19. ズルイ大人
その日は、『三槍の誓い』とトビアスさんとダレンさん、ユーフェミアさんとレイラさんで打ち上げをした。
どの店に行くかは、三兄弟の「肉!肉!」コールにより焼き肉屋となった。
大きな魔石コンロの上に、鉄の網を置き、その上で肉を焼く店である。
隣にユーフェミアさんが座ってくれたのが、ちょっと嬉しい。
初めて食べるタイプの店だったが、確かにうまい。三兄弟は一言も口を利かずに食べている。キンバリーさえかなり無口だ。いや、彼女は元々無口か?
話しているのは、僕とトビアスさんだ。ダレンさんはニコニコしながら聞いている。
「それで、ジャイアント・ムカデがすごくしつこかったですよね」
「あんなの炎の矢で燃やせば一発でしょ」
と、レイラさん。
……そうなんですか。
次の日クランに揃った『三槍の誓い』は、ユーフェミアさん監督の下、今回の探索の決算を行うことになった。
大きい魔石の鑑定はLv2。50万ゴールド。
小さい魔石は全てLv1。
10万×2、5万×4、1万×4。
合計94万。
ジャイアント・ムカデの甲羅が5000×6。
スライム核・高品質 500×1。
これに報償金30+6万を足して133万500ゴールド。
びっくりの金額だ。
なお、『暁の狼』では、一回の探索で最も稼いだ時でも24万ゴールドほどだった。今でも良く覚えている。
今回の探索の目標は、僕の立てた30万ゴールドだったが、あっさり突破した。
「だから言ったろ。30万ゴールドは低すぎる。40万ゴールドを目標にしろって」
トビアスさんは言った。
僕としては、30万ゴールドもかなり無茶な金額だったんだけどな。
僕は最初は20万ゴールドを主張したのだ。最初の探索だから、必ず達成出来る目標にしたかった。
一方、トビアスさんは、40万ゴールドを主張した。目標は高くて良い。ただし、無理だと思ったら目標にこだわらず帰還する決断をしろ、と言うのだ。
結局、ユーフェミアさんが間を取って目標30万ゴールドと言うことになった。
「まあ、結果が全てだ。良いではないか。我々は元々今回の探索で100万ゴールドは稼ぐつもりだったぞ」
大きな声で言ったのは、コジロウさん。目標金額の設定については、三兄弟は、あまり頼りにならないのかもしれない。
ダンジョン探索にリスクは付き物だ。
『暁の狼』時代は、リスクとは採算割れだった。早い話が、保存食が切れる前に何匹毒スライムを見つけられるかが、勝負だった。
最初は、噴水広場付近で良く見つかったが、だんだん狩り尽くしてしまった。
そして、一層の西のダンジョンに行き、新しい獲物としてジャイアント・スパイダーに挑戦して、魔石は出ず、・・・僕は、パーティー追放に至ることになる。
『三槍の誓い』では大物を狙いが増えるのは間違いない。
今回のように稼げる日もあるが、怪我をして全く稼げない日もあるだろう。
僕は、冒険のリスク管理のイメージを改める必要があるのかもしれない。
「今回は、毒消しと中級エリクサは経費、槍の磨ぎ代も経費、保存食他、諸々の買い物代もちろん経費、打ち上げ代も経費、その他もちょっとオマケして20万くらい経費にしておきましょう。
差し引き77万500ゴールド。
1人あたり、11万ゴールド。なお、500ゴールド以下の端数はパーティー経費の一部になります」
あれっ?
「ジャイアント・ムカデの討伐報酬が入っていませんよ」
「『三槍の誓い』がジャイアント・ムカデに出会ったのは、トビアスさんとダレンさんのミスもあると判断しました。
調査が不徹底です。あのタイミングなら噴水広場で聞き込みをすれば、北が危険だと言う情報は集まった可能性が高いです」
「あくまで可能性だ」
トビアスさんが反論した。
「西に行くはずだったが、我々が北に変更したいと言い出したのだ」
コイチロウさんが言う。
「そもそも、ジャイアント・ムカデの討伐にお二人はたいして役にたってないようですし」
「役にたってないのは、私も同じ」
キンバリーが言った。
「皆さん、トビアスさんをかばいますが、この二人にはクランから別にガイド代が支払われます。全員無事に期限までに帰還の条件を満たしていますから、こちらは満額です。本来なら、こちらを削りたいのですが」
「ジャイアント・ムカデの情報があれば、なおのこと兄者は行く言ったと思うがな」
コサブロウさん。
「ユーフェミアさんの言う通りだと思う」
静かに発言したのは、ダレンさんだ。
「だが、割り増し報酬は、トビアスがもぎ取って来たものだ。本報酬は、『三槍の誓い』に、割り増し分は、俺達にと言う分け方でどうだろう?」
僕達は30万÷5=6万、
トビアスさんとダレンさんは6万÷2=3万と言うことか。
「俺はそれで良いと思うぞ」
コイチロウさんが言った。
この発言で決着となった。
「今回はここで退散するよ。探索の分け前とガイド代は次来る時にまとめて貰う」
トビアスさんが言った。
「分かりました」
トビアスさんとダレンさんが立ち上がる。
「待って下さい」
僕はトビアスさんに声をかける。
「僕に手紙を書いてくれてありがとうございました」
そして、右手を差し出す。
「俺の言った通り儲け話だったろ?」
トビアスさんはニヤリと笑うと握り返してくれた。
「あまり信用しちゃダメですよ。トビアスさんは結構ズルイ大人ですから」
ユーフェミアさんは言った。
「気をつけます」
今思えば、ギルド職員に食ってかかったのも、後ろめたさを隠すためだったのかも知れない。
でも、トビアスさんは僕に取って、良い人だった。
だけど良い人だからと言って、何でも語ってくれるとは限らない。
当たり前だ。
多分、トビアスさんは、ズルイ大人として、僕に親切にしてくれたのだ。
しかし、「ズルイ大人」としてのトビアスさんに評価されたと言うこと、
これは結構凄いことではないだろうか?
僕は、自分自身をもう少し高く評価しても良いのだろうか?
よろしければ、ブックマークと評価をお願いします!
なお、ジャイアント・ムカデは、レイラさんのやり方で丸焼きにすると、甲羅が取れません……。