200. 人事
「あのハロルドさん、僕は行きますよ」
僕は言った。
「当たり前だ」
ハロルドさんに返される。
考えてみれば、言うまでもないことだ。
そもそも僕はサブリーダーだ。
僕は既に選ばれる立場から、選ぶ立場になっているのだ。
責任を背負う立場になったのだ。
誰を連れて行くか。
いや。
誰を連れて行かないかを決めなくてはいけない。
「僕はここで待たせてもらおうかと思っている」
最初に口を開いたのは、ネイサンさんだった。
「おい、ネイサン!」
チェイスのオッサンは慌てた。
「僕達は、吸血鬼は相性が悪いよ。
弓は吸血鬼に効かない。
吸血鬼の魅了スキルは恐ろしい。
何よりデイジーが行くなと止めている」
ネイサンさんは言った。
そういえば、デイジーはさっきからクゥンクゥンと鳴いていた。
「そうだな、引き際は重要だ。
チェイス、お前も残れ。
魅了スキルなんざ食らうと、また夫婦喧嘩になるぞ」
トムさんが言う。
「どうしてここで女房の話になるんだよ。
はぁ、ここまで来たのになあ」
デイジーはチェイスさんの側に行き、またクゥンクゥンと鳴いた。
「分かったよ、デイジー。
俺もここで待つ」
チェイスのオッサンは言った。
「そういうわけだ。僕達3人はここに残る」
ネイサンさんはまとめた。
しかし、そうなると……。
「デイジーはどうなるんだ?」
ハロルドさんが聞いた。
ネイサンさんが、デイジーと話?をしている。
デイジーはワン!と元気よく吠えた。
「デイジーは君達と一緒に行くと言っている」
良かった!朗報だ。
デイジーは頼りになる。
いざという時は、魔力も分けてもらえる。
ネイサンさんは、さらにデイジーと話し続けている。
「どうしょうもない時は、デイジー1匹で戻ってくるんだよ」
「ワン!」
……。
「俺は行くからな」
ダグが言う。
「魅了を跳ね返す気合の入れ方は、分かってきた。
次は最初みたいなへまはしない」
「お前は連れて行く。
水の臭いがしたと言いだしたのはお前だ。
戦う時は、結界の位置を頭に入れておくように」
ハロルドさんは答えた。
「私も連れて行って下さい」
ウィルさん。
「壁の向こうが第二層と、どうつながっているのか見たいのです。
ご迷惑はかけません。
いざという時は、切って下さい」
「マッピング担当は必要だ。来てくれ。
戦闘では無理はするな」
ハロルドさん。
「私は行くからね!」
メリアンがいきなり僕に話しかけてきた。
「治癒術師は何人いても良いってディナリルさんも言ってたわ。
『聖なる火花』は必要でしょ?」
あわわわっ!
いきなりで、びっくりしたよ。
僕は心の準備ができていなかった。
『三槍の誓い』では、僕は行く。ナガヤ三兄弟も行く。
問題は女性陣だ。
男女差別はするなって?
でも、考えてしまうよ。
いや、マデリンさんやレイラさんあたりなら、気にしないけどさ。
「メリアン、ちょっと待ってくれ」
僕は考えを巡らせる。
メリアンの能力が役に立つことは分かっている。
メリアンは、ダンジョンが溢れてから、一度もパニックは起こしてない。
いや、でも……。
「メリアンの『聖なる火花』は宛にしている。
連れてきて欲しい」
ソズンさんが脇から言った。
メリアンは途端に得意そうな顔をしてみせた。
メリアン言っておくけど、ソズンさんが話しかけたのは、リーダーの「僕」だから。
「わかりました。
メリアン、頼りにしている。一緒に行こう」
僕は決断した。
「私も行く。絶対に行く」
続けてキンバリーが言い出した。
「私はこの中で一番耳がいい。
今まであまり役に立てなかったけど……必ず役に立つから」
ええと、どうしよう。
ここはキンバリーも連れて行く流れだ。
でも。
今度はソズンさんは何も言わない。
コイチロウさんの方を見たが、無表情だ。
ああもう、良く考えろ。
なんとなくで連れて行って、キンバリーにもしものことがあったら……、僕は一生後悔することになる。
キンバリーを連れて行くメリットは何だ?
耳がいいからか?
勘がいいからか?
その時、僕はメリアンとキンバリーがお互いの手を握っていることに気がついた。
メリアンを連れて行くなら、精神安定を考えるとキンバリーも連れて行った方が多分良い。
確かに良い。
これは間違いない。
「キンバリーも一緒に行こう。
無理はするな。感覚に集中してくれ」
キンバリーは頷いた。
キンバリーの後ろで、コイチロウさんが軽く肩をすくめたのが見える。
「『三槍の誓い』は全員行く。
それで良いではないか」
コジロウさんがカラカラと笑いながら言った。
「私はもちろん参ります。
聖属性も精神操作属性も使えますし、ストーレイ家の者として、ここで待つわけにはいきません」
ユーフェミアさんが発言する。
「ユーフェミアさんも、もちろん来てもらう」
ハロルドさんは答える。
「ただ、魔術を使うタイミングを焦るな。あなたは勇み足が目立つ。
最後までユーフェミアさんの魔術なしで目的を達成できるなら、それでも良いんだ」
うわあぁぁー、ハロルドさん、言うね。
ユーフェミアさんは、確かに戦闘センスはないけどさ。
僕にこれが言えるかって?
無理だよ。
ユーフェミアさんは、ハロルドさんの言葉を神妙な表情で聞いていた。
「分かりました。
ハロルドさんの言うとおりだと思います。
ダンジョンと戦闘で結果を出したいと焦っていました」
「俺も連れてって欲しいっスよ、ハロルドさん」
ギャビン。
「部屋の向こうに扉があったッスよ。
誰が開けるンスか?
罠があったらどうするンスか?
鉄砲玉はいるッスよ!」
ギャビンの水鉄砲は、弓矢以上に吸血鬼に効いてない。
「もちろんギャビンにもついて来てもらう。
あの扉を開けるのはギャビンの仕事だ。
だが、扉を開ける時点で大きな怪我をしたら、戻れ」
なかなか厳しい。
きついッスよ、ハロルドさんとギャビンはぼやいている。
そして。
「ホリー」
ハロルドさんはホリーさんに呼びかけた。
「お願いだ。ここで待っていて欲しい」
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