64. パーティークラッシャー・二発目(メリアンの語る暁の狼の終焉)
「『暁の狼』が3人になった後、バーディーは攻撃面を強化しなくてはいけないと言い出したの」
メリアンが言う。
『暁の狼』が攻撃力に問題があるパーティーであることは、トビアスさんも言っていた。
「そのために、クロスボウ持ちを入れようと言うことになった」
『暁の狼』には、サットンと言う盾持ちがいて、バーディーも小型盾を扱える。
クロスボウ持ちを入れると、前衛が防御、後衛が攻撃担当になる。
パーティーとして、通常の編成になる。
「だけど、なかなか良いクロスボウ持ちと会えなかったの」
「クロスボウ持ちは、ベテランが多いのよ。そんな景気の悪そうなパーティーに入りたがる奴はなかなかいないでしょうね」
レイラさんが解説する。
「そして、ようやく、1人一緒に行っても良いって言う、クロスボウ持ちが現れたの。
とりあえず、お試しで、ダンジョン探索に一回行くって条件だった。
契約書とかも細かく交わした」
契約書か。前のクランは、その辺りをあまりサポートしてくれないんだよな。
「4人で、一層西のダンジョンに行って、ジャイアントスパイダーを何匹か倒し、魔石も出たんだけど……」
メリアンは一呼吸置いた。
「クロスボウ使いは、いざ分配になったら、魔石の売上は全部自分の物だって言うの。契約書にも書いてあるって」
「確認すると確かに書いてあったわ。魔物に止めを差した者が、魔石の所有者だって。
分かりにくくだけど」
そう言うと、メリアンはまたしくしく泣き出した。
「契約書の確認はメリアンがやらなきゃだめだろ。
なんで、バーディーとサットンに任せておいたんだよ」
僕はメリアンの涙を無視して、言う。
バーディーもサットンも読み書きはできた。
しかし、複雑な契約書は読めたかどうか怪しい。
きちんと書類を確認するのは、そう言う教育を受けた者の役目なのだ。
「だから、わたしは空気を読む性質なの!
バーディーがちゃんと読んでるって言ったんだもの。
もちろん後で後悔したけど。
バーディーが大丈夫だって言うのに、ちょっと確認させてとか言いにくいでしょ?」
まあ、バーディーはメリアンに良いところを見せたかったんだろう。
でもね……。
「そのクロスボウ使いは、常習犯でしょ。
かなり読みにくい書類だったはずよ」
レイラさんが言う。
「それで『暁の狼』は、お金がなくなってしまったの。
それでも、わたしはまだ少しあったんだけど、バーディーとサットンは、ほぼすっからかん。
そんな中、相談に乗ってくれたクランの人が、『鋼の仲間』って言う別のクランを紹介してくれて」
そこは知っている。
「『暁の狼』は、一時解散になったの。
バーディーはいつかまたパーティーを組もうって言ってたけど」
『暁の狼』の崩壊。
これが二個目なわけか。
僕は、メリアンから『暁の狼』の崩壊理由を聞けた。
ただ、今の気持ちを言うと、ざまぁと言うより「悔しい」だ。
どうしてここまで間抜けな結末になるんだ?
とは言え、メリアンによると、そのクロスボウ使いは、かなりたちの悪い男だったらしい。
バーディーとサットンがクランからいなくなった後、メリアンは何度も絡まれたそうだ。
結局、メリアンは軽い攻撃魔術をぶっぱなして、クランを出ることになった。
メリアンの話は、まだ続きがありそうだったが、レイラさんは、場所を変えようと言い出した。
確かに周りを見ると、『青き階段』の皆が、耳をダンボにして聞いている。
僕達は、レイラさんに夕食を奢ってもらうことになった。
奢りで美味しかったが、僕はなかなか食が進まない。
正直今日、メリアンから聞いた話は、かなりディープだった。
一方、ナガヤ三兄弟は、いつも通り健啖家だ。まあ、運動してたしね。
キンバリーも同様。
そして、メリアンは、割とガツガツ食べていた……。
話はここで、終わらない。
食事の後、僕とキンバリーはレイラさんに呼び出された。
「何の用ですか?レイラさん」
僕は聞いた。
「想像はついていると思うけど、メリアンのことよ」
レイラさんは答える。
「僕とメリアンは、今は関係ありませんよ」
「それなんだけど、メリアンは思ったより追い詰められてるみたいなのよ。
そろそろお金がないんですって」
「でもメリアンは、今日は『青き階段』の宿に泊まるって言ってましたよ」
青き階段の宿はちゃんとした宿だ。会員なら大幅割引があるが、会員外なら、ちゃんとした値段を取る。
「宿代はあたしが出したの」
レイラさんが言う。
『風読み』のクラン・マスターであるレイラさんは僕より金持ちだ。
だけど。
「すみません、僕が払います」
僕は慌てた。
無関係のレイラさんに頼るのは良くないだろう。
「いいわよ。あたしが払った方が面倒が起きない。
ともかくね、さっきメリアンと2人になった時、帰れる家があるなら帰れって言ったんだけど、絶対帰らないって言うのよ。
帰るぐらいなら、そこら辺で立ちんぼ始めた方がマシだって」
「いやいや、無理でしょ、メリアンじゃ」
正直、メリアンに、その……務まるとは思えない。
「務まるかどうかは、やって見ないとわからないけど」
レイラさんは、そう前置きしたうえで言う。
「攻撃魔術が使える女の子にそういう仕事をさせると、トラブルが多いわ」
「と、言うわけで!」
レイラさんは腕を組んだ。
「クリフ・カストナーに依頼を出します。
メリアンの行き先を探してくること。
『青き階段』の受付とクラン・マスターには、あたしから話を通しておくから。
経費はあたし持ち。成功報酬は2万ゴールドね」
えっー、レイラさん、それ、難易度高い上に報酬がショボイ、くそクエストじゃないですか!
「……レイラさんがやれば良いじゃないですか」
正直、やりたくない!
「あたしは、明日から、ソズンさんのトレーニングで忙しいの。
まあ、『風読み』のレイラの依頼であることは言ってもよし。情報収集が多少楽になるでしょ」
それは確かに。いや、でも。
「それから、キンバリー。
あなたには師匠として命じます。
この件についてクリフの助手をやりなさい。
良いスカウトは、ダンジョンの中だけでなく、街中も上手に歩くものよ」
「はい。レイラさん」
キンバリーは即答する。
キンバリー、今、何も考えずに返事しただろ!
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