29. 暁の狼の末路
僕とロランドは、手近な飯屋に入った。
おごるつもりで、目に付いた肉料理を注文する。冒険者にとって、いつだって肉は正義だ。
そして、儲けた時は周りにおごるのが冒険者社会のルールだ。
「こんなに注文して良いのかい?」
「いいよ。しばらく前に一層の北で、ラブリュストルの幸運に巡りあったんだ」
ラブリュストルの幸運、それは魔石を当てたと言うことだ。
「それはスゴい。じゃ、遠慮なく食べまくってやる」
ロランドは、ガツガツ食べ出した。食える時に食うのも冒険者社会のルールだ。
「クリフ、お前なんか凄そうな人達と一緒にいたなあ」
軽くアルコールが入ったせいか、ロランドはしゃべり出す。
「特に隣にいたエルフの人、キラキラしてたぜ」
イリークさんか。見かけがキラキラなのは認める。『青き階段』のメンバーも最初はイリークさんの見かけに騙された。
「他にもセクシーな女冒険者とか、アキツシマ人とか・・・。なあ、あの人達やっぱり強いんだよな。どうやってパーティーに入れて貰えたんだ?」
この時僕は気がついた。ロランドは、イリークさんとホリーさんが僕と同じパーティーだと勘違いしているのだ。
「イリークさんとホリーさんは別のパーティーだよ。同じクランだから一緒にいたけど。僕と同じパーティーなのは、アキツシマ人のコイチロウさんだけだよ」
「そうか。そう上手くいかないよな」
ロランドはちょっとホッとしたような顔をした。
「まあでも、ラブリュストルの幸運を当てたってことは、新しいパーティーで上手くやっているってことだよな。いいなあ。俺も移籍したいよ」
僕はびっくりした。ロランドのパーティーは仲が良かったし、少なくも『暁の狼』よりはうまくやっているように見えた。
「ロランドのパーティーは仲良くやってたじゃないか」
「見かけはな。リーダーは面白い人だし、今でも仲は悪くないよ。でも、うちのリーダーは上に行く気がない。それに、平のメンバーは分け前も少ないし」
「もっと上に行きたいって話を皆にしてみたらどうかな?」
「もうやった。魔術師をパーティーに入れてみたらどうだって」
「で、どうだった?」
「魔術師に報酬を払う余裕なんてないってさ」
魔術師を雇うには、魔術師クランが定めた最低賃金を払わなければならない。
一応、これには、例外があり、魔術師がパーティーリーダーの場合は、自由に決めて良いことになっている。
『三槍の誓い』はこのパターンだ。
「あとさ、エリクサーが自分持ちなんだよ。最初に1本くれたけど次から自分で買わなきゃいけない。これが結構馬鹿にならない出費なんだ」
エリクサーの代金、これもパーティーが揉める原因になる。
例えば、『三槍の誓い』は、すべて経費持ちだ。なぜこうなったかと言うと、ユーフェミアさんに勧められたからである。
ロランドのパーティーのようなやり方だと、エリクサーを惜しんで怪我を悪化させることがある。
もう一つ、パーティーのための怪我なら経費、個人的な怪我なら個人負担と言うやり方もある。これは経費か個人負担かで揉めて、しばしばパーティー解散の原因になる。
「うちのパーティーメンバーの1人が最近抜けたんだ。冒険者より、人足仕事をした方が確実に稼げるってさ」
「パーティーのみんなは何て?」
「奴は冒険者に向いてなかった。それが分かったんだろうって。
リーダーとサブリーダーは新しいメンバーを探してる。それを見て思ったんだ。こんな風にパーティーを辞める奴は初めてじゃないんだって」
僕はパーティーを追放された。追放されるのと、自分で辞めるのとどちらがマシなんだろう。
「言っておくけど、うちのリーダーは盾士で戦闘では一番前に出る。ちゃんとリーダーの仕事はしてる。でも、やっぱりこのままじゃダメなんだ」
ロランドはそう言うと、麦酒をあおった。
「俺さ、目は良いんだけど、力が足りないんだよね。ウサギや鳥を射るには十分だけど、モンスターと戦うには、ダメージ不足なんだ」
ロランドの体格は僕とどっこいだ。ナガヤ三兄弟や、ダグのように一撃大ダメージとはいかないだろう。
「だからスカウトになろうと思ったんだ。で、クランの人に聞いたら、ここで勉強したらどうだって言われてさ。冒険の合間にバイトして金を貯めたんだぜ。
技術を磨いたら、もうちょっと稼げるパーティーに移籍するのが今の目標さ」
じゃあ『三槍の誓い』に来いよ、とは言えない。
ロランドの役割はキンバリーとそのまま被る。そして、6人目は、できたら治癒術を使えるメンバーを入れたい。
ダンジョンには『ラブリュストルの定員』と言われるものがある。
ダンジョン深層の移動魔方陣等の定員が6人なのだ。
だから、パーティーは6人がとりあえずの定員となる。
もちろん6人を越えるパーティーもある。こういうパーティーは大型パーティーと呼ばれる。
一部が交代要員だったり、2グループに別れて探索したりするのだ。
今の僕に大型パーティーを率いる力はない。
「なあ、『暁の狼』の連中はどうしてる?」
僕は聞いた。僕にもアルコールが入ってようやく聞けた感じだ。
「えっ、知らなかったのか?あいつら解散して、もうクランにいないぜ」