界で、革命はそうそう起きないとすれば……。
……モテない男や陰キャは、自力でのしあがるしかないらしい。
「おーい、クリフ殿~、無事か~!」
コジロウさんの声が聞こえた。
コジロウさんを先頭に、キンバリー、コイチロウさん、少し離れて、コサブロウさんとメリアンが、こっちに向かって走って来ていた。
「シオドアさんに、助けてもらいました~。大丈夫です!」
僕はモテない男に共感しつつもら手を振ってそう答えたのだった。




