21. リーダーの役割
「……本当にお前がリーダーか?」
ダグと呼ばれた男は、僕に近づいて来た。と言うか迫ってきた。
デカイからって調子に乗るんじゃないぞと言いたいが、身長以外も、筋肉とか、なんかいろいろ負けてる気がする。
「クリフ殿は、我ら『三槍の誓い』のリーダーだ」
コイチロウさんが座ったまま言った。
ダグが、コイチロウさんをチラッと見た。ダグとしては、コイチロウさんかコジロウさん辺りがリーダーだと思ったんだろう。
気持ちはわからないでもないけど。
「ちょっとダグ、何揉めてるのよ」
さらに新顔が現れた。暗い金髪で、青い目の背の高い女性だ。弓を背負っている。
感じの良い容姿で、骨格は逞しい。体重は、キンバリーよりだいぶありそうだが、その多くは、胸と腰についている。
「「おおっ」」
ロビーにいた他の冒険者たちから軽く声が上がる。キンバリーやレイラさんでは起きない反応だ。
ユーフェミアさんや、受付の皆さんはいつもいるしね。
「いや、ホリーこいつらが……」
ダグの敵意がだいぶやわらいだ。なんとかなりそうか?
「何をしている」
そしてもう一人新顔だ。
一目で分かった。
こいつが、リーダーだ。
バランスの取れた長身、短い銀灰色の髪と青い目、日焼けした肌、……イケメンだ。
現れた瞬間、ダグの敵意は完全に消えた。長身の女性とスカウトの男もイケメンの方を見て、指示を待っている。
「こいつらが俺がEランクだとか言うから……」
「俺はEランクだ!ってわざわざデカイ声で言ったのは、ダグっスよ」
「俺達は、ロイメに来たばかりで、今Eランクだ。単なる事実じゃないか」
そう言うと、イケメンは僕に近づいて来た。まさかやる気か?この男と揉めるのは、流石に避けたい。
彼が指示を出せば、ダグ以外の2人も僕に敵意を向けて来るだろう。
「パーティーの仲間が失礼した。魔術師殿」
銀色の頭を軽く頭を下げた。
「以前、行列で会ったな、『雷の尾』のハロルドと言う。後は、ダグとギャビンと
ホリー。我々も『青き階段』の世話になることになった」
あの行列の冒険者グループのリーダーである。
実は、僕は人の顔を覚えるのが苦手である。攻撃魔術も苦手だし、欠点だらけの人間なのだ……。
『雷の尾』のメンバーは僕達から少し離れた奥のテーブルについた。
「かっこいい」と受付のノラさんが呟くのが聞こえた。
「気に食わん男だな」
コサブロウさんが言った。彼の気持ちはちょっと分かる。ただ、リーダーとしてはここで同調してはいけない。
「謝られてしまったし、これ以上気にしても仕方がないよ。
それより、第三層探索に向けてだけど、まずは情報収集だね」
「私はレイラさんに聞いてみる。『風読み』のメンバーにも詳しい人はいると思う」
「僕も魔術師クランで調べて見るよ」
「情報収集の努力はするが、我々はロイメに知り合いが少ないからなあ。リーダー殿は、トビアス殿やユーフェミア殿にも聞いてみたらどうだ?」
トビアスさんか。今度は情報料を取られるかもしれないな。メシか、芋菓子で教えてくれるといいな。
「分かった、聞いてみるよ。三人は、体が鈍らないように鍛えて欲しい。後は、まとまった買い物をする事になるかもしれないから、無駄金を使い過ぎないこと」
「鍛えるのは任せておけ。買い物は気をつけよう」
「長期探索なら、装備と保存食が大事。レイラさんが言ってた」
そうだ、キンバリーには聞いておかなくてはいけないことがある。
「キンバリー、『風読み』でスカウトの技術の初歩を習うのにはどれくらいお金がかかるのか、調べてくれる?マッピングとかロープの扱い方とかについて学びたいんだけど……」
ここまで話して僕は気がついた。
「いや、キンバリーが頼りないとか言うんじゃなくて、学んで損はないと言うか……」
「すぐに調べます!」
返事をするキンバリーは、むっちや笑顔だ。心配する必要はなかったのか?
その時、『青き階段』にざわめきが走った。
扉の所に新顔が二人。1人は人間の男。焦げ茶の髪で、中肉中背。さほど特徴のない男だ。もう1人の男は。
「エルフ族だ」
金色の長い髪はゆるく後ろで縛ってある。瞳は灰色、白皙の肌、尖った耳、繊細な美貌。
物語に出てくる、西方の黄金エルフを思わせる。
背は僕より少し高い。体重は多分そう変わらないんじゃないかな?
あらゆる種族が混在する都市ロイメ。そんな中でもエルフはそう多くない。
大陸にはそれなりの人数のエルフが住んでいるし、魔法適性の高いエルフは、勝れた冒険者になる素質がある。
しかし、彼らはとても保守的な種族で、冒険者になるものはあまり多くない。
そして、その少数派は同族を中心としたパーティーを作りだがる。
人間とつるんでいる彼は、エルフの中では変わり種だろう。
『青き階段』にも、ユーフェミアさんをはじめ、ハーフエルフはいるが、エルフはいない。
「行きますよ、イリークさん。揉め事は不要ですからね」
地味な男が、エルフの男を引っ張って行く。
『雷の尾』のテーブルは6人が着席した。記憶違いでなければこれで全員のはずだ。
「そもそもダグは、何を揉めたんだ?」
向こうのテーブルの声が微かに聞こえる。
「あいつらガタイは良いけど、素人なんだよ。だから俺は『お前らは、ダンジョンの素人だな』って言ったんだよ」
コサブロウさんの眉がピクリと動いた(ような気がする)。
「素人に素人と言う、当然だな」
エルフの男が返した。
「ダグ、あんたねえ、それイリークと同レベルだから」
多分これは、ホリーさん。
「……っげ、いや、ないない。俺がイリークと同レベルとかない」
「どこが違うのよ。思った事をそのまま言う。同じでしょ」
ダグは、ガックリとうつむいている。良い気味である。
「俺がイリークと同レベルとかあり得ない。……謝って来る」
いきなり立ち上がる。おいおい、何をする気だよ。
ダグは、いきなり、僕らのテーブルに来て頭を下げた。
「さーせん。素人に素人と言うなんて、イリークと同レベルです。むっちゃ失礼しました!!」
ああああ。
コサブロウさんの顔は真っ赤である。
向こうのテーブルの『雷の尾』のメンバーも頭を抱えていた。