187. 六叉路
「隊列を組み直す」
ザクリー・クランマスターが言った。
隊列について書く。
まず前衛第1列はコジロウさんとコサブロウさんとソズンさんである。
道を切り開くのは彼らの役目だ。
前衛第2列は、『デイジーちゃんと仲間達』とワリアデル。
なおマッピングは、第二の泉のまで行ったことのあるワリアデルと、トムさんが担当する。
中衛第一列はフセヴォロとメリアン。
中衛第2列は僕とニール。隣のニールはいけ好かない奴だが、仕方ない。
中衛第3列はキンバリーとディナリルさん。
最後、殿はコイチロウさんとザクリー・クランマスター。以上。
「ここから先は曲がりくねった道です」
ワリアデルが地図を確認しながら言う。
「今の所、地図と見比べて変化してる場所はないな」
僕も一応地図は見ている。トムさんと同意見である。
振り向くと、キンバリーも頷いた。
まあ、マッピングはトムさんに任せて間違いないたろう。
「問題は、この先の六叉路か」
「小さな広場のようになっています。魔物に囲まれると危険です」
「その六叉路は通らなくてはいけないのか?」
コジロウさんが脇から口をはさむ。
「ほぼ無理です。迂回すると、丸一日以上の遠回りになります。
さらに、迂回路は時々変化する不安定な道です」
「迷うと危険だ。皆の体力の問題もある。このまま行く」
ザクリー・クランマスターは決断した。
六叉路。1つの道に2本の道が同時に交わっている。ダンジョンの中でも珍しい地形だ。
「聖属性持ちは、攻撃魔術を惜しむな」
ザクリー・クランマスターは言った。
理想を言うなら、早足で六叉路広場を駆け抜けたい。
それが、可能ならば。
僕達が六叉路広場に足を踏み入れた時は、食屍鬼が数匹襲って来ただけだった。
しかし、途中で状況が変わる。
スケルトン戦士、ワイト、そして食屍鬼が一気に両側の通路から出てきた。
「聖なる火花」
メリアンが攻撃魔術を使う。
うーん、あんまりダメージいってないな。でも、足止めにはなる。
そしてそこを
「やっ!」
「はっ!」
コサブロウさんの槍とソズンさんの戦闘斧が一撃を見舞う。
さらに。
「聖弾」
ニールが足止めされていたワイトに攻撃魔術を放つ。
あっという間にアンデッド魔物3体が灰になった。
メリアンの「聖なる火花」は意外に役に立った。
以前、メリアンは聖属性は苦手だと言っていた。
これは本当の事だろう。僕から見ると、『聖なる火花』は力の焦点が合っていない魔術だ。
だが、その分薄く広く聖属性の魔力が空間を伝わる。
足止めや牽制にはもってこいだ。
チームで戦う前提なら、かなり使える。
魔術は使い所が重要なのである。
「気をつけろ!右から来たのはバンパイアだぞ!」
ソズンさんの大声が六叉路広場に響き渡った。
吸血鬼。有名な大物アンデッド魔物である。
とても頑丈で、聖属性魔術を用いても、一発程度では滅ぼせない。
魅了スキルを持ち、冒険者達を操ることもある。
一部の上位種は高度な知性を持ち、魔術を扱う者すらいる。
はっきり言ってヤバい魔物だ。
僕達の目の前に現れたバンパイアは、目が赤く、とても顔色が悪い人間のようにも見えた。
乱杭歯がなければだがな!
ニールがふらりと吸血鬼の方へ一歩踏み出す。
まさか、魅了スキルにやられたか?
ドスッ。
コイチロウさんの槍が飛んで来て、ニールの肩に当たる。
ニールは、たまらずしゃがみ込む。
痛いだろうな。
まあ、魅了スキルで死者の領域に引きずり込まれるよりマシだろう。
「クリフ・カストナー、結界を精神操作属性の防御結界へ切り替えろ!」
ザクリー・クランマスターの声が聞こえる。
「分かりました!」
僕は、指示に従い結界を切り替える。
魅了スキルからは皆を守れる。でも、これで聖属性結界はなくなった。
「食屍鬼より吸血鬼を優先しろ。
あの吸血鬼は、下級種だ。
皆で一気に討伐しろ!」
再びザクリー・クランマスターの指示が入る。
「聖弾」
フセヴォロが攻撃魔術を放つ。が、吸血鬼はこれを避けた。
コイチロウさんが槍で吸血鬼の足元を払った。
吸血鬼は、バックステップでかわす。
さすが吸血鬼、賢い。
でも、コイチロウさんの足払いはフェイントだった。
ドスッ。
コジロウさんの槍が吸血鬼の腹を貫く。吸血鬼の体から、赤い血が滲み出た。
「聖槍」
槍で串刺しにされた所をディナリルさんの中級聖魔術が襲う。
吸血鬼は灰と化した。
やったぜ!討伐成功だ!
「結界を切り替えろ。聖属性だ!一気に進む!」
三度ザクリー・クランマスターの指示が飛ぶ。
「ちょぉっと待って下さい!
治癒術かけて下さい!
痛みで走れませーん」
ニールが言った。
……そう言えば、さっきはかなり痛そうだったね。




