26. パーティー談義【秘密メモ 羽根の王冠】
「『青き階段』には、新しいパーティーが育ちつつあるようだな」
ソズンさんは話題を変えた。
「まあな」
ホルヘ副クランマスターは答える。
「後ろの魔術師の坊主は防御魔術師で、アキツシマの槍使い三人組と同じパーティーだとか」
「『三槍の誓い』です。ちなみに僕の名前は、クリフ、隣のキンバリーも同じくメンバーです」
「分かった。『三槍の誓い』のクリフだな」
ソズンさんは振り向いて言った。
「しかし、クリフ、君ら『三槍の誓い』は、とても興味深いパーティーだ」
ソズンさんは言う。
まあ、新しいパーティーとしてはまぁまぁだと思うけどね!
「今ロイメの冒険者パーティーで流行りの戦闘スタイルを考えて思い出して欲しい」
ソズンさんの声は、深い。
「いいか、普通のパーティーは、
前衛は、主に敵の攻撃を受け止め「防御」を行う。
中衛や後衛の魔術師や弓士は「攻撃」を行う。
俺たち『羽の王冠』もそうだった。俺は前衛だったが、斧以上に盾の扱いが重要だった」
僕は考える。
『暁の狼』ではサットンが盾、バーディーが剣だった。盾の脇から剣で攻撃するスタイルだ。
戦闘終盤になると、レイバンも短剣で戦闘に加わり、怪我人が出ないのがほぼ確定した時点で、メリアンの攻撃魔術も飛んだ。
思えば、バーディーはパーティーを流行の形にしたかったのだ。
そう考えると、僕の代わりに、攻撃魔術を使える魔術師か、弓士を入れようと言う事になる。
だから僕は追放されたのだ。
ソズンさんはさらに言う。
「しかし、君ら『三槍の誓い』は違う。
後衛の防御魔術師が、「防御」を担当する。
前衛は、リーチの長さを利用して盾無しで「攻撃」する。
分かるか?前衛・後衛の役割が逆なんだ」
これは、誉められているんだろうか?しかし、僕は誉められる事に関しては割と懐疑論者なのだ。一度はパーティーを追放されているし。
「ソズンさん、、流行るのは理由があって流行っていると思います。逆であるメリットって何ですか?」
僕は聞いてみた。そもそも、『三槍の誓い』の戦闘スタイルは、特別な論理から生まれた訳ではない。単に僕が攻撃魔術が苦手と言うことから生まれたのだ。
「うむ。流行るには流行る理由がある。有効だから流行るのだ。
しかし、魔物は学習する。
さらに、これは俺の個人的な意見だが、ダンジョンもまた学習する「存在」と思っている。
魔物やダンジョンは、学習しながら、冒険者の戦闘スタイルに徐々に適応するだろう。
その時、突然、新しい戦闘スタイルのパーティーが現れたらどうなるだろう?」
「魔物はすぐには適応できないと言うことですか?」
「その通りだ。『三槍の誓い』は、魔物に対して優位に立てる可能性がある。
自分たちの戦闘スタイルを大切にしろ」
これは、本気で期待されていると見て良いのかもしれない。
「ご教示ありがとうございます」
僕は先輩さんに答えた。
「ドワーフ殿、いやソズン殿、大変興味深い話を聞かせてもらった。『青き階段』に来たのは正解だったようだ。
そして、『三槍の誓い』のクリフ、その名覚えたぞ」
エルフの魔術師イリークさんが言った。
もしかして、ライバル認定されてたりする!?
「賭けをそろそろ締め切るぞ!」
会場で、トビアスさんが声を張り上げている。
「トビアス任せで、問題なさそうだな」
ホルヘさんが言った。
「トビアスはな、昔あいつのノートを見たことがあるんだよ。言っておくが覗いた訳じゃない。俺は背が低いから、テーブルの上が良く見えるんだ」
「それで誰の悪口が書いてあったんだ?」
ホルヘ副ギルドマスターと元『青き階段』のAランク冒険者のソズンさん、二人の声はだいぶ軽くなってきている。
「『羽根の王冠』、攻撃A、防御B+、情報B+、回復A、輸送B+、だとさ」
「割と当たってるな。ジョフは攻撃魔術が大好きだったし、サミュエルは回復役としては、最高レベルだ」
「お前の言う通り当たってる面もある。だからこそ腹が立ってな、俺はこの内容をジョフにチクってやったんだ」
「それで?」
「ジョフはしばらく難しい顔をして考え込んでいたよ。その後だ。『羽根の王冠』が資金を集めて、たくさんポーターを雇い始めたのは」
つまり、ジョフさんは金の力で、パーティーのレベルアップを図ったのだ。
Aランクパーティーになるだけのことはある。
「しばらくして、『羽根の王冠』の皆でトビアスを取り囲んで、ノートを見せろって言ってやったんだ。
『羽根の王冠』攻撃A、防御B+、情報B+、回復A、輸送A、
そして、資金Aと書いてあった」
ソズンさんはニヤニヤ笑いながら言う。
「トビアスは、その時、パーティーの評価に『資金』の項目を加えたわけか」
ホルヘさんが答える。
トビアスさんのパーティー評価・資金の項目は、『羽根の王冠』によって生まれたのだ。
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