54. もう遅い
「トロール族のニウゴにより、『紅蓮の冒険者』は壊滅。人質は無事解放、ニウゴ本人は死んだト。
そういうわけデスね?」
この発言は、冒険者ギルドの関係者で、エルフの女性魔術師セリアさんである。
灰金色の髪、青い瞳に白い肌、小柄で細身。尖った耳にスッキリした顔立ち。ロイメで見かける典型的なエルフ族だ。
年齢はエルフだし分からないけど、イリークさんより若い気がするんだよね。
僕は彼女にこれまでの経緯を、ネイサンさんと一緒に説明していた。
「トロール族の男を、ホイホイとロイメに入れるからこう言うことが起きるんだよ。
あいつら、本当に野蛮だから」
これを脇から言ったのは、スザナさん。
セリアさんと一緒に来た、トロール族の女戦士である……。
同族であるトロール族の男に含む所があるのだろうか?
褐色の肌に赤毛で、コジロウさんと同じくらい身長があり、体重も同じくらいありそうだ。体重は推測だけど。
トロール族の特徴である、目の上の隆起は目立たない。パッと見、とても大柄な人間の女性のようだ。
しかし、腕や脚の筋肉のつきかたはトロール族である。
20代前半に見えるが、トロール族の年齢は、これも正直分からない。
彼女達は冒険者ギルドの関係者として、ここまで同行してくれた。
しかし、エルフのセリアさんはきれいな筈の髪がボサボサだし、スザナさんも疲労の色が濃い。
チェイスさんに付いて来たここまでの道のりが、相当大変だったんだろう。
「『三槍の誓い』ナガヤ・コジロウの冒険者タグは、今言った事情により赤くなっています。
『紅蓮の冒険者』ベネットとアデルモ、2人の冒険者タグもです。
三者ともそれぞれ事情があり、寛容な判決をお願いします」
僕は言う。
「ナガヤ・コジロウは、正当な形式を踏んで決闘を申し込み、ニウゴはそれを受けた。立会人であるネイサン・タカムラが証言する。
決闘は冒険者の権利だ」
ネイサンさんも言った。
「後で良いでス。全てはゲートに戻ってからになりまス。詳細な証言と報告書を求められるでしょウ」
来たよ。報告書。来ると思ってたんだ。
「……あの、みんなの遺体はどうなるんでしょうか?」
オズオズと聞いて来たのはベネットだ。
「崖もあるし、ゲートまで遠いし、全部を持ってかえるのはアタシの力でも無理さね。首だけ持って帰る。残りはここに埋葬する」
スザナさんが言った。
冒険者の死体をダンジョンの中に放置すると、アンテッドになると言われている。正式に確認されたわけではないのだが。
そうならないために、首だけ持ち帰るか、火魔術師がいればダンジョン内で火葬する。
それも、無理なら死体の首を切断して、遺髪だけ持ち帰る。
第三層に限らず、ダンジョンから遺体を完全な形で持ち出すのは難しい。
「……はい……」
ベネットは小さな声で答えた。
僕達は、現場の後片付けをして、午後帰路につく。
崖登りがどれだけ大変だったか言いたくない。
なんとか、ほぼ自力で登ったぞ。ほぼ!
僕が登る間にキンバリーは二往復してたけどな!
崖の上には、冒険者ギルドが派遣したと思われる第二陣がいた。
赤いタグの冒険者の立てこもり事件は、ギルドにとってもそれなりに大事なのだろう。
考えて見れば、冒険者ギルドの権威に関わるものだ。
その一団の中に、所在なげにキョロキョロしながら佇んでいる中年男がいる。なんと言うか見るからにコミュ障っぽい。
「親父! なんで親父がここにいるんだよ!」
「お前が危ないって聞いたから……」
親父はボソボソと言う。
少しだけ昔話をする。
僕が10歳の時に、母さんが家を出て行った。仕事にしか興味がない夫に愛想をつかしたのである。
その頃の僕はまだ小さかった。母さんが帰って来ないのはなんとか理解したが、せめて親父には構って欲しかった。
しかし、親父はやっぱり仕事に夢中で僕は放って置かれた。
僕が言いたいのは、その時の愚痴じゃない。
しょせん僕の親父だ。
コミュ障で、そう言う男なのだ。
僕が言いたいのは、散々放って置いた癖に、何故今ダンジョンまで迎えに来たのかと言うことだ。
今さら、もう遅いんだよ!
ダンジョンの中まで、父親に迎えに来られた冒険者の気持ちは、同じ経験をしたものにしか分からない。
すなわち、ここに僕の気持ちを分かる人はいない……。
「なに、反抗期の十代みたいな顔してるのよ」
レイラさん!
レイラさんは、荷車の上に白金の髪をなびかせ、すっくと立っていた。
「一級魔術師で、土属性の上級攻撃魔術も使える。そんな人が協力をしたいと言ったら、連れて来るに決まってるでしょ」
そりゃそうだけどさ。
「レイラさん、付いて来ちゃダメっていったのに」
僕の隣でキンバリーが言った。キンバリーの頬はプンプンに膨らんでいる。
言い替えよう。僕の気持ちはキンバリーにしか分からない。
帰り道は、ロック鳥も出なかったし、特に問題は起きなかった。
僕と親父はろくに口を利いてないが、これは昔からである。
僕が反抗期なせいではない。
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