25. Aランクパーティーの末路
決勝のカードは、ナガヤ・コイチロウvsダグ・アドコックと言う形になった。
双方ともにオッズ下位からの勝ち上がりである。
締め切っていた賭けも再開され、会場は騒然としている。
勝ち負け以外にも、短期戦、長期戦、引き分けなども予想させて、さらにテラ銭を巻き上げようと言う運営側の腹である。
流石ユーフェミアさんだ。
「問題は起きてないか?」
大きな声と供に再び現れたのは副クラン・マスターのホルヘさん。
「あの害虫は?」
「とりあえず、椅子に縛り付けておいた。レイラさんの試合も終わったし、ここに現れることはないさ」
冒険者通信のゴドフリーさんは害虫で通じてしまうのか。ちょっと切ない。
「どうしてここに?」
「ここが一番会場が見渡せる。審判はトビアスに任せて大丈夫そうだ」
ホルヘさんは、会場を見渡しながら言った。
見物客・『青き階段』のメンバー、共に興奮しているようではあるが、喧嘩などの騒ぎは今の所起きてなさそうだ。
「久しぶりだな、ホルヘ」
突然、VIP席のドワーフさんがホルヘさんに声をかけた。
「・・・ソズン?どうしてここに、いや今日は一般解放だが」
「面白そうな試合が見られると言う噂だったし、来させて貰ったよ。・・・まあ、座れ」
そう言うと、ドワーフのソズンさんは、自分の隣の空いた座席を指差した。
ドワーフさんの隣の席は、ずっと空いたままだった。おかしいなとは思っていたのだ。
「誰も来ないさ。俺が二席買ったんだ」
「・・・わかった。座らせてもらう」
ホルヘさんは、座席につく。二人は知り合いと言うことか。どういう知り合いかは分からないが。
「クリフ、キンバリー、イリーク殿、こちらはAランク冒険者『羽根の王冠』のソズンさんだ」
「『羽根の王冠』とは何だ?」
イリークさんが聞く。相変わらず空気を読まないが、今はそれがありがたい。
「『羽根の王冠』は、しばらく前まで、『青き階段』に在籍していた冒険者パーティーだ」
僕は理解した。トビアスさんが言っていた『青き階段』から引き抜かれたAランクパーティーが『羽根の王冠』で、ソズンさんはその一員だったんだろう。
「残りのメンバーは何をしている?」
ホルヘさんは、ソズンさんに聞いた。
「残りのメンバーもなにも、『羽根の王冠』は解散した」
ソズンさんは、言った。
しばらくの沈黙。
「また、どうして?ジョフは絶対Sランクになってやると言っていたじゃないか」
「さあな。『道標』に行って、自分の限界が見えたのかもしれん」
『道標』はロイメでも有名な歴史ある高級クランである。
「ジョフは、『道標』の政治力に期待して移籍したんだ。しかし、『道標』には、他にも有名パーティーが所属している。
『道標』のクラン・マスターとしては、ジョフのSランクを冒険者ギルドに一押しする理由はないのさ。
ジョフはよく『話が違う』とは言っていたよ。何がどういう話があったか知らないが」
「まあ、冒険や政治と言うものは、なかなか思うようには行かないものだ。次のチャンスのためにも、また潜ればいい」
ホルヘさんは、言った。
「ところが資金面の問題が出てきた。俺たち『羽根の王冠』は、ここを出る時に、何件かのスポンサーと縁が切れてしまったからな。新しいスポンサーを探そうとしても、『道標』の系列には、なかなか入り込めない」
「お前らは、たくさんポーターを雇ってたからな」
「あと、スカウトのセチンが騒ぎ出した。パーティー資金が思った以上に減っているってな」
ソズンさんの話は続く。
「パーティー資金については、ユーフェミアが何度も説明してただろう」
「冒険者ギルドの偉いさんを何度か接待したりしているから、お前が考えているより、もうちょっと減ってるな。それでも俺としては、ほぼ予想の範囲だったんだが、セチンとしては、納得できなかったらしい」
「ジョフは、それでも何とか纏めてもう一度潜る気だったみたいだが。まあ、『道標』に行ってから、俺たちは喧嘩ばかりしていたよ」
「・・・そうか」
「最後に治癒術師のサミュエルが『羽根の王冠』を抜けると言い出した。王国に仕官するとさ」
「サミュエルが?お前達のパーティーで最後に残るのは、お前とサミュエルだと思っていたんだかな」
「サミュエルの気持ちは分かる。俺たちは、バラバラだった。あのまま潜って良いことがあったとは思えない。ラブリュストルの怒りを買ってもおかしくない有り様だった」
ダンジョンでパーティーが全滅する事を、冒険者達は、「ダンジョンの神・ラブリュストルの怒りを買う」と言う。
「・・・他の連中はどうしたんだ?」
「サミュエルはさっき言った通り王国に仕官した。剣士のオーウェンも一緒に仕官した。
セチンは草原に帰ると言っていた。ロイメで暮らすには、金が足りないとブツブツ言ってたよ。
ジョフは、Sランク冒険者は諦めて、確か魔術師クラン内での出世を目指して、選挙に出るとか言っていたな。今のヤツで受かるかどうかは知らんが」
武術大会の喧騒は続いている。
「冒険者パーティーとしては、そんなに悪くない結末なんじゃないか」
ホルヘさんは、言う。
「『羽根の王冠』は、結成以来誰も死んでない。再起不能の怪我をしたヤツもいない。仕官したいやつはできた。上出来だよ」
「そうかのう・・・」
ソズンさんは、答える。