70. パーティークラッシャー・追放
「メリアン、『輝ける闇』では何があったんだ?」
僕は聞いた。
「何も」
メリアンは答える。
「何も?」
「そうよ!何もしてないのにパーティーを出ていけ、ついでにクランも出ていけって言われたの。
酷いものだったわ。わたしは追放されたのよ!」
「……」
追放。それは辛い体験だ。その時のメリアンの気持ちはありありと想像できる。
僕もされたことがあるから。
「メリアンさん、あなたの状況は気の毒に思います。
ただ、原因解明のためにも思い出して欲しいんです。
何があったんですか?兆候のようなものでも」
ミシェルさんが言った。
「何もしてないわよ。そもそも探索にも行ってないし。
そりゃ、リーダーのシオドアさんにはいろいろ相談に乗ってもらったけど、それは普通でしょ?」
うーん、問題はメリアンの「普通」がどの程度か、なんだよなぁ。
僕には、正直『輝ける闇』は賢明だったのではないかとすら思える……。
「追放は、どのような形で行われたのですか? リーダーから出ていくように言われたのですか?」
「クラン『冒険の唄』の女将さんから、クランを出て行くように言われたの」
トビアスさんも含めて、皆息を飲んだ。
「それは酷いと思う」
キンバリーがぽつりと言った。
「そうだね。女将さんは、本来中立じゃないといけないからね」
ホリーさんも言う。
「そうよ。わたしは理由もなく追放されたの。頑張ってたのに」
メリアンは涙ぐみながら言った。
僕もさすがにメリアンが気の毒になってきた。
でも言いたいことがある。
「僕も理由もなく『暁の狼』を追放されたと思っているけどね」
僕はメリアンに、言った。
僕だって頑張っていたし、金も貸してたんだぞ。
「……クリフ。『暁の狼』の時のことは、ごめんなさい。
自分のことでいっぱいいっぱいだったの」
メリアンが謝るとは珍しい。
ここで、もう気にしてないよ、とか言うのがイケメンなんだろう。バーディー辺りはそうするのかな?
でも、僕はしょせん僕なので、そう言う気分になれなかった。
しつこいと言われるかもしれないが、まだ引きずっているのかもしれない。
だから僕は沈黙した。すると。
「ちょっと、新しい仲間がいるからもう気にしてない、とか言ったらどうなの!」
メリアンはプンプンむくれながら言ってきた。
……メリアンである。
「メリアン、一応聞くけど、『輝ける闇』が最後のパーティーなんだよな?」
僕は聞いてみる。
「そうよ」
メリアンは答えた。
実質3つパーティーがクラッシュしたのか……。
「メリアン、追放は気の毒だが……」
トビアスさんが話し出した。
「追放されてしまったのは仕方ない。それとも、タブロイド紙の所にでも駆け込むか?」
「……やめとく」
メリアンは答える。
「だとしたら、次のパーティーを探すことになる。
そのために、パーティークラッシャーの噂の出所は確かめた方が良さそうだ」
以前、僕は『暁の狼』を追放された。
だが、僕の事件は、追放されて終わった。
パーティーへの借金は……、まあ、半分あきらめている。
無い袖は振れない。お金は空中から沸いてこない。
そう言うことだ。
一方で、メリアンは、パーティーを追放されて、クランを追放されて、それでもまだ事件が終わっていない。
これはおかしな事だ。
「僕もトビアスさんの意見に賛成です」
最悪、噂している奴を荒っぽく「説得」する必要があるかもしれない。
……女性だと嫌だな。その時は、レイラさんに相談するか。
僕達は手分けして噂の出所を探すことになった。
ホリーさんは、女性冒険者がよく来る店を担当してくれるそうだ。
ホリーさんは、酷い女将さんだわ、と怒っている。
「『風読み』で聞いてみる。あとレイラさんにも」
キンバリーは宣言した。
「レイラさんは、パーティークラッシャーについて、最初から知っていた。
当然どこかで聞いたはず。もっと早く聞きに行かなきゃいけなかった」
キンバリーは珍しく雄弁だった。
僕は魔術師クランで聞き込みをすることになった。
そんなわけで、僕は久しぶりに魔術師クランに顔を出した。
「なあ、金髪美人の治癒術師の噂を知らないか?
僕らと同じか、もう少し年下らしいんだけど」
僕が聞いているのは、魔術師クランの同期達である。
いつも仲が良かった訳じゃないが、長い付き合いだ。
「金髪美人だって?」
「独身か?」
「同じクランの人が、金髪美人の治癒術師がいるって噂を聞いたんだ。
魔術師クラン所属じゃないかって」
「金髪美人の治癒術師なんて、すごく目立つだろう。知らないな」
「金髪美人がいたら、こんな所でくだ巻いてないよ。魔術師クランにいるのは、赤毛の陰気臭いのだよ」
「そうか。
……なあ、メリアンって名前に聞き覚えあるか?」
「誰だそれは?」
こんな反応であった。
女性の多い研究会へも、これは手土産を持ち、聞きに行った。(ザクリー爺さんに勧められた芋菓子である)
ここでも、メリアンの噂は拾えなかった。
とりあえず、魔術師クランは噂の出所ではなさそうだ。
次の日、僕達は『青き階段』のロビーに集まった。
この前と同じメンバーだ。メリアン、僕、キンバリー、ミシェルさん、トビアスさん、ホリーさん。
「魔術師クランは特に噂はなかったです」
僕は言う。
「女性冒険者の多い店では、かなり噂になってたわ。酷いものよ。
店で噂を広めたのは、赤毛の魔術師を含む3人組の女性グループだそうよ」
ホリーさんが言った。
赤毛の女性魔術師。すごくネリーっぽい。
「『風読み』では、先生達にいろいろ教えてもらいました。
パーティークラッシャーについて話をしていたのは、『輝ける闇』のスカウトだそうです。
名はトレイシー。
先生達が相手にしなかったので、すぐ黙ったようですが」
キンバリーは報告した。
やはり『輝ける闇』か。
「ねえ、ホリーさん、店で噂をしていた中に、背が高くて、前髪の一房が銀髪の女の人がいたりしなかった?」
メリアンが言い出した。
「前髪が銀髪。はい、そんなことを言ってた人もいました。メリアン、知り合いなの?」
ホリーさんが答える。
「前髪が銀髪なのは、銀弓のダイナさん。
あのクソ意地悪ババア、いい加減にしてよ!」
メリアン、なんかイキイキしてない?
「ミシェルさん、『輝ける闇』かクラン『冒険の唄』に、知り合いのいる奴はいないか調べてくれ。
状況についてもう少し聞きたい」
トビアスさんが言った。
トビアスさんは、メリアンの言葉を完全に信じていない。賢明である。
そう言えば。
「『輝ける闇』のリーダーは、ユーフェミアさんの甥だそうですよ」
僕は思い出した。




