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235. エルフ族のイリーク、種族の運命を語る

「イリークは人間族が、馬鹿だと(・・・・)言いたいンスか?」

ギャビンが言った。

あー、ギャビン怒ってるな。


「一面ではそうだ。

私は人間族は一部の例外を除き、馬鹿だと(・・・・)思っている」


イリークさん!断言しちゃいますか!

周り中、人間族ですよ。


そして、イリークさんは人垣の中央に立ち、語りはじめた。



「だが、今の大陸を見ろ。

世界は人間族中心に回っている。

我がエルフ族は劣勢だ。

なぜだ?

エルフ族は、知性でも、魔術でも劣ってはいない。

むしろまさっている。

腕力は人間族の方が有利だが、カバーできる範囲だ。

そして、寿命は我々が圧倒的に有利だ」


イリークさんの華やかな金髪が、天窓から差し込む午後の光を反射させた。

まるで、イリークさんの周りにスポットライトが当たっているようだ。

残念ながら、僕もバーディーも脇役になった。


「私は思うのだ。

人間族特有の愚かしさ、

自惚れ、

そして他者の命をなんとも思わない図太さ、

この3つが噛み合い、今の人間族の繁栄をもたらして要るのではないかと」



「人間族が他者の命をなんとも思わないというのは、納得できねーな。

俺は仲間の命は大事にするぞ」


ダグ、良いこと言ったぞ。


「そうか?

人間族の統治者の行いを見ろ。 

他者の命を大切にしているとは到底思えんな」


人垣のあちこちからブーイングが聞こえてきた。


僕は沈黙した。

人間族の為政者の行いに関しては、否定できないよ。



「人間族は愚かで自惚れ屋だ。

自惚れ屋だから、無茶な挑戦をする。

愚かだから、失敗する。

自惚れ屋だから、また挑戦する。

その結果の圧倒的な試行回数。

そのうちに誰かが成功する。

ほとんどは小さな成功だが、稀に大きく成功する者もいる。

圧倒的試行回数と無数の犠牲の上の、大成功。 


私の意見だが、この大成功こそが、種族の運命を変えるのだ」


「一度や二度の大成功で世界が変わるでしょうか?

だいたい失敗はどうカバーしますか?」

僕は質問した。


興味深い話題だが、対論を出してみる。


「人間族は短命だ。

失敗は繰り返される世代交代によってカバーされる。

人間族の厚顔無恥さもカバーを助けるだろう。

逆にエルフ族は、賢すぎて実行する前から失敗を予想してしまう。

臆病なのもよくない。


ともかく、エルフ族には、愚かしさと冒険心が足りないのだ!」



ハイリスクな決断と犠牲、圧倒的な勝利、犠牲をものともしない図太さ。

人間族の歴史にはそういう面がある。

そして、成功は、『複利的』に増幅していくとしたら……?


僕は手帳にイリークさんの意見を書き付けた。



「ともかく、こいつは良いサンプルだ。

ぜひともパーティーに入れてそばで観察したい。

ハロルド、私は賛成するぞ」

イリークさんはそうまとめた。



「仕方ないですねぇ。

ハロルドさんとイリークさんが彼を入れたいというなら、私が反対する理由はありません。

賛成しますよ」

ウィルさんが言う。



「俺は別にどっちでもいいぞ」

ダグ。



「俺は反対ッスよ。

馬鹿のイリークが変な理屈()ねてますが、その場の思いつきッスよ。

だいたい愚か者(ばか)が見たけりゃ、イリークは自分自身を見ればいいんスよ」

ギャビンは、反対の意見を曲げない。



「バーディーを入れるのは、パーティーの将来のためだ。

イリークの理論のためではない」

ハロルドさん。


「教えて下さいよ、ハロルドさん。

なんで、いきなりコイツなんですか?

ダグを入れる時にハロルドさんは『相応しい者が現れるまで待つ』と言って、さんざん粘ったじゃないですか」



以後ギャビンの話を抜粋する。


以前のダンジョン都市にいた頃だ。

『雷の尾』は、新メンバーを募集していた。 

何人か面接したが、ハロルドさんのお眼鏡に叶う者がいない。


最終的にハロルドさんは、冒険者ギルドの前に座り込んだ。

そこで、やって来る冒険者志望者を延々とチェックした。


「ハロルドさん、メンバー探しに2ヶ月以上かけたじゃないですか。

たしか、雨の日もギルドの前に座り込んでましたよね?。

俺やウィルさんが変わると言っても、俺がやると言って聞かないし」


その間、『雷の尾』の残りのメンバーは、ウィルさんをリーダーに細々とダンジョンの浅い所を回っていた。

イリークさんの手綱を取るのが大変だったそうだ。

さもありなん。



「ダグよぉ、お前最初のパーティーが『雷の尾』だったのかよ?」

「まあな。前の町の冒険者ギルドに行ったら、いきなり誘われたんだ。

ずっーと座り込んでたオッサンが近寄ってきて、乞食かと思ったぜ。

だだ、よく見るとかなり強そうだし、誘われちゃったし、まぁいいかなぁーと」

「運の良い奴だなぁ。

まあ、お前が世間知らずな理由がわかったぜ」

「あー、お前今、俺のこと馬鹿って言ったなー!」


見物の冒険者達とダグがくっちゃべってる。



「ともかく、『雷の尾』にとって新メンバー募集というのは、大変なことッス。

こんなにあっさり決めるのは納得ができないッス」



ハロルドさんが立ち上がった。


「あの頃とは、パーティーの中身も周りの状況も違う。

バーディーの加入は『雷の尾』にとって、必ずプラスになる」


ハロルドさんはそういうと、ギャビンの肩を軽く叩く。


「はぁー。わかったッスよ。

ハロルドさんがそこまで言うなら、従うっス。

こんなクソガキより、相応しいメンバーがいると思うんスけどねぇー」


ギャビンは一応折れた。

が、まだブツブツ言っている。




ハロルドさんはバーディーの前に立った。


ハロルドさんはイケメンだ。

銀色の短髪、青い目、少し日に焼けた肌。

人間族としては、かなり背が高く、筋肉もついている。

当然だが、『青き階段』で働く女性達や、近隣の女性達からも人気がある。

デイジー激萌えとシスコンを除けば、欠点らしい欠点もない。イヤホント。


対するバーディーは茶色の髪に青い目で、愛嬌のあるハンサムだ。

背は高い方だが、ハロルドさんに比べると少し低い。

何より、筋肉の付き方が違う。

今のバーディーは痩せてるし。

ハロルドさんに比べると、いろいろな意味で目方めかたが違う。


天窓から差し込む光の中に、ハロルドさんとバーディー、二人が入った。



「バーディー、『雷の尾』は、『青き階段』に所属するBランクパーティーだ。

この前の第二層の救援活動で活躍した。

近いうちに第四・第五層を目指すつもりだ。

君を正式なメンバーとして迎え入れる。

ロイメの冒険者として活動する技術を教えよう。

こぶしは……、使わない保証はできないが、最小限に抑えよう。

契約は『青き階段』の仲介で行う」


ウンウン、一件落着だな。

僕はそう思った。


「やだよ。断る」

バーディーは答えた。



なんで!

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― 新着の感想 ―
[一言] これは...上から目線が気に入らないでしょうか、まさしく「面倒くさい男」です。ここまでの流れを見ていればバーディーが断るのも納得できますがw
[良い点] 面白かったです。 イリークさんやクリフくん、それぞれのキャラクターらしいものの見方価値観がある事が伝わりました。 [一言] まあ、ある意味……イリークさんに盛大にいろいろ言われて、見世物…
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