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207. 二重螺旋の旅路

僕は下り坂を降りていた。

二重に絡み合った蛇の上に道があり、それを降りていた。

二重螺旋の旅路だ。


延々と降りて、いつしか道は一本になり、僕は1つの部屋スペースにたどり着いた。

部屋には扉がある。



この扉を開ければ帰れる。

この扉を開けなければ帰れない。

そのことが分かっていた。


扉には鍵穴がある。

問題は鍵だ。



僕は延々と鍵を鍵穴に突っ込んでは捨てる作業を繰り返す。

今の所、合う鍵は見つからない。


僕は右手を出す。

するとひょいと誰かが鍵を手渡してくれた。

今度は誰だ?


茶色い髪の地味な人間族の女だ。



この部屋では手を出すと、誰かが鍵を渡してくれる。


ほとんどが人間族だが、エルフ族や、トロール族など異種族もいた。

途中で親父や母さんもいたような気がする。


ただ、どれもこれも合わないんだよ。



やっぱりだめだ。


僕はまた手を出す。

ひょいと鍵が渡される。

今度は誰だ?


そこにいたのは、緑色の肌の眼光鋭いゴツい男だった。

オーク族!


僕はオーク族に話しかけようとしたが、手は惰性で動いていた。


カチリ。

鍵は鍵穴に嵌まる。

扉は開いた。

そして。

……。




「完全自力回復ですか。素晴らしい」

僕の顔を覗き込んでいたのは、でぶハイエルフのケレグントさん。


天井が高い。

上の方では相変わらず亡霊レイスが霊光を帯びて踊っている。

亡霊レイスのダンジョンに戻ってこれたのか。



「ケレグント、クリフさんは大丈夫なんですか?」

ユーフェミアさんが言った。


「私が手を加える前に、回復しました。

親の上位エルダー吸血鬼バンパイアも滅んでいます。

後遺症の心配はしなくても良いでしょう」

ケレグントさんはそう続けた。



「クリフ・リーダー」

泣きそうな顔のキンバリーが見える。


「だから言ったでしょ。

クリフはそう簡単にくたばる奴じゃないって」

メリアン。



「クリフ殿、良かったのぉ。皆、心配しておった」

コサブロウさん。

「もし、吸血鬼バンパイアになるようなら、誰がクリフ殿の首を落とすか相談しておったのだ」


「……。」


「ソズン師範がやると言っておったが、コイチロウ兄者がパーティーのサブリーダーとしての責任だと言い出してな。

さらにコジロウ兄者も自分がやりたいと言い出す始末。

議論は白熱したのだぞ」 



ソウデスカ。


無事に目覚めて良かった。

僕は自分自身が相当ヤバい状況にあったことを自覚した。



「僕はどのくらい意識を失っていたんですか?」


「そんなに長い時間じゃない。

あの後、時計の針は一回りしてない」

キンバリーが答えた。


そうか。

あの部屋スペースにいた時間は大して長くなかったのか。



僕は起き上がろうとした。

途端にめまいに襲われる。熱もありそうだ。


「クリフさん、無理してはいけません」

ユーフェミアさんが言う。


「まだ休んでた方が良いんじゃない?」

メリアンも言う。


うん、そうだね。

2人の言う通りだよ。



「マデリンさん、この状況なんとかなりませんか?」


「無理ぃ。

クリフ君のマナとぉ、吸血鬼バンパイアのマナとぉ、ドラゴンのマナがぁ、ビミョーなバランスで絡み合ってるの。 

下手にいじっても悪化するだけぇ」


「ドラゴンのマナって?」

なぜ、ここでドラゴンが出てくるんだ?


「注射打ったでしょぉ?あれの主な原料は火竜ファイヤードラゴンの肝から取ってるの!」



ドラゴンの肝だって!

猛毒じゃねーか!

いや、ドラゴンのマナなら吸血鬼バンパイアのマナにも負けないだろうけど。

あの注射、ガチでやばかったんだな。


マデリンさん曰く、2〜3日はここで寝てようね、とのことだった。




「皆さん、少し席を外してもらえませんか。クリフ・カストナー氏にお話しがあります」

ケレグントさんは言った。


ケレグントさんを残し、皆は離れていく。



「さてと、あなたの状態についてです」

ケレグントさんは口を開く。


「僕は完全に回復したのですか?」


「回復したと見てよろしいでしょう。

あなたは死霊属性に高い適性があるようです。

吸血鬼バンパイアに送り込まれた死霊属性のマナを完全にコントロール下においています。

ただし、あなたを噛んだ吸血鬼バンパイアの親に会った時は気をつけて下さい」


「あの、吸血鬼バンパイアの親ってどんな奴でしょう?」


「同じ上位エルダー吸血鬼バンパイアか、不死の王(ノーライフキング)でしょうね」


「……。」


「思い悩んでも仕方ありませんよ。

あなたはダンジョンに潜りたいのでしょう?」


「はい。潜りたいです」 


「潜って良いですよ。監視もいりません。

不安なら、死霊術の修行をすると良いでしょう。 

上位エルダー吸血鬼バンパイアに対抗するなら、有効な手段です。

不死の王(ノーライフキング)には、……一生会わないことを祈って下さい。

まあ、ほとんどの冒険者は、一生の間に一度も不死の王(ノーライフキング)に会いません。

ついでに出会った冒険者は、まず生きて帰ってきません」


「万が一出会ったら?」


「土下座して、命乞いでもしたらどうですか」


ソウデスカ。

まあ、そうですよね。



「関係ない話ですが、一つ質問があるんです。

オーク族の血筋は完全に絶えたのでしょうか?」

僕は質問した。


僕は夢の中でオーク族に会った。

僕の予測だが、あれは……。

 

「オーク族は滅びました。ただし、血筋は絶えていません」

ケレグントさんは答えた。


「それはどういう意味ですか?」


「オーク族の子供でも、オーク族として生まれてこない者が稀にいるのです」



ええと、それは。


「つまり、オーク族と人間族の子で、人間族として生まれてくる子供がいるということですか?」


「その通りです。

ただ、どれくらいの割合かが分からないんですよね。

10人に1人か、100人に1人か、1000人に1人か。

実験できれば良かったのですが、なかなかそういうわけにもいかなくて。

参考までに、マデリンさんにセイレーン族から生まれる他種族の割合を聞いたのですが、『数字とか分かんなーい』とか言って答えてくれないのです」

 

マデリンさんがケレグントさんの質問をはぐらかす気持ちは、……なんとなく分かる。



「つまり、オーク族の血を引いてるヒト族はたくさんいると?」


「そりゃたくさんいますよ。

2000年前の一時期は大陸は、オーク族だらけだったのですよ。

被害が多かった人間族やケンタウロス族は、多かれ少なかれオーク族の血を引いているのではないかとさえ、私は思っているのですよ」



「……。

僕は、自分がオーク族の血を引いているのではないかと思います。

意識を失っていた間に、夢の中でオーク族に会いました」


「ほお」


「オーク族は僕に、ここに戻る扉の鍵をくれました」


「それは、興味深いお話ですね。

もう少し回復したら詳しく教えて下さい」


「お話ししますよ。

ただし、貸し1つですよ」


僕は再び眠った。



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