66. 閑話 ユーフェミアとレイラその2
ユーフェミアとレイラは、『青き階段』の女性従業員用の休憩室にいた。
休憩室には、小さなガラス窓があり、明るい日差しが差し込んでいる。
良い天気だ。
「ソズンさんが考えているのは、こんな感じの物だそうです」
ユーフェミアは言った。
ユーフェミアが差し出した紙には、設計図のような何枚かの絵が描かれている。
「トレーニング用の機械ってやつね。ヴァシムに見せておくわ」
レイラは答える。
ヴァシムは、『風読み』の副クランマスターを務めるドワーフの男である。
機械オタクで、新しい装備の開発を担当している。
「ソズンさんは、近いうちにヴァシムさんに会いに行きたいそうです。いつぐらいなら良いでしょうか?」
「ヴァシムがこれを見たら、ウキウキで『青き階段』に来るわよ」
「足が悪いのに、大丈夫ですか?」
ユーフェミアが言う。
ヴァシムの片足は義足である。片足は、冒険の途中で失ったのだ。
「問題ないわ。歩けるし、バトルアックスを振り回して戦うことだってできるのよ。
ただ、ダンジョンを踏破するのは、ちょっと無理ね」
レイラは答える。
「おたくのクリフを借りて悪かったわね」
レイラはぽつりと言った。
「もちろん構いませんよ」
ユーフェミアは即答した。
レイラはユーフェミアの顔を見る。しかし、その奥にあるであろう感情は見通せない。
まあ、ユーフェミアにしろレイラにしろ、長命族の血を引いている女は、そう簡単に内面を晒さないものだ。
「それにしても、なぜ今回のメリアンさんに関する依頼を出したのですか?」
ユーフェミアは聞いた。
メリアンは騒動ばかり起こす女の子だ。
なぜレイラさんは、面倒見る気になったんでしょうね、と受付のノラも言っていた。
「なぜだと思う?」
レイラは聞き返す。
「とりあえず、お弟子さんのためだと言うのは分かります。
私はその場にいませんでしたが、メリアンさんは、女性冒険者がやってはいけないことを片っ端からやってきたようですから」
「まあね」
「若い女の子と言うものは、良い例からも学びますが、悪い例からも学ぶものです。
女性冒険者の処世術を学ぶのに、メリアンさんは素晴らしい教材です。
そして、キンバリーさん1人だと心配ですが、クリフさんと2人なら安全です」
ここまで、ユーフェミアは一息に言った。
「……」
そして、ここまで言われると、レイラとしては沈黙するしかない。
「と言うわけで、うちからもミシェルを出させて頂きます」
良い課題になりそうだったので、と続ける。
「まあ、クリフは、真面目にやりそうだし、メリアンの欠点を良く知ってるみたいだしね。適任でしょ」
レイラは答える。
「そうですね。
さらに他にも理由はあるかもしれませんが……、そちらは、まあ、なかなか分からないですね……?」
ユーフェミアは言った。
レイラは話題を変えることにする。
このまま話していると藪から蛇が出てきそうな気がしたからだ。
「そう言えば、ユーフェミア。
魔石商人と組んで、聖属性の魔石相場で荒稼ぎしているそうじゃない?」
亡霊のダンジョンは、ユーフェミアの予想通り、聖属性の魔石がたくさん出る。
そのため、聖属性の魔石の値段は乱高下している。
「荒稼ぎにはほど遠いです。相場に落ちているお金を拾っているようなものです」
ユーフェミアは、のうのうと答えた。
その上で、レイラさんも一緒にやりますか、と続けた。
「止めておくわ。わたしは背が低いし、手も短いし、お金まで手が届かないかもしれないし」
ケンタウルス族の血を引くレイラは、小柄である。しかし、手が届かないと言うのは比喩だ。
ただ、ユーフェミアにとって簡単でも、レイラにとっては難しいことはある。
もちろんその逆で、レイラにとって簡単でも、ユーフェミアにとって困難なこともある。
当然である。
ユーフェミアは、ハーフエルフ。
レイラは、ハーフエルフ・ケンタウルス。
種族からして、違うのだから。
だから面白いのだ。
ユーフェミアからレイラへお茶が手渡される。
「茶葉が変わったわ」
レイラは、一口飲んで言った。以前ほど美味しくない。
「薬屋がいなくなって、一年近くになりますから」
ユーフェミアは答えた。
ロイメは日一日と変化していくのである。