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208/241

208. えーと

僕は目が覚めた。

少し眠って、調子はだいぶマシになっている。

目眩と吐き気はなくなった。


その変わり。

「ゲホッゴホッゴホッ」

ひどい咳が出る。


ただ、これは僕の上級治癒術で割とよく出る副作用である。



「クリフ・カストナー、あなたが会ったオーク族はどんな風だったのですか?」

いきなり質問してきたのは、ケレグントさん。


「えーと、ゴホッ、オーク族ですか?

画像の中で見たあの男でしょうか?」

僕は質問で返す。


2000年前に滅んだオーク族に知り合いはいない。


「夢の中でオーク族に会ったと、さっき言ったじゃないですか!」


言ったっけ?そんなこと。

言ったような気もするな……、えーと。


「そんなことを話した記憶はありますが、肝心の夢を覚えていません」

僕は正直に答えた。


「なんと!

あの時、あなたに覚醒の魔術をかけてでも、聞き出すべきでした。

ああ、大失敗です」


知りたかった知識を得られなかったケレグントさんは、悔しがった。



うーん、夢か。

確か、暗い道を降りる夢だった気がする。


「あー、すみません、ゴホッ。

元気になったら、思い出せないか試してみます。コホッ」


「お願いしますよ。

多分死霊術と関係している夢です。

ぜひとも修行を頑張ってください!」


はい……。




「だいぶ回復したんですね。

良かったですね」

そう言って現れたのは、見慣れない小柄なハーフエルフの男だ。


「えーと、ゴホッ、あなたは?」


「こちらは、第三の泉にいたモーリック・ヴァルさんです」

一緒に来たユーフェミアさんが紹介してくれた。


モーリック・ヴァルの名前は僕も知っている。

Sランクではないが、有名な冒険者だ。

今回の冒険者ギルドが結成した、第二層深層を探索するパーティーのリーダーでもある。


神殿所属で、ロイメでも指折りの聖属性の使い手らしい。

魔術師クランでも何度か見かけたような気がする。


モーリック・ヴァルがここにいるということは、救援隊の目的は達成できたのか。



そんなわけで、ここからは僕が倒れた後、皆から聞いた話である。


救援隊は、そのまま第三の泉へ走った。

倒れた僕はコイチロウさんが背負った。


僕を連れて一旦戻ろうという意見もあったが、ハロルドさんが進むことを決断した。


上位エルダー吸血鬼バンパイアの道案内は本当で、第三の泉は角を曲がってすぐだった。



「あの時は、びっくりした。

来ると思ってなかった救援隊が現れて、挨拶も名乗りもないうちに『10数える間に支度しろ』だからな」

モーリック・ヴァルは語った。

小柄でキビキビした男である。

ハーフエルフの例に漏れず、年齢不詳だ。


「その後、帰り道で2体下位(レッサー)吸血鬼バンパイアに遭遇した。

救援隊がすぐに討伐してくれたよ。

第三の泉に避難していた者7名、助けられた恩は忘れない」



助けられた7名は、彼以外も、人間族やら、ドワーフ族やら、エルフ族やら、雑多な種族の集まりだった。

女性も2人いる。


男女混合パーティーだ。


「僕は途中で倒れたので。

だいたい救援隊を組織したのは、ハロルドさんです」

僕は答えた。



口ではそう言ったが、ベテラン冒険者に大きなパイプができた。

この関係は、役に立つこともあるだろう。 


向こうも恩って言ってるし、そう考えて良いんだよね?




「クリフ・リーダー、見て下さい」

キンバリーが僕に魔石を差し出した。


「すごいな」

僕は感嘆のため息をついた。


デカい。

今まで見た中、触った中で1番だ。


上級エルダー吸血鬼バンパイアが滅んだ後、落ちてきたのを拾いました。

みんなで取った魔石だけど、クリフ・リーダーに最初に渡したかった」

キンバリーは言った。



「我らもまだ触らさせてもらっておらぬ」

コジロウさんが言う。


「あ、どうぞ」

僕はコジロウさんに魔石を渡す。


ピイン。


コジロウさんが触った瞬間、魔石は音を立てて3つに割れた。



「「あっー!!」」

見ていた何人かが声を上げる。


いやっ、僕は何もしていないです。


「俺は何もしておらぬ。

勝手に割れたのだ!」

コジロウさんも言う。


そうだ。僕達は何もしていない。

無実である。



「どれどれ、私が鑑定して差し上げましょう」

でぶハイエルフのケレグントさんが手を出してきた。 


「ふむふむ。

最初の段階ではレベル4。

今は3分割したのでレベル3という感じですかね。

割れたのは元々そういうタチの石だったのでしょう。

どのみち、鑑定の途中で割れたと思いますよ」 

ケレグントさんは見立てた。


「この大きさでもレベル4か」

救出された冒険者の1人がボソッと言う。


「割れた所からも分かると思いますが、魔力密度がちょっと……なんですよ」

ケレグントさんは言った。



大きさの割にイマイチだと言われてしまったが、元はレベル4で、今はレベル3✕3か。

かなりの魔石だ。


実は下位レッサー吸血鬼バンパイアからも、何個か魔石は取ったんだよね。


今回のクエストは収支はどうなるのかな?


まず、冒険者ギルドから全面支援されてるんだよな。

分け前をよこせって言われるかもしれない。


ソズンさんやマデリンさんもいる。

2人の報酬を並の冒険者と同じにはできないだろうな。


どういう決算になるかちょっと想像できない。

まあ、赤字じゃなければ、良いか。



「クリフ殿、もう一つ渡す物がある」

コイチロウさんが言った。


コイチロウさんが僕に渡したのは、ナイフとベルトだ。

えーと?


「クリフ殿の友人の遺品だ」

コイチロウさんは言った。


「あっ……」


そう言えば、ベルトに見覚えがある。


「彼は既に吸血鬼バンパイアになっていたからな。

体も髪も灰になった。

遺品だけが残った」


僕はナイフとベルトを受け取った。


僕はロランドと、そこまで親しかったわけではない。

でも、友人だった。


渡された品には、思い出と死の重みがあった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今まで読んできたほかのダンジョン系のストーリーとは違う切り口をされてて毎回新鮮な気持ちです。
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