189. それ、僕が一緒に行く前提になってませんか?
いつまでも勝利の余韻に浸ってはいられない。
今後の方針を決めなくてはいけない。
「ここから第三の泉はどうやって行くんですか?」
僕は質問した。
「第三の泉へは行かない。ここで撤退する」
ザクリー・クランマスターは宣言した。
「それは……」
ザクリー・クランマスターの言葉は予測していた。
でも、やはりショックだった。
僕としては、もう少し行けそうな気がするんだよ。
イリークさんもいるし。
「第二の泉と第三の泉の間はかなり距離がある。数日かかる。
こんなダンジョンが不安定な時に第三の泉まで行くのは無理だ」
ソズンさんは言う。
「吸血鬼が出た。ここが潮時だろう。
吸血鬼と亡霊が同時に出たらどうする?
この先に進むには、クリフ君が3人ぐらい必要だ。」
ネイサンさんが言った。
その時、トムさんがやってきた。
「クランマスター。
共鳴石の信号でレイラさん達の本陣から連絡があった。
信号は、トン・トトト・トントン、援軍に来てくれの意味だ。
どうも、あっちも大変らしい」
どうやら選択の余地はないらしい。
帰還の道は『死霊大通り』だ。
今いる第二の泉から『死霊大通り』を戻れば、本隊との合流できるはずである。
完徹の強行軍である。かなりきつい。
しかし、僕がきついと言うことは。
「ホリーさん、キンバリー」
僕は2人に声をかける。
「メリアンがだいぶ疲れているみたいだ。
気をつけてやって欲しいんだ」
「わかったわ。
私はずっと休んでいて、体力に余裕があるから大丈夫」
ホリーさんが言う。
「気をつける。
それより、クリフ・リーダーは大丈夫?」
キンバリーは言った。
言われてしまった。
「……まあその、大丈夫だよ」
僕は言った。
ちょっとやせ我慢が入っている。
帰りは思ったより楽だった。
中衛の両側にハロルドさんとダグがついた。これで食屍鬼は結界に突っ込んでこれない。
心理的な安心感が違う。
名前を知らない4人も第二層のベテランだ。アンデッドのあしらい方も堂に入ったものだった。
出てくるアンデッド魔物は、お馴染みの食屍鬼とスケルトン、時々ワイト、1番怖いのがスケルトン戦士。
途中で、亡霊がいたが、僕の結界に近寄っては来なかった。
生者と死者は互いに距離を取る。これで良いのである。
角を3回ほど曲がった。
「あれは何だ?」
コサブロウさんが言った。
「何でしょう?
光を反射して……、水の壁?」
『死霊大通り』の奥に巨大な水の壁があった。
「マデリンだな。
救援は間に合ったようだ」
ザクリー・クランマスターは言った。
近寄ると水の壁は、なかなかに絶景だった。
水は『死霊大通り』の巨大な空間を区切って存在している。
僕達が近寄ると水の壁は自然に穴があき、通してくれた。
もう突っ込んでも仕方ないが、凄い術式コントロールである。
「待ってたわよ」
水の壁の前で仁王立ちしたレイラさんが言った。
「この壁は何のためだ?」
ザクリー・クランマスターが聞く。
「奥から亡霊が来たから、マデリンに結界張らせて待機していたのよ」
「水結界で亡霊が防げるんですか?」
僕は聞いてみた。初耳である。
「防げないわよ。
でも、亡霊も水のマナに接触すると動きが鈍くなるから、そこを聖属性で叩くのよ」
二段構えの作戦か。
魔術にもいろいろ使い道がある。
「第二の泉にいたのは、これだけなのね?」
レイラさんは確認する。
「そうだ。10人だ。
そっちは何人か被害がでたか?」
ザクリー・クランマスターは言う。
「死人は1人。亡霊にやられて長引きそうなのが2人」
最初に死んだ者と合わせて4人。助けたのは第一の泉と第二の泉を合わせて31人。
これは、採算は取れていると言うべきなのか?
「そんなわけで、こっちは亡霊だったけど、そっちは何が出た?」
「吸血鬼だな。魅了スキルも使った」
レイラさんは軽く天を仰いだ。
「諦めがついてスッキリした。撤退ね。
神殿のパーティーにも連絡いれないとね」
本隊と合流はしたが、『死霊大通り』のど真ん中でキャンプをするわけにもいかない。
あともう少し頑張るしかない。
第一の泉までだ。
結局、第一の泉についたのは早朝だった。
メリアンじゃないけど言うぞ。言ってやる。
あー、疲れた!すごーくくたびれた!
第一層まで戻る気力も体力もない。
僕1人でも、ここでキャンプしてやる。
冒険者達も僕と同じ気持ちだったようだ。
ここでキャンプをし仮眠を取ってから、第一層へ戻ることになった。
キャンプの場所取りをしようと周りを見回していた時だ。
「あなたは何者ですか?」
突然声をかけられた。
えーと、でぶハイエルフのケレグントさん?
何者って僕はクリフ・カストナー、……いやケレグントさんが問い詰めているのはイリークさんだ。
「その黄金の髪と長身、あなたは西方の黄金エルフ族ですか?」
ケレグントさんは言った。
僕は目が覚めた。
イリークさんが西方エルフ族じゃないかという噂はある。
本人は水辺のエルフ族だと言っているが。
まさかイリークさん本人に直接問い詰める猛者が現れるとは。
「いきなりヒトに質問する貴様は何者だ?」
イリークさんは言った。
「私は東方エルフ族の者です。
ロイメでゲートの管理をしています」
「それぐらい貴様がデブなのと同じく、見れば分かる。
聞いているのは名前だ」
さすがイリークさん。東方ハイエルフにも遠慮ないなぁ。
「私はケレグントといいます」
「私はイリークだ」
「それであなたは西方エルフ族ですか?」
「私は水辺のエルフ族だ」
「しかし、その金髪、その身長、単なる水辺のエルフ族とは思えません」
「私のルーツを知りたいか?」
イリークさんは微かにニヤリと笑いながら言った。
「知りたいですよ。すごく知りたいです」
「我々に協力するなら教えてやろう」
「私は冒険者の個人的な利害に協力するわけには……」
「個人的な利害ではない。救援活動だ。
我々『雷の尾』は、これから第三層に潜り、亡霊のダンジョンに行く計画を立てている。
亡霊のダンジョンの奥深く、不格好な穴がある。
その穴の向こう、吸血鬼の領域が目的地だ。
我々の考えでは、その穴からそう遠くない所に第三の泉がある」
あの吸血鬼が出た穴か!
いやいやいや。凄い話になっている。
……それにしてもだ。
イリークさんに1つ聞きたいことがある。
その探索、僕がいっしょに行く前提になってませんか?
何故かわからないけど、、そんな気がするんですよ!
「第13章 地の底から」はこれにて完結です。
次章は「第14章 地の底へ」です。
今しばらくお付き合いのほどよろしくお願いします。