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233. サットン

「本当か、サットン?」


「クリフ、ひどい顔だぞ。

まず、顔を拭いた方がいい」


僕はハンカチ(一応持っていた)で、涙と鼻水を拭く。



恥も外聞もなく泣いてしまった。


僕の中で何が起きたのか?

僕は、ロランドの葬式のことを話して二人を説得しようとした。

そのうちに、ヒトが必ず死ぬという当たり前の事実と、何もできない無力感が噛みあった。

それは、圧倒的なイメージで僕に迫ってきた。


だいぶスッキリしたが、あの時は、もう泣くしかないという気分だった。



イリークさんが後ろで偉そうに解説している。

「……我々エルフ族は、さっきのクリフ・カストナーのような状況を、突発的な中二病と呼んでいる」


うるさい。



「僕は故郷に帰る。決めた」

サットンは、改めて言った。


バーディーは動かない。


「それがいい。

旅費が足りないなら、遠慮なくクリフに借りれば良いぞ」

トビアスさんが言った。


「質草を諦めれば、帰りの旅費はある。

それより、クリフ。

僕は君に謝らなくてはならない」


えーと?



「『暁の狼』から、クリフを追放した方が良いと言ったのは僕だ。

最初、バーディーは迷っていた。

でも、僕が説得したんだ。

バーディーを責めないで欲しい」

サットンが言った。



「サットンは、何故、僕を追放しようとしたんだ?」


「……クリフへの借りが増えてくるのが怖かったからだ。

絶対に借金はするな。

僕は、そう言われて育った。

『暁の狼』で、1級魔術師であるクリフを雇い続けるのは無理だと思った」


それなら、相談してくれれば良いのに。



「そんな時、同じクランの冒険者から、クリフを追放すれば良いと言われたんだ。

借りが正式な証文になる前に、縁を切ってしまえって……」


ひどい話である。

僕は魔術師クランの1級魔術師で、雇うには一定額以上の報酬を支払わなければならないのは事実だけど。



「それは言い訳にならんな」

トビアスさんが言う。

「報酬が問題なら、クリフを形だけでもリーダーにすればいい話だ」


1級魔術師がリーダーである場合は、報酬は自由に決められる。


「……それも考えた。

でも『暁の狼』は、僕とバーディーのパーティーなんだよ!

何より僕には、クリフが何を考えているか分からなかった……」


「それなら、僕に直接聞けばいいたろ!

うまく答えられたかは分からないけど……」

なにしろ僕はコミュ障なのだ。

「でも、頑張って答えたよ」



「エルフ族では、頭の出来が違いすぎると、意思疎通が困難になるという」

「あー、それ、人間族でも言うッスよ。

イリークが馬鹿すぎて話が通じないッスよ」

「頭なんて、ほどほどが一番だよなー」



「じゃあそもそも、クリフは何故『暁の狼』に入ったんだ?

他にも良いパーティーはあっただろ?」


「誘われて嬉しかったからだよ!

他の良いパーティーって言われても、僕は陰キャなんだ」

それだけだ。


「二人とも明るくて、仲が良さそうで……」

魔術師クランの連中とは、こういう付き合いはしていなかった。



「僕的な勘だけど」

ダレンさんが口を出す。

「君達はクリフの親父さんと正反対なんだ。

クリフ君が『暁の狼』に惹かれた理由はそれじゃないかと思うよ」


ええェっ、それはない。

ないはず。

ないと思う……。


「ダレン、クリフの親父さんについて知っているか?

俺はあまり関わりがなかったんだが」

トビアスさんが聞く。


「魔術師クランのパーティーでポーターをやった時に話したよ。

とても理性的で、頭が良くて、攻撃魔術に関しては文句なしに強かった」


「陰キャで、コミュ症ですよ」

僕は追加する。



「あー、確かに正反対だな」

「偉大な父親ってのは厄介だなぁ」 

「おーい、いい加減親父と話し合えー」



見物人の冒険者達がわいわい騒ぐ。

うるさい。

外野が勝手なことを言うな。


ただ、僕がバーディーとサットンについて、理解していなかったのは事実だ。

同じパーティーだったのに。

これは反省点だ。

次に生かさなくてはいけない。



サットンは大きくため息をついた。



トビアスさんが一歩前に出た。

「サットンよ、ちょっと聞きたいが、クリフを追い出すように唆した男は誰だ?

たぶん、お前はそいつにめられている。

クリフがフリーになった所でスカウトするつもりだったんだ。

なかなかの曲者で、要注意人物だよ。

俺のノートに注記しておく」


僕から見ると、トビアスさんも要注意人物ですが。


「ロランドがいたパーティーのリーダー。

よく相談に乗ってくれた。

めようとしたなんて、信じられない。

良い人だった」

サットンは答えた。

トビアスさんの言うことは半信半疑の様子だ。



「ロランドのパーティーは第二層の奥で全滅しています」


文句をつけにいく相手はもういない。


でもこれは、僕もバーディーとサットンも『とりあえず生き延びた』とも言える。



トビアスさんは軽く肩をすくめた。


「サットンと言ったな、とっとと田舎に帰れ。

お前はロイメにゃ向かん」


「そのつもりです」



ムクリとバーディーが起き上がる。


「さっきから聞いてりゃ勝手な御託を並べやがって。

俺は、帰らない。

今更、帰れるか。

帰るには、もう、遅いんだよ!」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 [一言] 田舎から夢を見て出て来た。 それは悪くないですが……。 夢を叶えるためなら、時間をかけるか、努力するかを覚悟するべきでしたね。 少なくとも……気に食わないパ…
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