39. 共同戦線
次の日の朝、僕らの洞穴に、昨日ボロボロだったパーティーリーダーと、禿山の一党のお頭がお礼を言いに来た。
「ありがとう。あいつは特級エリクサーじゃ多分助からなかった。それでだが……」
「副作用ですよね。
頭痛発熱めまい、いろいろ出るかもしれません。
今まで治癒術をつかった場合は、最長4日ぐらいで治まりました。
ただ、彼は瀕死だったのでもう少し長引くかもしれません。
あと、……僕がもう一度治癒術をかけると悪化します」
自分自身で治癒術をかけて実験したので知っている。
「奴はお前のおかげで命拾いした。何事も命あっての物種だ」
『禿山の一党』のお頭が言った。
「そうだな。それで、治癒術の代価についてなんだが……」
ボロボロパーティーのリーダーはボソボソと切り出した。
「実は、僕のポンコツ治癒術は魔術師クランの管理下にあるんです。
治癒術の代価の請求は魔術師クランから来ます」
ボロボロパーティーのリーダーはちょっと切なそうな表情になった。
多分、副作用を理由に値切る気だったんだろう。
魔術師クランじゃ値切りにくいからね。
「僕の上級治癒術の副作用は、魔術師クランも把握してます。たいして高くないはずですよ。
後、症状の報告とかも渡せば、さらに安くなるんじゃないかな?
魔術師クランはそういうのが好きだから」
ボロボロパーティーのリーダーはもう一度頭を下げつつ、ため息をつきつつ、去って行った。
「仲間が命拾いしたと言うのシケた面だのう。
そう言えば、さっき外に行ったら、やばい治癒術師がいる、とか文句を言っておる奴もおったぞ。
命の助けたのに何を言うか!と怒鳴っておいたが」
コサブロウさんが言った。
「まあ、しょうがないさ」
僕の治癒術には魔術師クランに半ば管理されている。そして、このルールを作ったのは僕の親父である。
……親父は上級治癒術使えないくせに。
まあ、これについては、親父が正しいんだろう。
僕ほどポンコツではないにしても、治癒術の失敗はたまにある。
だから治癒術師達は、神殿や錬金術師ギルドに所属して、組織に守ってもらうのだ。
「昨日の治癒術、すごかったじゃないか!」
昨日と同じくチェイスさんが突然やって来た。
今日はその後から、トムさんと、ネイサンさんと、デイジーも!
「下でグダグダ言ってる奴は放っておけ。クリフ・カストナーだっけ?
ユーフェミアさんが推薦するだけのことはあるぞ」
禿げのチェイスさんはいつもの調子だった。
そして、ズカズカと洞穴に入り勝手に座る。
デイジーは尻尾を振りながら僕に挨拶してきた。デイジーはかわいい。よしよし。
「お邪魔するよ。実は、ここに来たのは、青銅怪鳥の討伐について相談があるからなんだ」
『デイジーちゃんと仲間達』リーダーのネイサンさんは、いつも通りソフトに切り出した。
青銅怪鳥は、ボロボロパーティーをボロボロにしたモンスターだ。
嘴と爪が青銅でできた鳥だと言われている。
現実にはそんなことはない。
トムさん曰く「嘴も爪ただ恐ろしく固く鋭いだけ」とのことだ。
まあ、青銅製だろうとなかろうと、嘴と爪がやばいことには変わりない。
「1羽1羽はそこまで強くないが、集団で襲って来る厄介な魔物だ」
ネイサンさんは言う。
「冒険者クランから討伐依頼が出ることは間違いない。
そこで、君達『三槍の誓い』と共同戦線を張りたいんだ」
「お主らは随分ベテランのようだが、それでも厳しいのか?」
コジロウさんが聞いた。
「やばい奴からは逃げる、これが俺達のやり方だからな。
空から来る青銅怪鳥からは、俺の足でも逃げ切れん」
チェイスさんが言う。
「冒険者ギルドの討伐隊を待っても良いが、時間がもったいない」
トムさんがボソリと続ける。
ネイサンさんはさらに言う。
「冒険者ギルドは、青銅怪鳥討伐のために、魔術師を連れて来るだろうね。
しかし、攻撃魔術を使われると、視界が塞がるし、気流も乱れる。俺達弓使いにとってはやりにくい。
何より人数が多い分、分け前が減る。
クリフ君の防御魔術でガードしてもらった上で、一羽一羽射殺すのが一番確実だよ。
さらに、青銅怪鳥は地上に落ちても攻撃してくるが、それは君達3人の槍に任せられる」
良い話に思える。しかし。
「出た魔石と討伐報酬はどう分けますか?」
「全部まとめてから、人数で等分して山分けかな?ただし、こちらはデイジー込みで4人。君らは5人。9等分だね。
ユーフェミアさんに敬意を払って契約書も交わしておこうか」
ネイサンさんが珍しくニカッと笑いながら言った。