188. 救助
ニールには、メリアンが嫌そうに中級治癒術をかけた。
また、ニールの太ももを食屍鬼の爪がかすったとかで、マデリン印の毒消しも使うことになった。
「皆さんひどいですよ、見捨てようとするなんて。
だいたい私は、クリフさんの方へ来ようとする食屍鬼を倒そうとして、反撃されたんです」
ニールは言った。
「……ありがとうございます」
僕は一応礼を言った。
ニールの言ってることが本当か嘘かイマイチ良く分からないんだよな。
六叉路では乱戦で、良く見てなかったし。
まあいいか。
どうせ報酬は変わらないのである。
吸血鬼を討伐した後、アンデッド魔物の勢いは一気に弱くなった。
僕達は無事に六叉路広場を通過することができた。
さて、次の問題である。
「どこ道へ入れば良いのだ?」
コジロウさんが左右を見回して言った。
何しろ6本の通路が交わっている。
そして、ダンジョンの中は目印になる地形もないのである。
トムさんの案内で僕達が入った道は、今までで1番細い道だった。
これが第二の泉への抜け道になる。
細い通路で、襲ってくるアンデッド魔物は少ない。
僕達は早足で歩く。
3回鍵型の角を曲がった。
そして4回目に曲がると、ワイトと食屍鬼がみっしり通路に詰まっていた。
来たよ。
「メリアン、魔術を飛ばせ。なるべく薄く広く通路の先まで」
先頭で、指示を出したのは、ソズンさんだ。
「聖なる火花」
メリアンの魔術がパチパチと音を立てながら、広がっていく。
いいぞ。アンデッド魔物は、あるものは後ずさり、あるものはしゃがみ込み、混乱している。
ダメージはなくても、十分だ。
それにしても、メリアンの『聖なる火花』は使えるなあ。
魔術師クランに報告入れておくか。
ソズンさんがしゃがみ込んだ食屍鬼を二体同時に灰にした。
ソズンさんの戦闘斧は、レベル2の聖属性の石が仕込まれている。
アンデッド魔物は、もはや烏合の衆である。
それでも、「みっしり」の食屍鬼とワイトを片付けるのは大仕事だ。
見える範囲であと何体いるんたろう?
僕が、数えてみようとした時。
「聖槍」
誰かの声が聞こえ、1番後方にいたアンデッドが何体かが灰になった。
この声は?
「おら、成仏しろや。死人風情が態度でけぇんだよ!」
この柄の悪い声も聞いたことあるぞ。
「我々は第二の泉から救援に来た。あと少しだ!」
これは、分かる。ハロルドさんだ。
ちなみに救援に来たのは僕達の方な。これは断固主張するぞ。
蠢くアンデッド魔物の向こうに、イリークさん、ダグ、ハロルドさんの3人組が見える。
魔術灯の中でも、イリークさんの金髪とハロルドさんの銀髪は良く目立った。
烏合の衆のアンデッド魔物を前後で挟み撃ちである。
思ったよりも早く片付きそうだ。
最後のアンデッド魔物を灰にし、僕たちは、『雷の尾』と感激の再開を果たした。
そして。
「デイジー、君が来てくれるなんて!」
ハロルドさんはデイジーを抱きしめて、頬ずりすした。
デイジーは、ぼちぼちといった感じで尻尾を振っている。
デイジーにしろ、メリアンにしろ、モテる女も楽ではないのかもしれない。
僕はそんなことを考えた……。
デイジーにメロメロのハロルドさんは、イリークさんのこれ見よがしな咳払いで正気に戻った。
「ザクリー・クランマスター、皆さん、ここまで救援に来て頂いてありがとうございます」
ハロルドさんは立ち上がり、頭を下げた。
ハロルドさんによると、第二の泉には、『雷の尾』の残りのメンバーと、他に4人が避難しているらしい。
他4人の名前も教えてくれたが、聞いたことのない名前だった。
『青き階段』の冒険者ではない。
別のクランの冒険者だ。
第二の泉は角を曲がってすぐだった。
通路を抜けると、ホールのような広場があり、そこに聖属性の水が湧き出る泉があった。
泉の側に、『雷の尾』の残りのメンバー、ウィルさん、ホリーさん、ギャビンと、僕が知らない4人の冒険者がいた。
今度こそ感激の再会である!
「皆さん、デイジーそれから……」
ホリーさんは僕達の顔を見た瞬間、感極まって泣き出した。
そんなホリーさんの手をデイジーが舐める。
ホリーさんはデイジーを抱きしめた。
「戦っている音は聞こえたんスよ。
でも、本当に来てくれるなんて。
感激ッスよ。この恩は忘れないッス」
ギャビン。
「クランマスターも皆様も、ここまでご足労頂きありがとうございます。
ここにいる者達で脱出も考えましたが、ハロルドさんが救援が来る可能性はあると言うので、信じて待っていました。
本当にありがとうございます」
ウィルさん。
残りの4名も口々に礼を言った。
「このまま新月になって泉の水も枯れて、アンデッドの仲間入りかと思っていたよ……」
「いやもう、グスン、二度とダンジョンから出れないかと思った、グスン。
……ありがとうございます!」
ハロルドさんと『雷の尾』から、異変があった時の第二層の有様も聞くこともできた。
3日前の午後、突然ダンジョンが揺れたのだそうだ。
その後ゾンビにスケルトンに亡霊に食屍鬼と、うじゃうじゃとアンデッド魔物が出てきたらしい。
「この世の地獄かと思いましたよ」
ウィルさんは言った。
「我々は運が良かった。
第二の泉の近くにいたし、イリークがいた。
この周辺にはもっとたくさん冒険者がいたと思う。
しかし、第二の泉へ避難できたのは、この10名のみだ」
ハロルドさんは言った。
ダンジョンで冒険者が死ぬのは、当たり前のことだ。
でも、やはり切ない。
今回の第二層で、何人の冒険者が死んだのだろう?
とりあえず、僕達は泉の側で休憩することになった。
メリアンは、うとうとしている。
あ、チェイスのオッサン、完全に寝てやがる!
まあいい。
『青き階段』、そして何より『三槍の誓い』、第二の泉へ一番乗りだ!
やったぜ!!
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