28. 勉学のススメ
一月に10万ゴールド稼ぐのは、若い冒険者の憧れである。
僕達『三槍の誓い』は、初回探索で一人頭17万ゴールドを稼ぎ、あっさりその目標を達成してしまった。なお、『暁の狼』時代の僕は、一度も10万ゴールドを達成できていない。
まあ、本当に難しいのは、10万ゴールドを稼ぎ続けることなんだけど。
ともあれ、次の三層探索までは余裕を持って準備することができる。
この時間に僕達は、スキルアップを図ることになった。
僕はスカウト技術を学ぶことにした。ロープ渡りとかもうちょっと身軽にできる必要がある。
コイチロウさんは、キンバリーのスカウトの仕事を、もっと上手くサポートできるようにならなければならないと宣言した。コイチロウさんは上手くやっているとキンバリーは言ったが、この2人のコンビはまだまだ磨ける面があると思う。
コジロウさんとコサブロウさんは、モンスターの解体技術を学ぶ。三層には、良い素材が取れるモンスターもいるし、必要な技術だろう。
キンバリーは三層のフィールドダンジョンの訓練として、北の森でレンジャー技術の訓練を受けている。
そんな訳で、僕とコイチロウさんは『風読み』にスカウト技術の講習を受けに来たのだ。
今日は、初日で座学だ。スカウト技術を学ぶメリット、ダンジョンではぐれて迷子になった時どうするか?ダンジョン内での空気の流れる方向の読み方等々。
そして、なぜか『雷の尾』のイリークさんが一緒に勉強すると言い出し、ホリーさんが(多分)保護者として付いてきた。
金髪美形エルフのイリークさんの評価は、ゴドフリー説得成功によって上がりまくったが、あっという間に暴落した。
トビアスさんを、そこの禿、と呼び、ユーフェミアさんの歳を聞き(笑顔でごまかされた)、キャシーさんにダイエットの必要性を説き。まあ他にもいろいろと傍若無人ぶりを発揮した。その度に『雷の尾』のメンバーが本人を回収して回った。
さて、僕は今、イリークさんと隣同士で授業を聞いている。
僕の真後ろには、コイチロウさん、イリークさんの真後ろにはホリーさんがいる。
しかし、なぜイリークさんが僕の隣なんだろう?同じパーティーのコイチロウさんが隣が普通だろうし、ホリーさんならちょっとだけ嬉しいような気もするんだが。
「イリークは、なんかクリフさんをライバル視してるみたいでね。あなた達が勉強すると聞いたら、自分も行くって言い出したの」
ホリーさんが言う。
「普段のイリークだったら、冒険の合間とか、1日中ボッーと空を見てたりするのよ」
長命種のメンタルと言うのはそんな感じなのか。
スカウト初級講座は人気のあるクラスらしい。他のクランからと思われる冒険者も含めて、12~3人ばかり教室にいる。僕達はその中の4人組として、『風読み』の座学教室で勉強した。
お昼休みは教室でテイクアウトの弁当を買って食べた。コイチロウさんは2人前を黙々と食べている。
「全属性使えるってのは本当?」
お弁当を食べながら、ホリーさんが感じの良い笑顔を浮かべながら聞いてきた。今日の彼女は暗い金髪の髪を後ろで三つ編みにしている。
「使えますけど、ほぼ防御魔術しかできません」
「防御魔術しかって言うけどスゴいよ。全属性でしょ。私は治癒魔術しか使えないし」
「治癒と攻撃を両方こなすのもすごいと思いますよ」
ホリーさんは、弓士だ。治癒術と攻撃をこなす冒険者は、どこのパーティーでも引く手あまたである。
「イリークの治癒術に比べればたいしたことないのよ」
「確かにホリーの治癒術ではたいした怪我は治せないな」
ピシッ。
ホリーさん巾着から小さなハリセンを取り出し、イリークさんを叩いた。
「これ、便利だよね。レイラさんに作り方を教えてもらったんだ。もっと早く知ってれば良かった」
僕は見なかったことにする。
「適性を調べれば、もう少し使える属性もあるかもしれないですよ」
魔術属性が単独で発現することは、めったにない。たいてい2~3属性は使えるものだ。
「まあね、イリークに風の匂いがするって言われたことはあるんだよね。兄さんも風魔術が使えるし、ちょっといけるかな?」
ホリーさんがリーダー・ハロルドさんの妹であることは、さっき教えてもらったところだ。そして、ハロルドさんは風魔術も使える、と。イケメン恐るべし。
「魔術師クランで適性は調べられますよ。ちょっとお金を取られますけど」
「そうなんだ。
ロイメに来て驚いたんだけど、ロイメはエリクサーが安いんだよね。
今までは、いざと言う時に魔力切れで治癒術を使えないなんてことがないように、魔力温存のためにって、攻撃魔術を使おうとも学ぼうとも思っていなかったんだ。
でも、ロイメで、私が治癒術を温存する必要はないのかもしれない」
ホリーさんはちょっと寂しそうに言った。まあ、初級の治癒術は、エリクサーで代用できる面はある。
一方、イリークさんは、ボッーと窓の外を眺めていた。とことんマイペースな人だ。
そうだ!
「ええと、僕は自分の役割に悩んでいた時に、トビアスさんとユーフェミアさんに相談に乗ってもらったんです。ホリーさんも迷っているなら、相談に乗ってもらったらどうでしょう?」
現実はパーティーから追放された所で、悩んでいたどころじゃなかったし、世話になりっぱなしだった。
「ふうん、私も相談に乗って貰いたいな。誰に相談に乗ってもらったんだっけ?もう一度名前を教えて?」
「受付のユーフェミアさんと、それからトビアスさんです」
僕はユーフェミアさんを強調した。これでハロルドさんから文句を言われることはないと思う。
1日の講義が終わり、帰る支度をしていた時だ。
「なあお前、クリフじゃないか?」
いきなり声をかけられた。
『暁の狼』時代に所属していたクランで何度か話をしたことがある男だ。
確か名はロランドだったはずだ。
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