20. 冒険者ランクは何のためにあるのか?
僕達『三槍の誓い』は、ダンジョン一層北側の最初の探索を成功させた。これからの僕達に必要なもの、それは新しい目標と方針だ!
そんなわけで僕達は、『青き階段』のロビーで芋菓子とお茶で、相談モードに入っていた。
なお、『青き階段』のロビーは、昼間はアルコール禁止である。その代わり安い茶葉だが、お茶は飲み放題だ。これは、割と贅沢なことである。
「お酒の入った冒険者って、本当に手に負えないですから!」
受付のノラさんの意見で、これは概ね正しい。
「次は当然二層だな」
コジロウさんが言う。
ここで皆に言っておかないといけないことがある。
「ロイメ・ダンジョンの二層は、アンデッド・モンスターが出ます」
「ええと、あれか、お化けの類い」
コサブロウさんが手を前で降りながら言う。僕は頷く。
「平たく言えば、そうです。ゾンビ、スケルトン、亡霊、奥の方にはさらに強いグールなども」
「つまり、聖属性の魔術師が必要と言うことだな?」
コイチロウさんが言った。
「お主、使えるのか?」
「……聖属性の防御魔術なら使えます」
「攻撃魔術は?」
「使えません」
「……」
「聖水を使えば攻撃は出来る。やったことがある」
キンバリーが言った。
「武器に聖水をかけて攻撃すればいい。すぐに効果はなくなるけど、普通の武器でも倒せる。手間を惜しまないことが大事」
「チマチマした戦いになりそうだのう」
コサブロウさんは言った。
「お主の防御魔術を応用できぬか?」
コイチロウさんが言い出した。
「聖属性の結界とか言うものを我らの槍に被せるのだ。そうすれば、我らの槍は聖属性の武器となる」
「無理です。結界はある程度僕の意思で動かせますが、僕の意思を越えた動きはできないんです」
三人兄弟の槍は、僕の認識をはるかに越えている。
「えぃ、二層など飛ばして、一気に三層に行ってしまえば良いのだ!」
コジロウさんが言いだした。
そうだ、それだよ。
「実は僕もそれを考えていたんです!」
一層から二層に降りる階段は、東側のダンジョンにある。そして、二層の入り口から三層へ降りる階段までは、それほど遠くない。
冒険者達の主要街道になっていて、比較的通り安い通路らしい。
一層・二層と違い、三層は、巨大なフィールド・ダンジョンだ。(僕はまだフィールドダンジョンには行ったことがない。本当に地下に森や草原があるのか?)銀色狼、大角鹿など大型哺乳類型のモンスターが多く出る。良質な狩場で、ここをメインに活動している冒険者も多い。
二層のアンデッド・モンスター相手に苦戦するより、実りある探索になりそうな気がする。
「面白そうだの」
コイチロウさんが言った。
「だだし、僕は三層に行ったことがありません。まずは情報を集めないといけません。
キンバリーは、三層に行ったことがある?」
「レイラさんと一緒に少しだけ。階段に近い辺りを探索した。本格的な狩りはしてない。
三層に行くなら、ちゃんと勉強してから行きたい」
「どうでしょう?みんなの意見を聞きたいのですが」
「思いっきり暴れられるのはいいな」
コサブロウさん。
「面白そうなことは大歓迎だ」
コジロウさん。
「リーダーに賛成だ。運試しには持ってこいのようだ」
コイチロウさん。
「勉強」
キンバリー。
よし、だいたい意見はまとまった。
「まずは、三層を目指す方向でいきましょう。それにあたって必要な情報と装備の入手、どんな技術を身に付けるかですが……」
「俺達がなぜEランクなんだよ!」
何処かの誰かが言ったようなセリフが聞こえて来た。
短く刈り込んだ黒い髪に、黒い目、日に焼けた肌、身長は三兄弟ほど高くないが、筋骨逞しい、若い男。何処かで見たような?
「お主は、ロイメのダンジョンはまだ潜ってないようだな。まずはそれからよ」
コサブロウさんが振り返って声をかける。……余計な事を。
「そういうお前は何ランクだ?」
「Cランクだ。ジャイアント・ムカデを討伐したところだ」
「ジャイアント・ムカデだあ?あんなの魔術で燃やしちまえば一発だろ」
コサブロウさんが苛ついたのがわかった。
入り口から、新顔が入って来た。焦げ茶色の髪と目、ひょろっとした男だ。装備からしてスカウト。僕より少しだけ背が高い。
「何騒いでるんス、ダグ。冒険者ランクなんてすぐ上がるッスよ」
そう、その通り。気にしなくて良いんだよ。
その時、ひょろっとした男が三兄弟の槍に目をつけた。
「ずいぶん長い槍ッスね」
ダグと呼ばれた筋肉質の若い男が、それに気づく。
「こんなデカブツじゃあ、立ち回りもできないだろう。お前こそ、ダンジョンの素人だな」
「我ら先祖伝来の槍を馬鹿にするのか!」
コサブロウさんが猛った。
ああああ。
冒険者ランクは何のためにあるのか?
冒険者同士の序列を決めて、このような事態を避けるためである。
「素人を素人と言って何が悪い。やるなら、相手になるぞ」
ダグは僕達のテーブルを見回した。
「こいつはリーダーって玉じゃないな?お前らのパーティーのリーダーは誰だ?」
「……僕です」
僕は立ち上がった。立ちたくなかったけど!すっごく立ちたくなかったけど!!