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48. 閑話 崖の下

(トロール族の仕業と単純に決めつけることはなかろうに)

コジロウは思う。

(とは言え、クリフ殿の救出は急務。敵は己の眼で見ればよいのだ)



「悪意のある冒険者がいる可能性が高い以上、冒険者ギルドに報告しなければならないな」

デイジーの飼い主である、ネイサンが言い出した。

表情からは、いつもの穏やかな雰囲気が消えている。

「獲物の取り合いをする程度なら無視しても良いけど、本人の意図を無視して連れ去るとなれば話は別だよ」


「承知した。お主らはお主らで行動してくれ。我々はクリフ殿を探す」

コイチロウが言う。


「それなんだけど、君達3人から1名出して欲しいんだよ」

ネイサンが言う。


「申し訳ないが、我々は皆でクリフ殿を探すつもりだ」

「じゃあ、君達はクリフ君をどうやって探すつもりだい?」


「二手に別れて探せばなんとかなるだろう」

コイチロウは答えた。だからこそ人数は必要なのだ。


「相手はトロール族だそ。味方を減らすのは危険だ。お前達は暴れるトロール族を見たことがあるのか?」

座っているトムが言う。


「お前らは本当に危険だ、しか言わぬな」

コサブロウが言った。



「デイジーなら、鼻である程度方向が分かる。僕はデイジーと一緒に大峡谷に下りるつもりだ。

冒険者ギルドへの報告はチェイスに行ってもらう。

しかし、心配なのは、その悪意ある冒険者がどの程度、悪どく稼いでいるかだ。

最悪『禿山の一党』の一部と繋がっている可能性もある」


「過去そう言うことがあったのか?」


「ああ。

だから、チェイスには、腕が立って、簡単には口封じできない人に同行してもらいたい。

要は、君達兄弟から1人だ」



コイチロウは考える。

「俺は行かぬぞ、兄者」

コジロウが言った。コイチロウが何か言う前である。

「コサブロウに任せるわけにはいかぬ。お前が適任だ」

チェイスと言う禿げ親父と、コサブロウの組み合わせは、なんと言うか、危うい感じがする。


「俺は大峡谷を下りる。そして、敵の姿を自分の目で見る。必ずだ」


こうなったコジロウはそう簡単には動かない。その事は誰よりコイチロウが知っている。


「冒険者ギルドへの報告はトム殿ではいかぬのか?」

トムとコサブロウなら、悪くない組み合わせな気がする。


「トロール狩りには、弓より俺のクロスボウが役に立つ」

トムは先程から座っている。そして、クロスボウの矢の手入れをしている。


『トロール狩り』か。

トロール族はヒト族(ヒューマノイド)である。

ヒト族(ヒューマノイド)を「狩る」。

そこには、特別な意味と覚悟がある。


「分かった。俺が冒険者ギルドへ行こう」

コイチロウは言った。

「頼むぞ、兄者」

コジロウは答える。

「ただし、お前がネイサン殿の指揮下に入ることが条件だ。それが嫌なら、兄として、お前に命じねばならぬ」


「まあ、良かろう。ネイサン殿とデイジーならな」

コジロウは、コイチロウが予想したよりあっさり納得した。



コイチロウとチェイスは冒険者ギルドへ向かった。残りのメンバーは崖を下りる。


崖下りは大変だった。荷物は一部崖の上に残したが、槍は持って下りなければならない。また、コジロウもコサブロウも『風読み』で訓練は受けていない。


一番大変なのは、デイジーだった。デイジーは賢く辛抱強いが、体がロープで崖を下りる様にはできていない。


足場の多い斜面を探し、ロープを短く取って、少しずつ下りて行く。

デイジーは、ロープで縛り、皆で協力して、半ば荷物のように下ろした。


「良く頑張ったね、デイジー」

ネイサンは崖から下りたデイジーを抱き締めた。デイジーも銀色の尻尾を振って嬉しそうにネイサンの顔を嘗めている。

「いい子いい子いい子」


「それで、クリフ殿の足跡があったのは何処だ?」

コジロウは、空気を読まない発言を、した。



「こっちです」

足跡があった場所へ、キンバリーが案内する。


「この大きさの足跡はトロール族だろうな」

トムは言う。

「こっちは、クリフ・リーダー。あと1人か2人いて、多分人間」


「良くクリフ殿だと分かったな」

コジロウは言う。


「『三槍の誓い』のメンバーかどうかは分かります。でも、あなた達3人の区別はつかない」


「まあ、我々は三つ子だからな」

コサブロウが言う。


足跡の匂いを嗅いでいたデイジーが、ワンと吠える。


「こっちだそうだ」

ネイサンが言った。



デイジーの案内で、一行は歩き出す。大峡谷の下は、大きな岩がごろごろ落ちているが、比較的歩き安いルートだ。

「連中はここに慣れているのだろう」

ネイサンが言う。


「トロール族が問題を起こす事は以前もあったのか?」

コジロウは聞いてみた。


「まあな」

トムが振り返らずに答える。


「人間も、他の種族も、問題を起こす連中はたくさんいるよ。ただ、トロール族が暴れ出すと大騒ぎになる」

ネイサンが言う。


「それはトロール族が大きくて、強いせいか?」


「第一にはそれだけど……、トロール族は一般的に交渉事が下手だね。結果、殺す殺されるに繋がりやすい」


「トロール族は強さを評価する。そして、弱い者に優しくない。俺はトロール族は好かん」

トムが言う。


「トロール族、トロール族と言うがな。トロール族全てが同じではなかろう。

だいたいエルフ族やドワーフ族はどうなのだ!」

コサブロウが言う。


「エルフも交渉事は下手だよ。怒ると攻撃魔術をちらつかせる。でも、彼らは基本的に平和主義者で無茶な要求はしてこない。


ドワーフはタフな交渉屋ネゴシエイターだね。

まあ、だいたいドワーフとは取引で解決するけど。

お互い譲れないと、本当にヤバいことになるね」


そこまで話して、ネイサンは赤面した。

「すまない。今はクリフ君だ」



「トロール族の知り合いがいるのかい?」

少し歩いた後、ネイサンが聞いてきた。

「まあ、そうだ」

コジロウは答える。


「アキツシマのトロールは大陸のトロールとは少し違うのかもしれないね」

ネイサンは言う。

「アキツシマのトロールはどんな連中なんだい?」


「大陸のトロールほど大柄な者は少ないな。後、アキツシマのトロールは漁で身を立てている」

「大陸のトロールは山岳の狩猟民だね。あと、山を出て傭兵や冒険者になる者もいる」


「それは、……」


ワン。デイジーが吠える。


「あの洞窟だと思います」

キンバリーが指差す。

大峡谷の壁に空いた大きな洞窟だ。

入り口付近には、人が出入りしたとおぼしき跡があった。



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