184. 3つのパーティー
「デイジー、隠れんぼはやめます。
だから、これ以上引っ張るのはやめて下さい。
あっー、袖が破れる!」
でぶエルフこと、ケレグントさんはデイジーに引っ張られてやってきた。
「こちらの方は?」
冒険者ギルドの偉いさんは聞いた。
「はじめまして、ハイエルフです。
本国から、ゲートの監視を仰せつかっております」
「それはっ」
冒険者ギルドの偉いさんは、背筋を伸ばし、びっくりするぐらい畏まった。
こいつ思ったより小物だな。
小物の縮こまり方は特別としても、ハイエルフのネームバリューは相当だった。
そこにいた者は、エルフ族やドワーフ族も含めて背筋を伸ばす。
「これから亡霊が増えるというのは本当なのか?」
そんな中、発言したのはドワーフ族の男である。
「ゴホン。それでは、第二層予報いきまーす。
今は、食屍鬼とスケルトンばかりですが、時間と共に亡霊または、他の強いアンデッド魔物が出てくるでしょう。
単独行動はいけません。
出歩く際は、聖水の準備を忘れずに。
また、本日の月齢は19。
新月に近づくにつれて、安全地帯の聖なる泉の水量は減って、アンデッド達は強力になります。
第二層に長居は不要です。
その上で、ここはダンジョン!
何が起きるかは、起きるまで分からないと言うことで!」
ケレグントさんは、無駄に明るくハイテンションである。
なんというか、ヤケクソっぽい。
まあ、隠れている所をデイジーに見つかっちゃったしな。
「もう一つ聞く。
ハイエルフ殿、今回の件、協力する気はあるのか?」
ドワーフの男は再度聞いた。
「申し訳ありませんが、ここまでです。
できる限り不干渉。これが東方エルフ族の原則です。
また、このようなダンジョンが不安定な状況での大規模魔術の行使は、リスクがあります。
私のことは空気だと思って下さい」
「フン。相変わらずだ」
「休憩は必要だが、朝まで取る必要はないな」
僕の親父、カール・カストナーが唐突に発言した。そして続ける。
「部隊を分けることにも賛成だ。
今、第二層で活発に動いているのは、我々だけだろう。
ダンジョン側の戦力を一箇所に集中させない方が良いと思う」
その後、これからの方針を巡って喧々諤々の話し合いがあった。
ここは結論だけを書く。
部隊は3つに分けることになった。
3つのパーティーが、それぞれ第二の泉を目指す。
大半の冒険者は、今まで通り死霊大通りを大勢で進む。
中心になるのは、レイラさん、マデリンさん、そして、親父をはじめとする『魔術師クラン』のメンバー。
シオドアとネリーもいたな。
西側のルートを進むのは、神殿の神官を中心とする精鋭パーティーだ。
一部のエルフ族やドワーフ族も加わっている。
そして、東側は『青き階段』の精鋭パーティー。
ルートを1つ任されるなんて、『青き階段』すごくない?
ただ『青き階段』だけだと上級治癒術の使い手が足りない。
「我が同胞から1人出そう」
エルフ族の女魔術師、ディナリルさんだっけ、は言った。
ヨシッ!
「共鳴石をお貸しします。
非常に貴重な物なので、大切に使って下さい」
冒険者ギルドの小物の偉いさんが言った。
共鳴石は、ハイレベル魔石が割れた時、偶然できることがある魔道具だ。
空間を超えて、互いの振動を伝え合う石だ。
これで、3つの部隊は連絡を取ることができる。
そんなわけで東側ルートのメンバーである。
まずリーダーは、ザクリー・クランマスター。
サブリーダーは武術師範でドワーフ族のソズンさん。
『三槍の誓い』の6人。
『デイジーちゃんと仲間達』の3人とデイジー。
エルフ族から来た上級治癒術の使い手は、なんとディナリルさん当人。
そして射手のワリアデル。ディナリルさんとは姉弟らしい。
ドワーフ族のフセヴォロ。
付いてくると言い張った『禿山の一党』ニール。
以上15名と一匹。
聖属性結界の大きさを考えてると人数はこの程度が妥当だろう。
帰りは人数が増える可能性も高い。
僕としては、デイジーが側にいるのがとても心強い。
いざという時は、デイジーから魔力を分けてもらえる。
何よりかわいい。
トビアスさんはどうなったって?
『青き階段』の残りのメンバーと一緒に中央のルートだ。
ユーフェミアさん?
ええと、ザクリー・クランマスターの命令で、朝から一層で書類仕事をしていたよ。
これだけ大勢を動かすとなると、冒険者の管理やら、物資の管理やら、いろいろ必要になる。
ユーフェミアさんは不満そうだったけど、適材適所だと思う。
「じゃ、行くかの」
ザクリー・クランマスターの一声で僕達は立ち上がる。
冒険者達の大半はまだ休憩中だ。
東のルートは死霊大通りより遠回りになる。
さて、どのパーティーが早く第二の泉に着くかな?
「気をつけて行けよ」
行きがけ、親父は言った。
「あ、はい」
僕は答えた。
親父と話すのは、火薬騒ぎ以来である。
枝分かれした東側の道は、死霊大通りよりはだいぶ狭く、天井も低い。
壁が近いので、簡単な浮き彫りの装飾があることが分かる。
(亡霊のダンジョンほど精緻ではないな)
僕は考えた。
襲ってくるアンデッド魔物は、食屍鬼、スケルトンが主だ。
今のところ、ナガヤ三兄弟とソズンさん、『青き階段』の誇る前衛4人で十分対処できる。
そして。
ヒュン、ドスッドスッ。
ネイサンさんとチェイスさんが放った矢が食屍鬼のにほぼ同時に当たる。
食屍鬼は灰になった。
『青き階段』の遠距離攻撃部隊がなかなか優秀だった。
ネイサンさんとチェイスさんの後ろには、聖水の樽を担いだトムさんがいる。
2人に聖水をつけた矢を次々と渡しているのである。
3人は最初は別々に射ていた。
しかし、チェイスさんがいちいち聖水に矢を浸すのが面倒くさいと言い出し……、結局このフォーメーションが1番効率が良いということになった。
「クリフ、結界をちょっと左に寄せろ。
あそこにさっきの矢が二本落ちている」
トムさんが言う。
「了解です」
僕は言い、指示通りに結界を動かす。
ヨシッ。落ちてる矢が結界に入った。
キンバリーとメリアンが走って矢を拾いに行く。
そんなわけで、僕達の進度はまぁまぁだった。
第二の泉に1番乗りできるかな?
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