05. 攻撃役を探せ
「有能な攻撃役なんてのは、とっくに何処かのパーティーに所属しているものよ」
レイラさんが言った。
「予想はしてましたが、やはりそうですが」
これは、ユーフェミアさん。
「今、フリーなのは、ベテランとして既に名を挙げてBランク以上になっているか、引退間際か、性格に余程問題があるかのどれかよ」
性格に問題が有るのは困る。荒っぽい戦士は前のクランにもいたが、はっきり言って僕は彼らが苦手だった。冒険者のくせにと言われそうだが、サットンも僕と似たような感じだった。
その点、バーディーはそういう連中ともそこそこうまくやっていた。
だから、バーディーが『暁の狼』のリーダーだったんだけど。
「トビアスと組ませれば良いじゃない。あの何でもこなす男」
僕を置き去りに、レイラさんとユーフェミアさんの話は続いている。
「トビアスさんによると、『俺が組んでもいいが、パーティーとして成功するためには強い攻撃役はどうしても必要』と言うことだそうです」
「Cランク以下の前衛攻撃役が欲しいなら、冒険者ギルドの前でしばらく張ってたら?1~2ヶ月も待っていればめぼしい新人の一人くらい来るんじゃない?トロール族の傭兵とか」
「大した収穫はなかったですね」
『風読み』を出た後、僕はユーフェミアさんに話しかけた。
「そうでもないですよ。とりあえず条件に当てはまる冒険者がいないことがわかりました」
「Bランク以上の冒険者は駄目なんですか?」
「クランとしては、引き抜きが大変なので避けたい所です。契約でも足元を見て来ますし」
それにしても、僕がこれから立ち上げるパーティーなのにユーフェミアさんの方が余程良く理解している。
僕がその事を愚痴ると、
「そうでなければ、高い料金は取れません」
と笑顔で答えてくれた。
「こうなったら冒険者ギルドへ行くか」
僕は言った。良い攻撃役が見つかるまで長丁場になるかもしれないが、このまま冒険者生活を終える気にはなれない。
「ええ。トロール族、いると良いですね」
「トロール族か……」
トロール族は、大陸の屋根とも言われる山岳地帯に住む狩猟生活を営む大柄な種族だ。いわゆる脳筋な戦闘種族である。ロイメの冒険者には彼らもいる。いささか粗暴だとは言われているが、強いことは間違いない。
「トロールはちょっと怖いかな」
僕はユーフェミアさんに言う。
「偏見ですか」
「いやその、以前いたクランにもいたんだけど、喧嘩っぱやくて良く周りと揉めてたんだよ」
「トロール族と言ってもいろいろですよ。とはいえ、うちのクランに今トロール族はいないんですが」
「そうなんだ」
「何人かお誘いしたんですが、どうもうちのクランの料金形態がトロール族の趣味に合わないらしいんです。トロールの傭兵の望みは、大物を狩って、金を手に故郷に帰ることですから」
確かに、大物を狩った時に、クランにガッツリ取られる『青き階段』の料金形態とトロール族の考えは相性が悪そうだ。
さて、冒険者ギルドである。城壁の入り口の側にある大きな建物だ。
このダンジョン都市ロイメでは冒険者ギルドは巨大な権力を持っている。大き過ぎるギルドの権力に対抗するために冒険者クランができたくらいなのだ。
僕も首から下げている冒険者タグだが、これがないと冒険者ギルドが管理するダンジョンに入れない。
そして、ロイメのダンジョンは全て冒険者ギルドの管理下にある。つまり、これがないとダンジョンに入れない。
タグはおそらく鉄だと思われる魔力付与された金属でできている。僕にもタグの術式はわからない。このタグは、ダンジョン内で殺人を行うと赤く染まる。ダンジョン内で外すと黄色く染まる。
このタグのせいでダンジョン内部の治安はかろうじて保たれている。
良いことばかりでもない。冒険者ギルドは冒険者に対して強い警察権限を持つ。ロイメの中なら、どの冒険者が何処にいるかギルドは分かるらしい。
監視されるのは、自由民としては納得がいかないが。
僕はロイメの生まれで正式な市民権を持っている。しかし都市外の出身で、ギルドタグのみで入城を許された冒険者にとっては、ギルドタグは生命線であり、同時に首輪のような存在でもある。
冒険者ギルドの前には、今日も長い行列ができていた。
ほとんどが都市外から、冒険者になるためにやって来た連中だ。
身なりは様々だ。他の都市で既に冒険者として活動していたのか装備を着込んだ数人グループもいる。
しかし、多いのはろくな荷物も持たない農民出身と思われる男達だ。
「今の季節は薬草もないのにどうするんだろう?」
僕は呟いた。
「今なら、人足仕事ですね。冒険者と言う名目の出稼ぎ要員です」
ユーフェミアさんが答えた。
「めぼしい人を探していきますよ。強い攻撃役はパワーが必要です。人間なら体格の大きい人、後はトロール族。そして、ドワーフ族。ドワーフ族は鍛冶の名人ですが、パワーもありますからね」




