181. 各々の意見
レイラさんは相変わらず道化師を思わせる派手な服だった。
ただ普段と違い、無骨なブーツを履き、手袋をしていた。
その手には白銀に輝く杖がある。
「あっ、ケレグ。
ようやく見つけた!」
レイラさんは言った。
「私はケレグントです」
ハイエルフのケレグントさんは言った。
マデリンさんは、スカートに厚手のスパッツ。女性冒険者が良く着ている服だった。
だが、胸元が大きく開いている。
この穴はなんですかと聞いてはいけない。
服飾造形というヤツだからだ。
……トレイシーだって、今日は普通のズボンをはいていたんだが。
「あらぁ、ケレケレちゃんじゃない。
また太ったかなあ?」
マデリンさんは言った。
「私はケレグントです」
ケレグントさんは言った。
3人は顔見知りだった。
レイラさんとマデリンさんは、ケレグントを隅の方へ引っ張って行き、あれこれ相談し始めた。
何話しているんだろう?
興味はある。
あるんだが、3人の強者から、近寄るな危険オーラが出ている。
うーん。
キンバリーは僕達のところまで降りてきた。
「お疲れ様、キンバリー。
コイチロウさんの容態はどう?」
僕は言った。
「コイチロウさんはマデリン印の特製毒消しが効いて、すっかり良くなった」
食屍鬼の毒を解毒する薬か。
流石ロイメ一の薬屋マデリンさんだ。
「良くなったのなら、兄者は何をしておるのだ?」
コサブロウさんが聞いた。
「コイチロウさんは、ザクリー・クランマスターが連れて行った。
第二層に潜っている冒険者達を、どうやって救援するか皆で話をしている。
トビアスさんとネイサンさん、あとシオドアも一緒にいた」
キンバリーは答えた。
「話はどんな感じだった?」
僕は聞いた。
「ザクリー・クランマスターは早めの救援部隊派遣を主張していた。
第五層にいるエルフ族やドワーフ族の一軍を待つべきだと言ってるヒトもいる。
あと、第二層の救援自体、危険だし無理だという意見もある」
困ったな。
ケレグントさんの話を参考にするなら、今が救援部隊を派遣のチャンスである。
でも、僕はここを離れられないし。
「ずるいぞ、兄者。俺も混ぜろ。
クリフ殿、上に行っても良いか?
早めに救援を出した方が良いとも伝えてくる」
コサブロウさんが言う。
願ってもないことである。
僕は頷き、コサブロウさんは足早に階段を登って行く。
反対に、レイラさんとマデリンさんは、階段を降りて来た。
降りる途中で、デイジーの頭を撫でる。
デイジーは嬉しそうに尻尾を振った。
「上のトロい連中に付き合ってられない。
マデリン、とっとと決着をつけわよ」
レイラさんは宣言した。
「わかったぁ、レイラちゃん。
マデリン、第二層嫌いだし、早い方がいいや」
マデリンさんが同意する。
そして、2人は僕の張った聖属性結界の前に立つ。
あ、これ、止められないパターンだ。
僕は防御魔術しか使えないし。
「ちょぉぉっと待ったァァ!!
店主、何、余計なことしてるんですカ!」
その時、階段を駆け降りて来たるは、『緑の仲間』のエルフの魔術師セリアさん!
このタイミングでストップをかけるとは、……猛者だ。
しかし、レイラさんとマデリンさん、2人は止まら、……あ、止まった。
「何よぉ、セリアちゃん。
マデリン何もしてないしぃ」
「まだしてなくてモ、しようとしてまシタよ!
ジェシカ先生から見張っとけ、余計なことさせるなって言われてるんデス」
「ブーブー。マデリン別に悪いことしようとしてないもん。
レイラちゃんの依頼で、ちょっとゾンビを片付けるだけだもん」
「とっととやっちゃって、マデリン。
依頼通りやってくれれば、あたしが貸してる分の借金は棒引きするわ」
ここでレイラさんが脇から言う。
「了解」
マデリンさんはヤル気である。
多分あれだよね、水の刃。
北の草原で、ゾンビを全滅させた魔術。
「レイラさん、そんなことしたラどうなるか分かってるんデスか?」
セリアさんは問い詰める相手をレイラさんに変えた。
「ゾンビが片付けば、食屍鬼が残るだけよ。
見通しが良くなるし、冒険者達は、食屍鬼狩りに第二層に繰り出すんじゃない?
魔石ラッシュかもね」
レイラさんは答える。
「今はダンジョンが溢れている特別な時のです。
欲にかられた冒険者達が、無秩序に潜るのは危険デス」
「食屍鬼の毒に効く毒消しは持ってきた。
冒険者が欲で動くのは当たり前。
危険が怖いなら、そもそもダンジョンに潜っちゃダメよ。
ここはダンジョンの神の手のひらの上なんだから」
「だからこそ、皆さん救援のために話し合っているのデスよ」
「あいつらトロいんだもの。
あたしの見たところ、Sランク会議の結果は当分出ないわよ。
だいたいメンバーの半分ぐらい居ないし」
「なぜ、竜殺しのレイラさんはSランクじゃないんだろう?」
僕はこっそりキンバリーに聞く。
「パトリシア・コーウェルが反対していた。
レイラさん自身もSランクに興味ないみたい」
キンバリーはヒソヒソ声で教えてくれた。
そうこうしているうちに、いくつかの冒険者パーティーが階段を降りて来た。
「食屍鬼は、割と魔石が出るらしいな」
「『アンデッドバスターズ』だけに幸運を独占させとくわけにはいかないぞ」
「ゾンビは無視ぃ、やるぞぉ!」
どうやら、『アンデッドバスターズ』の食屍鬼狩りは、上でも話題になったようだ。
「コジロウ兄者!クリフ殿!」
冒険者に混じって、コサブロウさんが降りて来た。
「コイチロウ兄者から伝言だ。
なんとかマデリン殿とレイラ殿を止めてくれ」
「無理だな」
コジロウさんは即答し、そして続ける。
「ナガヤ家の家訓を思い出せ。
『絶対勝てない相手とは戦わない』
レイラ殿とマデリン殿には勝てぬ。
冒険者ギルドの方を何とかせよと、コイチロウ兄者に伝えよ。
足止めはできる限りする」
どうでも良い話ですが。
ダンジョンに潜る時の服装は、
ズボン派
キンバリー、ホリー、トレイシー、ヘンニ、レイラ
スカート・スパッツ派
メリアン、ネリー、セリア、マデリン、ユーフェミア
と考えています。