53. 世界は書類で回る、少なくとも文明世界では
「コジロウさん、決闘で殺されたらどうするつもりだったんですか?」
僕は聞いてみた。
「となりにコサブロウがおる。
その時は、兄の敵としてコサブロウが改めて決闘を申し込む予定であった」
いやそのね……。
「コサブロウも負けたら、コイチロウ兄者が、弟達の敵として、万難を廃して挑むであろう」
まだ、聞きたいことがある。
「僕に防御魔術を禁じることなかったのに。もうちょっと卑怯にうまくやろうとは思わなかったんですか?」
「ニウゴの攻撃には防御魔術は効かんぞ。
残りの2人はおおかた戦意を失っておった」
確かに、ニウゴの攻撃に防御魔術はあまり効かないだろう。防御魔術は物理攻撃には弱いのだ。
かつて、コジロウさんは、僕は防御魔術をあっさり破っている。
でもね。
「ニウゴ相手に決闘は危険ですよ。命を粗末にするのはどうかと思いますよ」
僕は言う。どうしても言いたかったことだ。
「そう言うな。クリフ殿。
ニウゴは体調が悪そうだった。天命もない。剣筋も荒い。言うほど強くはないぞ。
それに、我々はもともとロイメに運試しに来たのだ」
コジロウさんは言う。
「命を粗末にすると、ラブリュストルに嫌われる。レイラさんが言ってた」
キンバリーの発言である。
「レイラ殿か……」
コジロウさんは、情けなさそうな顔をした。武術大会でレイラさんに負けたことを思い出したのかもしれない。
「コジロウさんもとコサブロウさんも、『風読み』にロープの扱いを学びに来て、ついでにレイラさんに怒鳴られたら良いと思う」
キンバリーは言った。
僕達は、ベネットとアデルモの救出に成功した。
一方で、ニウゴは拘束できず死んでしまった。
アデルモはいろいろ言っているが、死んでしまったものは仕方ない。
ニウゴを絞首刑にしたいなら、自力で冒険者ギルドに通報しろとは言わないが、僕と一緒に逃げるぐらいのことはして欲しい。
お前が最後までニウゴの側にいたことで、ミッションの難易度がすごく上がったんだからな。
「彼は、ニウゴを縛り首にすると言う妄想を持つことで、生き延びていたのだ」
ネイサンさんは言っていた。
「だったら、もう少し僕達に協力して欲しいですね」
僕は言う。背中蹴られたし。
「ギリギリの状況で最良の判断をするのは、難しいよ」
……まあ、そうなんだろう。
正直、アデルモの望みを叶えるのは難しいと思う。
仮にニウゴをどうにか拘束できたとしても、暴れるトロール族をゲートまで連れて行くことがまた難しい。
冒険者ギルドの討伐隊が来たら、攻撃魔術で殺すか、簡易法廷を立てて、この場で処刑するかになりそうな気がするんだよね。
あの後、アデルモはしばらく唸っていた。
しかし、デイジーが彼の側に横たわると(なんだよこの巨大な犬は!)、大人しくなり、しばらくすると寝息が聞こえて来た。
デイジーはやっぱりかわいいと思う。
後の問題は、コジロウさんとベネット、おまけでアデルモの赤いタグである。
冒険者ギルドは、お役所である。役所と言うのは書類が好きだ。
別のお役所である魔術師クランにいた僕は知っている。
僕は手帳にこれまでの経緯をともかく詳しく書き込んで行く。
報告が正確であれば、ギルドの心証も良くなるだろう。
それが、コジロウさんとベネットと、おまけでアデルモのためになるはずだ。
『紅蓮の冒険者』の洞窟の中は、ベネットに案内してもらった。中には、食料やシートを含めいろいろな物資がある。
彼らはしばらくまえから、この洞窟を拠点にしていたそうだ。
そして、洞窟の一室に、『紅蓮の冒険者』の年長組3人が丁寧に埋葬してあった。
ベネットとアデルモ2人で埋葬したのだと言う。
ニウゴの遺体は、位置はそのままに、シートを被せ、周りに虫除けの魔法陣を描いておく。
『三槍の誓い』のメンバーとネイサンさんとベネットで、亡霊のダンジョンにも行った。
ベネットに確認してもらったが、死体はジンガルのもので間違いなかった。
ネイサンさんは、亡霊のダンジョンの入り口に、すごく興奮していた。
「第三層で、こんな仕掛けは聞いたことがないよ。
もちろん、入り口と出口を除いてだけど。
大発見だよ、クリフ君。冒険者ギルドから、報償金が出るかもしれない」
川には、本来、第四層の魔物である、大水蛇が突然現れるらしいし、ロック鳥も出現した。大峡谷のこの辺りは、なかなか興味深い場所なのかもしれない。
これは、魔術師クランに報告しておくか。
次の日、僕達が遅めの朝食を食べていると、コイチロウさんとチェイスさんを含む、冒険者ギルドの討伐隊がやって来た。
早っ!
「クリフ殿、無事であったか!」
「クリフの坊主、そう簡単にくたばる奴じゃないと思ってたぜ」
僕は、コイチロウさんとチェイスさんに再会した。
コイチロウさんは僕と似た所があるのかもしれない。
再会できて嬉しいのは伝わってくるが、ボディータッチとかはしてこない。
一方、チェイスさんは、やはりチェイスさんだった。背中をむっちゃ叩かれたよ……。
2人は昨日、ひたすら走ったそうだ。「付いて行くので精一杯だったぞ」とは、コイチロウさんの言葉である。
そうしたら偶然、『禿げ山の一党』の所に、冒険者ギルドの関係者が来ていた。
彼らに報告し、そのまま合同チームを組むことになったらしい。
そして、再び走り、崖を降り、目印を見て、ここまで来たのだ。
コイチロウさんは、往復チェイスさんのペースだ。冒険者ギルドの皆さんは片道だけどやはりチェイスさんのペース。お疲れ様です。
そして、ありがとう。
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