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02. 差出人のない手紙

僕は冒険者クランのロビーに一人になった。


こう言う事は初めてじゃない。

小さい頃、近所の友達は、とろい僕がいない方が楽しいと言う結論に達し、僕をおいて出かけて行った。


魔術師学院では僕が防御魔法について語ろうとすると、皆口をつぐみ、曖昧に笑って席を立った。


そう、初めてじゃない。

でも、命を預けて共に戦った『暁の狼』のメンバーに裏切られたのは、堪えた。


僕は防御魔法使いだ。目立たないが大事な役割だ。戦いの途中で防御結界を壊した事はパーティー結成以来一度もない。

『暁の狼』が大きな怪我なく戦ってこれたのは、僕の魔法のおかげだと思う。

でも、彼らは僕を裏切り、僕を切り捨てた。僕への借金と共に。


「パーティー崩壊か……」

「呆気なかったな……」

ロビーのあちこちからそんな声が聞こえて来る。

僕はいたたまれなくなって、ロビーを出た。




次の日、僕は魔術師クランに来ていた。魔術師クランの親父の研究室に荷物を持ってきたのだ。

二日酔いで頭が痛い。

昨日は、金もなかったし、実家で親父の酒を飲んでそのまま寝てしまった。


飲んでる内に気が付いたことがある。バーディーは僕について他の3人に根回しした上で、追放したのだ。

僕の追放について話し合う『暁の狼』のメンバーを妄想してしまい、悪酔いした。


起きたら、怒った親父がいて、魔術師クランへのお使いを命じられた。


「クリフ君、手紙が来てるよ」

研究室へ行く途中、魔術師クランの受付のオジサンから声をかけられる。

「冒険者として成功する方法教えます」

手紙の表にはそう書いてあった。



冒険者クラン『青き階段』。

その日の午後、手紙に書いてあった場所に僕は来ていた。

看板はまだ新しく、できたばかりのクランなのかもしれない。


僕は扉を開け、クランの受付に向かう。受付には眼鏡をかけた綺麗な黒髪の女性が座っていた。首の後ろで髪を一つに結んでいて、わずかにとがった耳をだしている。ハーフエルフだろうか?いわゆる眼鏡美人である。


「この手紙をここの受付に見せれば良いと言われたのですが」

彼女の眼鏡の奥の青みがかった灰色の瞳が光った。

「こちらの席でお待ち下さい。差出人を呼んで参ります」

彼女は受付の三角ボードをひっくり返した。「受付」が、「しばらくお待ち下さい」になった。


「やあ、君が防御魔法使いのクリフ君だね。こんなに早く会えるなんて嬉しいよ」

にこやかに手を差し出して来たのは、生え際が後退しまくった中年のおっさんだった。

弓士なのか、背中に弓を背負っている。頭は禿げ(もうこれでいいだろ)ているが、身体つきや身のこなしは軽い。思ったより若いのかもしれない。


僕は差し出した手を握らない。

「詐欺師の顔拝んでやろうと思って来たんですよ」

「?」

「いいですか。冒険者として成功する、これは儲け話です。

そして、僕は、儲け話を赤の他人から持ち込まれたら詐欺を疑います。儲け話を他人と共有したりしません。自分一人で独占します」

そう。いろいろムカついていた僕は、手紙の差出人を派手に論破してやろうと思ってここまで来たのだ。


禿げのオッサンは、宙に浮いた自分の手を見た後、ふてぶてしく笑った。

「君の言うことは一面正しい。でも、金儲けは一人で何もかもできる訳じゃない。そして、儲かるダンジョン探索を行うには、信頼できる良いパーティーメンバーが必要だ。そうだろ?」


その通りだ。


一人でいくつかのパーティーを渡り歩くフリーの冒険者もいる。しかし、彼らの多くは浅層探索の数合わせ要員や荷物持ちだ。

魔術師クランでダンジョン探索パーティーが結成されることもある。しかし、これもいきなり深層に潜らせてもらえる訳ではない。人事の都合と言うものがあるのだ。

四層以下のダンジョン深層へ潜るためには、独自のパーティーを組む必要がある。


そして、信頼していたパーティー仲間は僕を不要と判断した。


「つい昨日役立たずとしてパーティーを追い出された人間ですよ、僕は」

「彼らは見る目がなく愚かだった」


僕はこの詐欺師かもしれない禿げのオッサン冒険者の話を聞くことにした。

確かにそれは、僕が今一番聞きたいセリフだったのだ。


「僕をあなたのパーティーに勧誘してくださるんですか?」

「ちょっと違う。もちろん君の実力は知ってるし、必要なら一緒にパーティーを組んでもいいよ。でもどちらかと言うと君への儲け話なんだな」

「僕は儲け話のネタになりませんよ?」

「なるさ。そもそもなぜこのタイミングで、君に手紙を渡せたと思う?君のパーティーに注目して、情報を集めていたからだ。そして、君のパーティーが解散したと聞いて、すぐに手紙を書いたんだよ」


「『暁の狼』の残りのメンバーにも手紙を書いたんですか?」

もし、そうならバーディーやサットンも来るのかもしれない。いささか気まづい。


「いや、彼らには手紙は書いていない。

俺は、いや冒険者クラン『青き階段』は、君、いや君を中心としてこれから結成されるパーティーの将来性に注目してるんだよ」


その時、受付にいた眼鏡美人のハーフエルフさんが僕の隣の席に笑顔で座った。

「当クラン『青き階段』は将来有望な冒険者を募集中です」

そして、書類を差し出す。クランの入会書類だ。

危ない、思わず言われるままにサインしそうになったじゃないか!


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