50. 作戦
「僕の意見として、打って出たいです」
僕は言った。
「トロール族のニウゴに捕らわれているベネットを助けたいんです。
まだニウゴは僕の治癒術で、体の調子が悪いはずです。しかし、冒険者ギルドが来るのを待っていたら、本調子になっているでしょう」
「若い奴が2人一緒にいるっていったな」
トムさんが言った。
「はい。僕達はもうおしまいなんだと言っていました」
僕は答える。
「おれェたちは、なにものダァー」
また、洞窟から罵声が聞こえてた。
「……分かった。打って出よう。
問題は、トロール族のニウゴをどうやって捕らえるかだ」
ネイサンさんは言った。
「ロープで縛りつける以外ないだろう」
トムさんが言う。
でも、ロープ引きちぎったりしそうなんだよな……。
「怪我をさせて、もう一度僕が治癒術をかけるのはどうでしょう?体調がさらに悪化するはずです」
僕は言う。
「あの上級治癒術だな。そりゃいい!治癒術かけてやるって期待させて、ぶぇっくしょんだ!」
コサブロウさんが言った。
「それは良い案だね。
次に洞窟に侵入するか、誘き出すかだが……」
ネイサンが続ける。
「誘き出せるなら、誘き出したい。洞窟の中は向こうに地の利があるし、こちらは飛び道具が強い。
問題はこちらの誘いに乗ってくれるかだ」
トムさんが言う。
「誘き出すのが目的なら、俺に策がある」
コジロウさんが言った。
「俺のやり方で出てこなかったら、侵入を考えれば良い」
僕達は円陣を作り、コジロウさんの策を聞くことになった。
陣形は洞窟の入口を前に、前衛中央がコジロウさん、左翼がコサブロウさん(奴は右利きだったよな?)、右翼がデイジー。
後衛は、デイジーの後ろにネイサンさん。コジロウさんの後ろに僕とキンバリー(クリフ・リーダーの護衛は任せてください!)。
そして、最後衛、離れた所にトムさん。これは、目立たない遠くからクロスボウで奇襲するためだ。
これを冒険者用語で狙撃手戦術と言う。
最後に、コジロウさんに言われた。
「そうだ、クリフ殿、あの上級治癒術だがな、必要だと思えば、いつでもかけてくれて構わんぞ。
万が一副作用で命を落とすとしたら、それも天命よ」
「俺も構わんぞ」
コサブロウさん。
「私もです」
キンバリー。
「僕とデイジーもかけてくれ。タイミングは、まあ、命の危険がある場合だね」
ネイサンさん。
「俺もネイサンと同じ条件で頼む」
トムさん。
「分かりました。かけます。でも、皆さんくれぐれも無理しないで下さい」
僕は言った。
上級治癒術を使えるパーティーはかえって死傷者が増えるとも言われている。冒険には慎重さが重要なのだ。
「トロールの戦士ニウゴよ、聞けー!!」
コジロウさんは、洞窟の前で声を張り上げた。コジロウさんの声は大峡谷にこだまする。
「強きものと戦うことこそ、トロール戦士の誉れなり!
しかし、お前はどうだ!
弱きものに力をふるい、それを強さと誇っている!
お前は弱虫で、腰抜けで、卑怯者だ!!」
「「「弱虫、腰抜け、卑怯者!!!」」」
僕達とデイジーはコジロウさんに続けて、洞窟の入口に向かって声を上げる。
こんなので、出てくるんだろうか?僕だったら卑怯者と罵られたくらいでは出てこない。
しかし、ネイサンさんをして「相手はトロール族だし、やってみる価値はあるかも」とのことだ。
とりあえず洞窟は静かなままである。
そして、こう言うことは、始めた以上、相手がとことんイライラするまで続けなければいけない。
僕達は洞窟の前で罵り続けた。
「ニウゴよ、お前の身内ジンガルの死体にかけて言う。お前は卑怯者だ!!
ニウゴよ、お前が今のままでは、ジンガルの魂は山に戻れぬ。
卑怯者のニウゴ、弱虫の身内を持ったジンガルよ、哀れなり!!」
「俺と我が兄を侮辱するものは誰だぁー!!」
洞窟の中から声が聞こえた。
僕達はここぞとばかりに声を張上げる。
「弱虫ニウゴ、洞窟の中でしか戦えぬ!
腰抜けニウゴ、ゴキブリ退治が精一杯!
卑怯者ニウゴ、洞窟の中で震えてろ!」
しばらくして、
ニウゴは、洞窟の入口近くまで現れた。
まあ、言ってみるものだね。
ニウゴは現れたが、その姿は半ば洞窟の陰の中だ。その後ろには、ベネットとアデルモの姿も見える。
「ニウゴよ、そして『紅蓮の冒険者』よ」
コジロウさんは、朗々と声を張上げて言った。
「俺はジンガルの終焉について語りに来た」
「ジンガルの兄貴の死体は見つからなかった!!誰かが隠したせいでな!!」
ニウゴは答える。コジロウさんに負けず劣らず大声だ。
「しかし、俺達は知っている。見ろ!これを」
コジロウさんは、一房の髪を掲げた。
トロール族に良く見られる白金の髪である。ジンガルの死体から僕が切り取ったものだ。
「我々はジンガルに導かれ、その亡骸を見つけ、彼の魂の欠片を預かった」
「嘘をいうな!!兄貴がお前らに魂を預けるはずがないではないか!!」
「お前達が見つけられなかった死体を我々が見つけたことこそが、我々がジンガルに導かれた証よ」
コジロウさんはノリノリである。
良くもまあ、ペラペラとセリフが出てくるものだ。
「この髪が本物かどうかは、お前自身が確認するがいい」
コジロウさんは、ジンガルの髪の毛を地面に置く。
しばらくして、アデルモが洞窟から出てきた。そして、ジンガルの髪の毛を拾い、ニウゴの所へ持っていく。
僕はアデルモの顔に、殴られてついたのであろう、痣があることに気がついた。
「これは……、紛れもなく我が兄ジンガルのものっ。貴様らどこで見つけた!?」
ニウゴの声には動揺がある。
「それは…、」
「僕が見つけました」
僕は声を張上げた。こうなったらやるしかない。
「大峡谷のとある洞窟に、おそらく第二層のダンジョンに繋がっている場所があります。
ジンガルは、そこから第二層へ1人紛れ込みました」
「嘘だ!ジンガルの兄貴は、第二層のアンテッドごときにそうそう後れを取りはしない!!」
「そのダンジョンは亡霊のダンジョンです。亡霊には物理攻撃は効きません。
繰り返し亡霊の攻撃を受けて、魔力を最後の一滴まで奪い取られたのだと思います。意識を失い、そのまま覚めぬ眠りについたのではないかと」
「おお、兄ィ、強い兄貴がそんな場所で倒れるとは……」
ニウゴの声に嗚咽が混じる。
その心をジンガル以外にも向けてくれたならと思う。
「ニウゴよ、『紅蓮の冒険者』はジンガルを殺してはいなかった。彼らの濡れ衣は晴れた。2人を解放しろ。そして、お前は投降しろ」
コジロウさんは、言った。
明日も投稿予定です。




