24. 魔術談義
会場は、あと二試合を残して休憩タイムだ。行商人も入って来て、食べ物やら飲み物やら売り歩いている。
「坊主、あのアキツシマ人の槍使い達はお前の知り合いか?」
突然声をかけられた。話しかけてきたのは、VIP席に座っているドワーフの男だ。成功した冒険者のように見える。
今日は、良く話しかけられる日だ。
「僕とキンバリーは『三槍の誓い』、つまり彼らと同じパーティーのメンバーです」
「ほう、それはすごいな。彼らは良い戦士だ。もしかして、あの三兄弟はダンジョンの中でもあの槍を使っているのか」
「はい。そうです」
「あの長さの槍に盾まで装備すると重くないか?」
「彼らは盾は持ちませんよ。それがアキツシマ流だそうです」
「すると別に盾持ちがいる?」
ドワーフさんは僕らのパーティーに興味深々のようだ。相手はVIPだし、僕は問題のなさそうな範囲で話す。
「うちは盾持ちはいません。僕とキンバリーとナガヤ三兄弟で、5人組パーティーです」
ドワーフの男(多分中年ぐらい)は、大きく嘆息した。
「すごい勇気だな。毒や魔法が怖くないのか……?」
「クリフさんは、防御魔術師です。毒も魔術も結界で防いじゃいますよ」
隣にいたキンバリーが口を出して来る。
「キンバリー、どんな毒でも防げるわけじゃないから。毒スライムの噴霧とか、マイコニドの毒胞子とかなら防げるけど、完全に気体の毒は多分無理だから」
まあ、風結界を応用すれば、ある程度はいける気がするんだけどね。
「ずっと結界を張っていれば疲れるだろう。攻撃魔術を使う時に、疲れて使えないなんてことにはならないか?」
「お恥ずかしながら、僕は攻撃魔術は苦手なんです」
「興味深い魔術適性だな。どの程度苦手なのか」
いきなり、話に割り込んで来たのは、エルフのイリークさんである。
「いや、まあ、割と苦手と言うか、まあ……」
「毒噴霧や毒胞子を完全に防ぐと言うのは、衝撃反射の結界を高密度で張ってると言うことか?」
「そうです」
「それだけの技術を持ちながら攻撃魔術は苦手と言うことか?」
「そうです」
「どの程度苦手なのか?多少下手なだけか?ほぼ使えないのか?」
イリークさんはぐいぐい聞いてくる。
これ、答えるまでぐいぐい来るんだろうな……。
「ほぼ使えません」
僕は正直に答えた。
「属性は一つだけか?複数か?」
属性と言うのは、火とか、氷とか、聖とか、そう言うやつだ。魔術師の才能適性には、属性によって得意・不得意が別れることがある。火の魔術は得意だが、氷の魔術は苦手だったり、ほとんど使えないとか。
と言うか、それが普通だ。全属性使える術者は珍しい。
しかし、僕はだんだん答えるのが嫌になってきた。攻撃魔術が苦手なのは、僕の大きなコンプレックスなのだ。
僕がゴニョゴニョと黙っていると、キンバリーが割って入った。
「クリフリーダーは、複数属性使えますよ!炎も氷も雷も、聖属性だって使えるんです!これだけいろいろ使える人は珍しいって、レイラさんも言ってました!」
「ほう!複数の属性を扱う才能、しかし、攻撃魔術は苦手。興味深い。実に興味深い」
イリークさんは一人で頷いている。
「イリークさん、こう言うのって、治ったりするのでしょうか?」
ばれた以上は仕方ない。僕は聞いてみることにした。エルフは独自の魔術文化を持っていると言うし。
「初めて聞いた事例だし、治るか治らないかなんて分からんよ」
あっさり答えられた。そうですか。
「ただ、魔術の才能と言うのは個人差が大きい。
種族によっては、ほとんど才能を持たない者もいるぐらいだ。そう言う輩に魔術を教えても無駄だ。
つまり、魔術の才能と言うものは、苦手分野を伸ばそうとしても多くの場合、良い結果は出ないのだ」
これは、魔術師である親父が言ったこととほぼ同じである。
「ただ、防御用の結界魔術を応用して、攻撃に使う方法はあるかもしれないな」
「例えばどんな感じですか?」
「知らんよ。私は攻撃魔術が使えるし、そんなまだるっこしい方法を考える必要がないのだから」
ハイハイ、そうですよね。
「三槍の誓いにエルフの御仁、どうやら第四試合が始まるようだぞ」
VIP席のドワーフさんが静かに教えてくれた。
第四試合は、レイラさんvsダグだ。ダグはこれが緒戦であり、勝った方が決勝進出となる。
ダグは槍、レイラさんは今回も杖だ。
前のコジロウさんの試合を見たのだろう。ダグは槍を上段に構えている。見た印象だが、油断は感じられない。
レイラさんは杖を槍のように腰だめに構えている。
「上を押さえられると、さっきのような軽業は使いにくいだろうな」
ドワーフさんが言う。
レイラさんが仕掛けた。すごい瞬発力で間合いを詰め、足元を狙う。
ダグは杖の一撃を槍で防ぐ。杖と槍は交差し、そのまま押し合いになる。
何で、レイラさんがダグと力でタメはれるんだよ、と言いたいが、多分イリークさんの言う通り、肉体強化の補助魔術を使っているんだろう。
この魔術は一応僕も使えるが、後で凄くひどい筋肉痛になる……。
レイラさんは短期で押しきるつもりだったのかもしれない。しかし、ダグはよく耐えた。そして、持久戦に持ち込めばダグが有利だ。
レイラさんは杖を手放した。ダグは勢いのままつんのめる。そこにレイラさんの足技がかかり、ダグは大きくバランスを崩す。
レイラさんは一気に押さえ込むつもりだったようだ。ダグはそのまま前のめりに転ぶと転んだ反動を利用して、起き上がった。
形勢は逆転した。ダグはレイラさんの後ろに回り関節技をかけることに成功した。
客席からは、大ブーイングだ。
レイラさんは、片手を挙げ、参ったの合図をした。
客席からのブーイングは全く収まらないが、ダグは気にする風でもなく手を振っている。
「流石、ダグ。女子供でも容赦しない男よ」
イリークさんは言う。
「実戦では攻撃魔術も使えるレイラさんが勝ちますから。実戦でレイラさんを押さえ込んだりしたら、電撃くらいますよ!」
キンバリーは、当たり前だが、あくまでレイラさんびいきだ。
「このルールの中ではダグが強かった。そう言うことだ」
ドワーフさんが言った。
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